白夜のからくりハウス

夕凪

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異形の村

Village and doubts

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「自己紹介が遅れていましたね。私はツクモと言います」
 歩きながら時計の男が言う。ソーニャはその動きをじっと観察していた。まだこの男の言う事を全て信用したわけではない。〈ハウス〉のマイナス階層にひっそりと暮らしていた時点で怪しすぎるし、姿形も奇妙だ。何かわけありな臭いがする。簡単に取り込まれてはいけないと、直感が告げていた。
 だからこそ、わずかな動きにも注目しなければ。癖や歩き方からわかる情報はたくさんある。まずは観察だ。
「ここには、ツクモさんみたいな人がたくさん住んでるんですね」
 アスターがきょろきょろと辺りを見回しながら不思議そうに言った。確かに、ここから見える住人たちは、ほとんど人外だ。獣の姿をした者もいるし、植物のような髪をした者もいる。明らかに普通の人間ではない。
「えぇ。異形の者たちで立ち上げた村ですからね。ざっと千二百年くらいは経っているでしょう」
 どうということもなさそうに、ツクモが言った。千二百年前。ソーニャは顔を上げた。〈ハウス〉が創設されたのもそのくらい前だったような気がする。つまり、この村は〈ハウス〉ができてからずっと続いているのだ。
「この村の外で生活しようとは思わないんですか?」
 ソーニャはさりげなくたずねた。この者たちが〈ハウス〉の居住層に向かわない理由を知りたかった。
「まぁ、出られないですからね」
 ツクモが肩をすくめた。どういうことだ?ソーニャは心の中で眉をひそめた。外の空気に合わないとか?そんな疑問をよそに、ツクモが続ける。
「あなたたち、入ってくるときに何かを通る感覚を覚えませんでした?それがあるので、私達は出られないんです」
 そういえば、そんなものがあった。あの妙な感覚だ。ソーニャは思い出した。しかし、それならばツクモたちは閉じ込められているということになる。誰に?何のために?〈創始者〉の仕業なのか?ますます疑問が増える。
「え?何で?誰がそんなことをしたんですか?」
 アスターが驚いたようにたずねた。
「まぁ、いろいろありまして。私達は別段今の生活に不満があるわけではないので、別にいいですがね」
 いろいろって便利な言葉だよな。ソーニャはそんなことを思いながら、辺りを見回した。入ってきた場所から見て、谷間のような位置にあるこの村は、中央の広場から道が放射線状に広がる造りになっている。その脇を抜けて、多種多様な素材で造られた家々が立ち並んでいる。家屋の数からして、ここの住人たちの人数はおよそ百人程度と言ったところか。
「そういえば、水とか食事はどうしてるんですか?」
 アスターが周りの家々を興味深そうに観察しながらたずねた。
「水は、〈ハウス〉の水道管から少しいただいています。食事は主に、果樹園の果物などですね。私達の中には、食べ物や水を必要としない者もかなりいますから、少ない物資で済むんです」
 ツクモが丁寧に答えた。違和感が加速するのを感じながら、ソーニャは頭を巡らせた。食べ物がいらないということは、別の何かで活動するということだ。しかし、この場所には、遥か遠くの天井にあるランプを除けば、電気もない。それ以前に、物資に余裕はなさそうだ。エネルギーになりそうなものは全く見当たらない。何を使って彼らは千二百年前から動いているんだ?
「不思議そうですね」
 面白そうにツクモがソーニャを見た。慌てて笑みを返す。怪しまれてはいけない、気をつけなければ。
「そういえば、今さらですが、あなたは〈ハウス〉の住人ではなさそうですね。どちらといえば、私の故郷の人々に似ています」
 故郷?何の話だ?ソーニャは首を傾げた。自分と妹は捨て子だ。気まぐれで自分たちを拾ってくれた、育ての老人だけが唯一親と呼べるものだった。故郷の心当たりなんかない。思わずたずねていた。
「故郷って、どこのことです?」
「あぁ、何でもないです。すみません」
 ツクモが軽く首を振った。何なんだ?気になって食い下がろうと口を開いた瞬間、ツクモに少女が楽しそうに声をかけてきた。見る場所によって色の変わる長い髪の間に、白い花がぽつりぽつりと咲いている。それ以外は普通のあどけない少女だ。
「その子達が、旅人さんたち?二人とも可愛いね」
「えぇ、まぁ、はい。こっちの少女が〈管理人〉見習いのアスター、そっちの少年がソーニャと言うそうです」
 ふーんと、好奇心旺盛な様子で少女がこっちを見た。
「私、パズラーン。よろしくね。こう見えて、千二百歳なんだよ」
 くるりと回って少女が笑った。アスターが驚いたように彼女の髪を見た。
「髪、すごく綺麗ですね。ラプンツェルみたい」
「でしょう?綺麗な髪って、私の憧れだったんだ」
 くすくすとパズラーンが笑う。
「そうだ、みんなが呼んでたよ。〈管理人〉さんたちの歓迎会しないとね」
 歓迎会?ソーニャはその言葉が気になって、思わずツクモを見上げた。彼は軽く頷いた。
「旅人のために歓迎会を開くのは当然でしょう。さぁ、いきましょう」
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