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幻惑の花園
Good morning
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「ソーニャ、目を覚ませ!」
アスターは声の限り叫んだ。目覚める気配はない。全く、相棒の寝覚めが悪いと大変だ。例えば、地面から伸びてきたツルに縛られている場面で苦労する。せっかく頑張って声を張り上げたのに、無駄だったようだ。仕方がない。アスターは、ソーニャを縛っているツルを力任せに噛んで引っ張った。
その甲斐あったのか、一秒後、青と金の瞳が目の前に現れた。
「やっぱり君、寝覚め悪いね」
戸惑ったように、ソーニャはアスターを見た。何か言おうとしたようだったが、アスターはさえぎった。無駄なお喋りをしている時間はない。段々と強く締め付けてくるツルに抗いながら、声を出す。
「さっそくだけど、このツル、切れるかい?」
「わかった」
ソーニャは優雅な仕草で懐からナイフを取り出した。と思った瞬間、目にも止まらない動作でツルを断ち切った。はらはらとツルの残骸が〈幻香草〉の上に落ちる。
「ありがとう、やっぱすごいね」
アスターは締め付けられていた手足を揉みながら、礼を言った。返答が遅い。アスターはどうしたのか気になってソーニャを見た。何か考え込んでいる様子だ。
「大丈夫?」
「あ、まぁ。ごめん」
ソーニャがナイフを戻しながら、ぼそりとつぶやいた。
「え?」
アスターは一瞬、言葉を放ったのがソーニャだとは信じられなかった。謝ったりなんかはしないタイプだと思っていたのだ。それに、謝罪をする理由がわからなかった。
「夢だとわかってるのに、夢から出ようとしなかった。幻影に取り憑かれてた」
「別にいいだろ。結果として生きてるんだから」
アスターは呆れた。どんなことを言うのかと思ったら、それだけか。拍子抜けしてしまう。ふと、気になってアスターはたずねた。
「そういえば、君ってどんな夢を見たんだい?」
「幸せに暮らす夢だよ」
どこか愁いを帯びた声色で、ソーニャが答える。なんだか詮索しては悪そうだ。アスターは質問したいのを我慢した。しばらくして、ソーニャがたずねた。
「あんた、どうやって夢から覚めたんだ?死んだのか?」
「うん。君みたいに刃物を常時携帯してるわけじゃないから、飛び下り自殺だったけど」
ソーニャはなんとも言えない目つきでアスターを見た。風がなんとなく冷たく感じる。
「躊躇なく死ねたのか?」
「まぁ、夢だしね。どうなるか知りたかったし。そうだ、夢から気がついたんだけど、わたしたち〈ハウス〉の中心に向かってるよね?」
アスターは夢で気がついたことをソーニャに話し出した。
「‥あぁ」
「前の階層では歩いた距離的に、〈ハウス〉の中心部にいたはずなんだ。でも、この階層に降りてきたときは、端からスタートだった。おかしいんだよ」
ソーニャは考え込むように俯いた。訥々とつぶやく。
「ずれてるのか、もしくは空間が歪んでるのか‥。あんた、ここは〈ハウス〉のどこだと思う?」
「西の辺り。ただの勘だけど」
アスターの言葉に、ソーニャは軽く頷いた。
「量子力学とか応用してるのかもしれないな。オレの仮想ポケットとかと同じ原理だ。空間を思い通りに歪ませて、自分の思い通りに扱う」
「そんなに進んでたんだ。本当にSFみたいだね」
アスターは感心した。進んだ科学は魔法と区別がつかないという言葉を本で読んだことがある。その言葉は、真実なのかもしれない。
「昔は量子力学の発展イコール軍隊強化だったからな。あんたが思ってるよりも、かなり進んでるんだよ。
それはそうと、オレも気がついたことがある。監視者の正体は、〈ハウス〉だ」
「え?〈ハウス〉自体が?」
アスターはソーニャの導き出した結論の意味がわからずに、ただ聞き返した。
「そうだよ。オレたち、変なガスを吸い込んで眠くなったよな?あれ、風上から来てるんだ。おそらくは〈ハウス〉が管理してる機械の仕業だと思う。仮説だけど、あれは侵入者用の罠だ。侵入者の望みが叶っている世界の夢を見させる罠だな。なかなかいい性格してるよな」
自虐するようにふっとソーニャは笑った。誰にともなく、話を続ける。
「この罠は、たぶん捕縛用のものだ。層が浅いからかな。でも、もっと潜っていけば、危ない罠も増えるだろうな。それこそ、命に関わるような」
「スリリングでいいねぇ」
「呑気だな」
呆れたようにソーニャが言う。アスターは肩をすくめた。もともとそういう覚悟は決めて来ているのだ。それに、何があっても、ソーニャと頑張ればなんとかできそうな気がする。別に根拠はないけれど。
