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闇路の星
Strange attack
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「何もないように見えるけど…」
きょろきょろと辺りを見回しながら、つむぎはつぶやいた。山の中、少し開けた広場のような場所で、商人たちが焚き火の周りで楽しそうに話をしているだけだ。来た方の山道にも、これから進む山道にも、これといって変わったものは見えない。そもそも人影すら見えない。天に向かって、青々とした葉を広げている木や、ごつごつとした岩があるだけだ。魔力探知を行ってみても、特に妙な光はなかった。
〔だから妙って言ってるんだよ。魔力も何も感じないのに、膨大な魔力の気配がする。矛盾してるんだ〕
もどかしそうにリルが言った。つむぎはうーんと考えた。
「リルみたいに魔力を隠蔽してる魔法使いが、たまたまこの近くを通りかかってるとかじゃなくて?」
〔いや、たぶん、元の魔力量は、魔法使いが持ち得ている魔力よりも遥かに少ない。でも、それに大量の魔力が重なってる気がするんだ。魔力探知には全然引っかからないけど。魔導具じゃないだろうし…〕
リルがぶつぶつとつぶやきだす。ますます話がよくわからなくなった。つむぎの混乱を悟ったのか、リルが強い口調でまとめた。
〔とにかく、護衛の人たち呼んできて。襲撃に備えなきゃ〕
つむぎはよくわからないなりにうなずいて、明るく燃え盛っている焚き火の方へと向かった。どう伝えようか?鏡が言っていたとも言えないし…。つむぎは悩んだ。そもそも何が起きているのかもわからない自分が、上手く説明できるのだろうか。
そのとき、眠っていたはずのヴィザが急に目を覚まし、甲高い声でチィ!と短く鳴いた。ポケットから顔を出し、油断のない目つきで辺りを見回している。
「ヴィザ?」
少し驚いて、つむぎは止まった。何か起きたのだろうか。いや、何が起きたのだろうか。うっすらと感じていた、なんともいえない不安が急に近づいてきた気がして、つむぎはこわごわと辺りを見回した。
そのとき、前方の山道に生えている木々から、急に鳥たちがばさばさと飛び立った。
〔つむぎ、しゃがんで!〕
リルが突然叫んだ。意図がわからないつむぎだったが、とりあえず素早くその指示に従った。その頭上を何かがヒュンとかすめていく。これは…。
「矢?」
つむぎは困惑しながらも、急いで矢の届かなさそうな巨木の陰に逃げた。あっちが大きく場所を変えない限り、しばらくは安全だろう。でも、わかっていても、まだ手が冷たく震えている。つむぎは急いで自分を落ち着かせた。大丈夫、自分は冷静だ。なら、考えろ、何が起きた?
まず、矢を使うということは、魔物ではないだろう。ならば、人間だ。山中で襲ってくる人間といえば、
「盗賊?でも、リルが気づかないなんておかしいね」
〔うん。でも、盗賊っていうのは合っていると思う。矢を撃ってきた方に、人影が見えた。あの体つきや筋肉のつき方からして、間違いなく山を毎日歩いている人間だと思うよ〕
つむぎは心の中で舌を巻いた。そんなの全然見えなかったし、気づかなかった。
「よく見えたね」
〔君の視界をちょっとだけ借りただけだよ。でも、盗賊にしてはおかしすぎる〕
「どういうこと?」
視界を借りられていたというのは少し驚きだが、そんなことを考えている暇はない。つむぎは急かした。ぶすりと、矢が巨木に刺さる音が聞こえたからだ。早く敵の情報を分析して、対処しなければ。
〔盗賊が潜んでいる場所っていうのは、だいたい決まっていてね。あえて外してくるのもいるけど、たいていは昔から使われている、狭い山道とか、切り通しとか、襲いやすい場所を使ってる。でも、ここはそんな場所じゃない。しかも、さっき言った通り、魔力の気配が奇妙だ。もっと言うなら、君のいない間になぜ襲わなかった?結構時間はあったはずなのに〕
つまり、普通の盗賊ではないということか。矢が何本も周りに突き刺さってくる音を聞きながら、つむぎは考え込んだ。
「何でだろう。変わった指揮官がいるとか?それとも、報酬を払って、私たちを狙うように命令した誰かがいるとか?でも、そんなに価値のあるものは運んでいないよね」
〔つむぎ、こういうときだけ、よくそこまで考えられるよね。いっつもぽんやりしてるのに〕
感心したようにリルが言うが、褒められた気は全くしない。つむぎはむくれそうになるのをこらえて、リルにたずねた。
