22 / 32
がらくた広場
Weird
しおりを挟む
「ここからは、マイナス〈第三階層〉だね」
鹿打ち帽の隙間から麦わら色の髪を覗かせながら、アスターが言う。
「そうだな」
「何があるのかな。わかんないけど楽しみ」
わくわくしたように、アスターははしごを下っていった。
わからないのはこっちもだ。もっとも、その正体を知るのが楽しみというわけではない。ソーニャは頭の中でため息をついた。本当にアスターのことがわからない。
特に、いつもは平和ボケの代名詞と言っても過言ではないほど能天気なのに、時折氷のような冷たさを見せるのが不気味だ。さっきのこともそうだ。夢での死について語っていたとき、瞳が奇妙に紅く輝いていたことにアスターはたぶん気がついていない。あの輝きのことはよく知っている。あれは、人を躊躇なく殺せる人物の目だ。
ソーニャは思案に沈みながら、はしごを下っていった。今後のことを考えるならば、〈ハウス〉のエネルギーを探し出した時点で、アスターを殺しておいた方が良いのかもしれない。敵になりうる可能性は充分にある。彼女の好奇心は、間違いなく危険なものだ。
「何ぼーっとしてるのさ、早く行くよ」
下からアスターの声が聞こえてきて、ソーニャは我に返った。
「今行く」
急いで金属のはしごを降りる。
下には、広い空間が広がっていた。ところどころについている電気のランプのおかげで、そこに何があるのかぼんやりとわかる。
「すごいね、これ全部がらくただよ」
楽しそうにアスターが言った。ソーニャはうなずいた。
どこまで続くかわからないようなこの空間には、雑多なものたちが大量に捨てられていた。古くなった布切れに、紙切れ、カビの生えた缶など、何に使うのかわからないようなものがたくさんある。
「これ、あんたらが出したごみなのか?」
ふと気になってソーニャはたずねた。
「ううん。〈ハウス〉では大方のものがリサイクルされるから、違うと思う。化学系のものでは例外もあるけどね。たぶんこれ、すごく昔のものだよ。何かに使えるかもしれないから、〈創始者〉たちが取っておいたんじゃないかな」
アスターが興味深そうにしゃがんで、がらくたを手に取った。そんな様子を横目に、ソーニャは周りを見回した。特に罠があるわけでもなさそうだが、油断はできない。がらくたの中に爆弾なんかがある可能性もある。
「あ、これ見て!はさみがあった」
アスターの声に、ソーニャは振り返った。錆びついたはさみを持って、アスターが喜んでいる。
「これならまたツルに捕まっても、大丈夫じゃない?」
「そうかもな」
ソーニャはがらくたの山を注意深く観察した。刃物もあるなら、ますます用心しなければ。刃物を使った罠もあるかもしれない。もしかしたら、銃器を使ったものも。
「それより、こっちの方がいいんじゃないか。ナイフあるぞ」
ソーニャは錆びついたナイフを拾い上げた。アスターに凶器を持たせるのは少し不安だが、いざというときに足手まといになられたら困る。
「ナイフなら君の専門だろ。はさみならわたしでも使えるし」
ちょきちょきとアスターがはさみを動かした。ソーニャは肩をすくめた。まぁ、別に良いか。
「それで、どっちに行けばいいんだ?」
「こっちだよ、たぶ」
アスターがそう言いかけたとき、空気がわずかに揺らいだ。ソーニャは反射的に、アスターを押し倒した。自分も体を伏せる。
「いきなり何だよ。恋人気分かい?」
アスターが顔をしかめてソーニャを見上げた。ソーニャは全力で首を振った。
「安心してくれ、そんなことは世界が終わったとしても起きないからな」
ソーニャは隣の山にずぶりと突き刺さっている包丁を指さした。
「ちょいと包丁が飛んできたものでね」
「物騒だねぇ」
アスターはやれやれと頭を振りながら立ち上がった。
「ボディガード君、これからもよろしくね」
「こちらこそ」
何度かその系統の罠に出くわしながら歩みを進めていると、妙なものが見えてきた。ソーニャは用心して立ち止まった。新しい罠だろうか。
「アスター、ここって中心部か?」
「ううん、まだ。なんか降りてく度に遠くなってるよね。どうかしたの?」
「変なドアが見えるんだ。心当たりとかあるか?」
ソーニャは前方のがらくたの山に見える扉を指さした。ごみに隠れるようにひっそりと立っている。
「ほんとだ、あるね。ソーニャ、入ってみよ」
ソーニャに反論をする隙も与えず、アスターはそこへ走っていった。
「開けた瞬間、何かが襲ってきたらどうするんだ?新しい罠かもしれないぜ」
ソーニャは呆れ返りながら近づいた。この危機感のなさには一周回って感銘を受けてしまう。そんな自分の様子も気にせずに、アスターはにっこりと笑った。
「そうなったら親愛なるボディガード君に頼るよ。よろしくね」
思わずソーニャは苦笑してしまった。目の前の相手は、自分のことを殺そうとしている相手を信頼しきっているのだ。何と返せば良いのかわからない。
「オープン!」
高らかに宣言して、アスターが扉を開けた。扉の中には、暗い通路が待ち受けていた。なんとなく、罠ではなさそうだ。
「罠じゃなさそうだけど、次の階層に向かう場所ってわけでもなさそうだな」
ソーニャは通路を覗き込みながら首を傾げた。ここはいったい何のためにあるのだろうか。
「裏ルートとか?とにかく行ってみようよ」
「エネルギーのある場所に到着できればありがたいけどな」
わくわくしたようにどんどん進んでいくアスターを、ソーニャは追いかけた。