「じゃ、冒険の続きと行こうじゃないか。ここで終わりはもったいないだろ?」
アスターは花畑に足を進めた。
アスターは声の限り叫んだ。目覚める気配はない。全く、相棒の寝覚めが悪いと大変だ。例えば、地面から伸びてきたツルに縛られている場面で苦労する。せっかく頑張って声を張り上げたのに、無駄だったようだ。仕方がない。アスターは、ソーニャを縛っているツルを力任せに噛んで引っ張った。
その甲斐あったのか、一秒後、青と金の瞳が目の前に現れた。
「やっぱり君、寝覚め悪いね」
戸惑ったように、ソーニャはアスターを見た。何か言おうとしたようだったが、アスターはさえぎった。無駄なお喋りをしている時間はない。段々と強く締め付けてくるツルに抗いながら、声を出す。
「さっそくだけど、このツル、切れるかい?」
「わかった」
ソーニャは優雅な仕草で懐からナイフを取り出した。と思った瞬間、目にも止まらない動作でツルを断ち切った。はらはらとツルの残骸が〈幻香草〉の上に落ちる。
「ありがとう、やっぱすごいね」
アスターは締め付けられていた手足を揉みながら、礼を言った。返答が遅い。アスターはどうしたのか気になってソーニャを見た。何か考え込んでいる様子だ。
「大丈夫?」
「あ、まぁ。ごめん」
ソーニャがナイフを戻しながら、ぼそりとつぶやいた。
「え?」
アスターは一瞬、言葉を放ったのがソーニャだとは信じられなかった。謝ったりなんかはしないタイプだと思っていたのだ。それに、謝罪をする理由がわからなかった。
「夢だとわかってるのに、夢から出ようとしなかった。幻影に取り憑かれてた」
「別にいいだろ。結果として生きてるんだから」
アスターは呆れた。どんなことを言うのかと思ったら、それだけか。拍子抜けしてしまう。ふと、気になってアスターはたずねた。
「そういえば、君ってどんな夢を見たんだい?」
「幸せに暮らす夢だよ」
どこか愁いを帯びた声色で、ソーニャが答える。なんだか詮索しては悪そうだ。アスターは質問したいのを我慢した。しばらくして、ソーニャがたずねた。
「あんた、どうやって夢から覚めたんだ?死んだのか?」
「うん。君みたいに刃物を常時携帯してるわけじゃないから、飛び下り自殺だったけど」
ソーニャはなんとも言えない目つきでアスターを見た。風がなんとなく冷たく感じる。
「躊躇なく死ねたのか?」
「まぁ、夢だしね。どうなるか知りたかったし。そうだ、夢から気がついたんだけど、わたしたち〈ハウス〉の中心に向かってるよね?」
アスターは夢で気がついたことをソーニャに話し出した。
「‥あぁ」
「前の階層では歩いた距離的に、〈ハウス〉の中心部にいたはずなんだ。でも、この階層に降りてきたときは、端からスタートだった。おかしいんだよ」
ソーニャは考え込むように俯いた。訥々とつぶやく。
「ずれてるのか、もしくは空間が歪んでるのか‥。あんた、ここは〈ハウス〉のどこだと思う?」
「西の辺り。ただの勘だけど」
アスターの言葉に、ソーニャは軽く頷いた。
「量子力学とか応用してるのかもしれないな。オレの仮想ポケットとかと同じ原理だ。空間を思い通りに歪ませて、自分の思い通りに扱う」
「そんなに進んでたんだ。本当にSFみたいだね」
アスターは感心した。進んだ科学は魔法と区別がつかないという言葉を本で読んだことがある。その言葉は、真実なのかもしれない。
「昔は量子力学の発展イコール軍隊強化だったからな。あんたが思ってるよりも、かなり進んでるんだよ。
それはそうと、オレも気がついたことがある。監視者の正体は、〈ハウス〉だ」
「え?〈ハウス〉自体が?」
アスターはソーニャの導き出した結論の意味がわからずに、ただ聞き返した。
「そうだよ。オレたち、変なガスを吸い込んで眠くなったよな?あれ、風上から来てるんだ。おそらくは〈ハウス〉が管理してる機械の仕業だと思う。仮説だけど、あれは侵入者用の罠だ。侵入者の望みが叶っている世界の夢を見させる罠だな。なかなかいい性格してるよな」
自虐するようにふっとソーニャは笑った。誰にともなく、話を続ける。
「この罠は、たぶん捕縛用のものだ。層が浅いからかな。でも、もっと潜っていけば、危ない罠も増えるだろうな。それこそ、命に関わるような」
「スリリングでいいねぇ」
「呑気だな」
呆れたようにソーニャが言う。アスターは肩をすくめた。もともとそういう覚悟は決めて来ているのだ。それに、何があっても、ソーニャと頑張ればなんとかできそうな気がする。別に根拠はないけれど。
「じゃ、冒険の続きと行こうじゃないか。ここで終わりはもったいないだろ?」
アスターは花畑に足を進めた。
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