穴?何だろうか。つむぎは自分の考えをもう一度見直した。特に矛盾はないと思うが。
「リルはどう思うの?」
〔君の仮説は、どっちもおおむね正しいと思うけど、一つ穴があるね〕
〔矛盾とかじゃない。価値のあるもの、あるじゃないか〕
「何?薬草?川魚の干物?干し果物?それとも蜂蜜?〈万治花〉も万能薬も、少ししかないよ」
「価値のあるもの」というのが思いつかず、つむぎはやけになってきた。どれもそれなりの値段はつくだろうが、盗賊たちが奇妙な行動を取る理由ほどにはならないはずだ。でも、積荷の内容はこれで全部だし…。馬とかだろうか。
〔全部的外れ。君だよ、君〕
呆れたようにリルが答える。自分?つむぎは一瞬混乱した。どういうことだろうか。しかし、少し考えてみるとリルの言いたいことは、つむぎにもすぐにわかった。リルの言っていたことを思い出す。
「予言の少女、だっけ?ってことは、フェリクールさん…」
〔そう。私も考えてみたけれど、やっぱりその線が一番濃そうだ。盗賊たちをけしかけた方法とか、魔力の違和感とかの正体はわからないけどね〕
それならば、相手の狙いは自分だということか。なら、自分が逃げれば、隊商から盗賊たちを引き離すことができるのではないだろうか。そうすれば、その間に隊商の人たちや馬車を逃がすことができる。つむぎはその考えにうなずきかけて、やめた。盗賊は一人だけではないだろうし、自分を追ってくるという確証もない。
なら、隊商の人たちに被害が出る前に、急いで倒すしかない。
「敵は何人くらいいるの?」
〔ごめんね、わかんない。でも、あの焚き火の周りを囲んで、ざっと二十人くらいじゃないかな。もちろん、立体的にね。あーあ、こんなことなら、隊商の人たちの視界、ハイジャックしとけば良かったな〕
リルが残念そうに、物騒なことをさらりとつぶやく。つむぎは考えた。リルの憶測はだいたい合っているから、たぶんその通りだろう。ならば、護衛の人たちと協力して、魔法で頑張れば倒せるかもしれない。つむぎはそっと木の陰から立ち上がろうとした。早く行かなければ。
そのとき、目の前にぬっと人影が現れた。
きょろきょろと辺りを見回しながら、つむぎはつぶやいた。山の中、少し開けた広場のような場所で、商人たちが焚き火の周りで楽しそうに話をしているだけだ。来た方の山道にも、これから進む山道にも、これといって変わったものは見えない。そもそも人影すら見えない。天に向かって、青々とした葉を広げている木や、ごつごつとした岩があるだけだ。魔力探知を行ってみても、特に妙な光はなかった。
〔だから妙って言ってるんだよ。魔力も何も感じないのに、膨大な魔力の気配がする。矛盾してるんだ〕
もどかしそうにリルが言った。つむぎはうーんと考えた。
「リルみたいに魔力を隠蔽してる魔法使いが、たまたまこの近くを通りかかってるとかじゃなくて?」
〔いや、たぶん、元の魔力量は、魔法使いが持ち得ている魔力よりも遥かに少ない。でも、それに大量の魔力が重なってる気がするんだ。魔力探知には全然引っかからないけど。魔導具じゃないだろうし…〕
リルがぶつぶつとつぶやきだす。ますます話がよくわからなくなった。つむぎの混乱を悟ったのか、リルが強い口調でまとめた。
〔とにかく、護衛の人たち呼んできて。襲撃に備えなきゃ〕
つむぎはよくわからないなりにうなずいて、明るく燃え盛っている焚き火の方へと向かった。どう伝えようか?鏡が言っていたとも言えないし…。つむぎは悩んだ。そもそも何が起きているのかもわからない自分が、上手く説明できるのだろうか。
そのとき、眠っていたはずのヴィザが急に目を覚まし、甲高い声でチィ!と短く鳴いた。ポケットから顔を出し、油断のない目つきで辺りを見回している。
「ヴィザ?」
少し驚いて、つむぎは止まった。何か起きたのだろうか。いや、何が起きたのだろうか。うっすらと感じていた、なんともいえない不安が急に近づいてきた気がして、つむぎはこわごわと辺りを見回した。
そのとき、前方の山道に生えている木々から、急に鳥たちがばさばさと飛び立った。
〔つむぎ、しゃがんで!〕
リルが突然叫んだ。意図がわからないつむぎだったが、とりあえず素早くその指示に従った。その頭上を何かがヒュンとかすめていく。これは…。
「矢?」
つむぎは困惑しながらも、急いで矢の届かなさそうな巨木の陰に逃げた。あっちが大きく場所を変えない限り、しばらくは安全だろう。でも、わかっていても、まだ手が冷たく震えている。つむぎは急いで自分を落ち着かせた。大丈夫、自分は冷静だ。なら、考えろ、何が起きた?