鹿打ち帽の隙間から麦わら色の髪を覗かせながら、アスターが言う。
「そうだな」
「何があるのかな。わかんないけど楽しみ」
わくわくしたように、アスターははしごを下っていった。
わからないのはこっちもだ。もっとも、その正体を知るのが楽しみというわけではない。ソーニャは頭の中でため息をついた。本当にアスターのことがわからない。
特に、いつもは平和ボケの代名詞と言っても過言ではないほど能天気なのに、時折氷のような冷たさを見せるのが不気味だ。さっきのこともそうだ。夢での死について語っていたとき、瞳が奇妙に紅く輝いていたことにアスターはたぶん気がついていない。あの輝きのことはよく知っている。あれは、人を躊躇なく殺せる人物の目だ。
ソーニャは思案に沈みながら、はしごを下っていった。今後のことを考えるならば、〈ハウス〉のエネルギーを探し出した時点で、アスターを殺しておいた方が良いのかもしれない。敵になりうる可能性は充分にある。彼女の好奇心は、間違いなく危険なものだ。
「何ぼーっとしてるのさ、早く行くよ」
下からアスターの声が聞こえてきて、ソーニャは我に返った。
「今行く」
急いで金属のはしごを降りる。
下には、広い空間が広がっていた。ところどころについている電気のランプのおかげで、そこに何があるのかぼんやりとわかる。
「すごいね、これ全部がらくただよ」
楽しそうにアスターが言った。ソーニャはうなずいた。
どこまで続くかわからないようなこの空間には、雑多なものたちが大量に捨てられていた。古くなった布切れに、紙切れ、カビの生えた缶など、何に使うのかわからないようなものがたくさんある。
「これ、あんたらが出したごみなのか?」
ふと気になってソーニャはたずねた。
「ううん。〈ハウス〉では大方のものがリサイクルされるから、違うと思う。化学系のものでは例外もあるけどね。たぶんこれ、すごく昔のものだよ。何かに使えるかもしれないから、〈創始者〉たちが取っておいたんじゃないかな」
アスターが興味深そうにしゃがんで、がらくたを手に取った。そんな様子を横目に、ソーニャは周りを見回した。特に罠があるわけでもなさそうだが、油断はできない。がらくたの中に爆弾なんかがある可能性もある。
「あ、これ見て!はさみがあった」
アスターの声に、ソーニャは振り返った。錆びついたはさみを持って、アスターが喜んでいる。
「これならまたツルに捕まっても、大丈夫じゃない?」
「そうかもな」
ソーニャはがらくたの山を注意深く観察した。刃物もあるなら、ますます用心しなければ。刃物を使った罠もあるかもしれない。もしかしたら、銃器を使ったものも。
「それより、こっちの方がいいんじゃないか。ナイフあるぞ」
ソーニャは錆びついたナイフを拾い上げた。アスターに凶器を持たせるのは少し不安だが、いざというときに足手まといになられたら困る。
「ナイフなら君の専門だろ。はさみならわたしでも使えるし」
ちょきちょきとアスターがはさみを動かした。ソーニャは肩をすくめた。まぁ、別に良いか。
「それで、どっちに行けばいいんだ?」
「こっちだよ、たぶ」
アスターがそう言いかけたとき、空気がわずかに揺らいだ。ソーニャは反射的に、アスターを押し倒した。自分も体を伏せる。
「いきなり何だよ。恋人気分かい?」
アスターが顔をしかめてソーニャを見上げた。ソーニャは全力で首を振った。
「安心してくれ、そんなことは世界が終わったとしても起きないからな」
ソーニャは隣の山にずぶりと突き刺さっている包丁を指さした。
「ちょいと包丁が飛んできたものでね」
「物騒だねぇ」
アスターはやれやれと頭を振りながら立ち上がった。
「ボディガード君、これからもよろしくね」
「こちらこそ」
何度かその系統の罠に出くわしながら歩みを進めていると、妙なものが見えてきた。ソーニャは用心して立ち止まった。新しい罠だろうか。
「アスター、ここって中心部か?」
「ううん、まだ。なんか降りてく度に遠くなってるよね。どうかしたの?」
「変なドアが見えるんだ。心当たりとかあるか?」
ソーニャは前方のがらくたの山に見える扉を指さした。ごみに隠れるようにひっそりと立っている。
「ほんとだ、あるね。ソーニャ、入ってみよ」
ソーニャに反論をする隙も与えず、アスターはそこへ走っていった。
「開けた瞬間、何かが襲ってきたらどうするんだ?新しい罠かもしれないぜ」
ソーニャは呆れ返りながら近づいた。この危機感のなさには一周回って感銘を受けてしまう。そんな自分の様子も気にせずに、アスターはにっこりと笑った。
「そうなったら親愛なるボディガード君に頼るよ。よろしくね」
思わずソーニャは苦笑してしまった。目の前の相手は、自分のことを殺そうとしている相手を信頼しきっているのだ。何と返せば良いのかわからない。
「オープン!」
高らかに宣言して、アスターが扉を開けた。扉の中には、暗い通路が待ち受けていた。なんとなく、罠ではなさそうだ。
「罠じゃなさそうだけど、次の階層に向かう場所ってわけでもなさそうだな」
ソーニャは通路を覗き込みながら首を傾げた。ここはいったい何のためにあるのだろうか。
「裏ルートとか?とにかく行ってみようよ」
「エネルギーのある場所に到着できればありがたいけどな」
わくわくしたようにどんどん進んでいくアスターを、ソーニャは追いかけた。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる