死にたがりの神様へ。

ヤヤ

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第八章 世界大戦

112.戦いは間もなく

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 ぱちり。
 目を開けたら、知らない天井が目に映った。
 いつもなら岩の壁があるのにと、一瞬悩んで理解する。ここが地上であることを。

 リレイヌはもぞりとベッドを抜け出すと、そのままクローゼットの方へ。そこにかけられた隊服を手に、そっと瞳を伏せて息を吐く。

 厚みのないカーテンの隙間からうすらと漏れる陽の光と、チュンチュンと鳴く小鳥のさえずり。
 共に朝であることを教えてくれるそれらをよそ、彼女は寝着から隊服に着替えると姿見の前へ。予め備え付けられていたゴムを手に取り、それで長くなった髪を括った。

「おーい、リレイヌー?」

 身支度を済ませると同時、部屋の外から声。急ぎ扉を開けたリレイヌの前、睦月が「よっす」と片手をあげる。その後ろにはアジェラの姿もあり、彼は眠たそうにこくりこくりと船を漕いでいた。

「おはよう、睦月。アジェラも」

「おはよう、ございます……」

「……眠そうだね」

「んまあ、昨日歓迎会と称してトランプやってたからな。夜中まで。お陰で皆寝坊だってさ。──そっちはよく寝れたか?」

「ああ、うん」

 頷き、リレイヌは視線を人が疎らな通路へ。向けてから、そういえばと睦月を見る。

「リックは? 一緒じゃなかったのかい?」

「リックは朝早くから総司令官殿に連れられてどっか行ったよ。ちなみにあいつノリ悪くてひとりだけ寝てた」

「……リックらしいな」

「まあな。ってか、お前その口調……」

 言いかけた睦月は、そのままキュッと口を閉ざして沈黙。したかと思えば、「まあいいけど」と横に視線をずらし、不満気な顔をした。
 リレイヌはそんな睦月に目を瞬き、「変かな?」とひとつ問うた。どこか泣きそうなそれに、睦月は「別に」と、ただそれだけを返し、踵を返す。

「とりまさっさと行こうぜ。なんか事前説明あるから早めに起きて来いってうんたらかんたら言ってたし」

「そうだね。でも、集合場所はわかるのかい?」

「昨日の食堂。ここ来る前にリンちゃん隊長が言ってた」

「……なるほど」

 頷くリレイヌ。そのまま歩く睦月とアジェラを追いかけ、彼女はゆっくりと通路を進む。

 ズキンズキン

 痛む胸元に、静かに手を添えた。

「んでだなぁ──お! 来たかお前ら!」

 三人で食堂に入ると、誰かと話していたリオルが陽気に片手を上げてそれを振った。三人は揃ってリオルに挨拶すると、次いで彼の傍で不満げに口をへの字に曲げている人物を見やる。

 それは、隊服を着た、謎の仮面を着けた人物だった。鳥のような特徴的なその仮面は黒と赤が混在しており、不思議な色合いとなっている。そんな仮面に白い筆でサッと描かれた独特な模様は、古代文字を使用したモノに違いない。

「……誰こいつ」

 睦月が問う。

「あれ? わかんね?」

 リオルが不思議そうに目を瞬いた。

「わかんね?、もなにも……こんな変な仮面着けてる奴身近にいたっけ?」

「変な仮面言うな。コレはれっきとした魔道具なんだぞ」

「魔道具ぅ??」

 なんじゃそら、と言いたげな睦月の傍、未だ眠たげなアジェラが「知ってます」と片手をあげた。

「魔道具は魔導……つまり、精霊の力を用いて造られた特殊な道具のことですよね……」

「そうそう。ちなみにコレ非売品な。んでもって道具的効果としては魔導や魔法といった力の強化と視野拡大などなど……」

「めっちゃ視界悪くなりそうなのに……変な道具だな」

 告げる睦月が、「で、だれ?」と腕を組んだ。そんな彼を鼻で笑った謎の人物は、「そんなことも分からないのか」と吐き捨てる。
 その聞き覚えのある声に、リレイヌがポツリと言った。
「リックかい?」、と。睦月が真顔になり、アジェラが「おお、確かに……」と欠伸混じりの言葉を漏らす。

「さすが、リレイヌはわかるか」

「まあ、なんとなく雰囲気で……」

「そうか」

 着けていた仮面を取り笑んだリック。そのお綺麗な顔に忌々しいと舌を打ち鳴らし、「なんでコイツだけこんなもんを」と睦月はリオルに抗議する。

「リックはリピト家現当主だからな。さすがに顔面晒して戦争に参加させるわけにゃいかんのよ」

「それはまあ、そうなんだろうけども……」

「……んま、いろいろ言いたいことはあんだろうけど、ひとまず飯でも食おうぜ。ココの食堂の飯、意外といけんだよなぁ~」

 のんびり告げて、リオルは立ち上がる。そうして食事の注文に行く彼を黙って見送り、四人はそっと顔を見合せた。

「てかお前なんか事前説明受けたわけ? この戦争に関しての……」

「いや、まだだ」

「なんだ使えねえな」

「なら貴様が聞けばいいだろ」

 睨み合うふたり。アジェラが「どうどう……」と落ち着かせようとする中、リレイヌはちらりと食堂の出入口を見て下を向く。

 戦いが、間もなくはじまる。
 その事実に、ひとり衣服の裾を握りしめた。
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