まず、矢を使うということは、魔物ではないだろう。ならば、人間だ。山中で襲ってくる人間といえば、
「盗賊?でも、リルが気づかないなんておかしいね」
〔うん。でも、盗賊っていうのは合っていると思う。矢を撃ってきた方に、人影が見えた。あの体つきや筋肉のつき方からして、間違いなく山を毎日歩いている人間だと思うよ〕
つむぎは心の中で舌を巻いた。そんなの全然見えなかったし、気づかなかった。
「よく見えたね」
〔君の視界をちょっとだけ借りただけだよ。でも、盗賊にしてはおかしすぎる〕
「どういうこと?」
視界を借りられていたというのは少し驚きだが、そんなことを考えている暇はない。つむぎは急かした。ぶすりと、矢が巨木に刺さる音が聞こえたからだ。早く敵の情報を分析して、対処しなければ。
〔盗賊が潜んでいる場所っていうのは、だいたい決まっていてね。あえて外してくるのもいるけど、たいていは昔から使われている、狭い山道とか、切り通しとか、襲いやすい場所を使ってる。でも、ここはそんな場所じゃない。しかも、さっき言った通り、魔力の気配が奇妙だ。もっと言うなら、君のいない間になぜ襲わなかった?結構時間はあったはずなのに〕
つまり、普通の盗賊ではないということか。矢が何本も周りに突き刺さってくる音を聞きながら、つむぎは考え込んだ。
「何でだろう。変わった指揮官がいるとか?それとも、報酬を払って、私たちを狙うように命令した誰かがいるとか?でも、そんなに価値のあるものは運んでいないよね」
〔つむぎ、こういうときだけ、よくそこまで考えられるよね。いっつもぽんやりしてるのに〕
感心したようにリルが言うが、褒められた気は全くしない。つむぎはむくれそうになるのをこらえて、リルにたずねた。
穴?何だろうか。つむぎは自分の考えをもう一度見直した。特に矛盾はないと思うが。
「リルはどう思うの?」
〔君の仮説は、どっちもおおむね正しいと思うけど、一つ穴があるね〕
〔矛盾とかじゃない。価値のあるもの、あるじゃないか〕
「何?薬草?川魚の干物?干し果物?それとも蜂蜜?〈万治花〉も万能薬も、少ししかないよ」
「価値のあるもの」というのが思いつかず、つむぎはやけになってきた。どれもそれなりの値段はつくだろうが、盗賊たちが奇妙な行動を取る理由ほどにはならないはずだ。でも、積荷の内容はこれで全部だし…。馬とかだろうか。
〔全部的外れ。君だよ、君〕
呆れたようにリルが答える。自分?つむぎは一瞬混乱した。どういうことだろうか。しかし、少し考えてみるとリルの言いたいことは、つむぎにもすぐにわかった。リルの言っていたことを思い出す。
「予言の少女、だっけ?ってことは、フェリクールさん…」
〔そう。私も考えてみたけれど、やっぱりその線が一番濃そうだ。盗賊たちをけしかけた方法とか、魔力の違和感とかの正体はわからないけどね〕
それならば、相手の狙いは自分だということか。なら、自分が逃げれば、隊商から盗賊たちを引き離すことができるのではないだろうか。そうすれば、その間に隊商の人たちや馬車を逃がすことができる。つむぎはその考えにうなずきかけて、やめた。盗賊は一人だけではないだろうし、自分を追ってくるという確証もない。
なら、隊商の人たちに被害が出る前に、急いで倒すしかない。
「敵は何人くらいいるの?」
〔ごめんね、わかんない。でも、あの焚き火の周りを囲んで、ざっと二十人くらいじゃないかな。もちろん、立体的にね。あーあ、こんなことなら、隊商の人たちの視界、ハイジャックしとけば良かったな〕
リルが残念そうに、物騒なことをさらりとつぶやく。つむぎは考えた。リルの憶測はだいたい合っているから、たぶんその通りだろう。ならば、護衛の人たちと協力して、魔法で頑張れば倒せるかもしれない。つむぎはそっと木の陰から立ち上がろうとした。早く行かなければ。
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