死にたがりの神様へ。

ヤヤ

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第四章 悪意は忍び寄る

61.狂う人

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 きっと、そう、この子は弱い子なんだと、そう思っていた。何かあればすぐに泣いてしまうような、脆い子なんだと、そう思っていた。

「ほぉら、かわい子ちゃん。怖かったら泣いてもいいのよぉ~?」

 バチン、バチン、と音がする。そんな空間。
 暗がりの中に存在する狭いそこで、縛られたリオルはもがくように体を捻じる。肌が擦れて赤くなろうが、皮膚が切れて血が出ようが、そんなことはお構い無しに足掻くリオル。そんなリオルを背に、ふたりの悪人はまだまだ小さな少女を見下ろし、笑った。浮かべられる歪な笑みを、少女は無表情でただ見つめる。

「もうすぐ空が暗くなる。それからだ。貴様を始末するのは。悪しき、悪しき黒龍よ。善を誑かした愚かなる悪よ。その命をもって、罪を償え」

 ウィリアムが笑う、わらう、ワラウ。
 ケラケラと、既におかしくなりかけている彼を隣、リピト家の者──リックの兄者はつまらなそうに腕を組む。

「この子、本当に今の状況わかってるのかしら? 子供なら普通怯えて泣き出さない?」

「……」

「それとも、怖すぎて涙も出ない感じ? やぁだ、私はアナタが苦しむ様を見たいのに、そんなんじゃ面白くないわ!」

 バチン、バチン

 音を鳴らして兄者は片手に持ったペンチを動かした。ちょっと痛めつければ泣くだろうか、なんて考えながらニヤつく兄者を、嘲笑うようにリレイヌは言う。

「──泣かない」

「……え?」

「泣いてどうにかなるなら泣いてもいい。けど、どうにもならないなら泣く必要なんてない。お前たちが喜ぶだけのエサを、私は与えるつもりは毛頭ない」

「……」

 ウィリアムが片足を上げ、少女の腹を蹴りあげる。
 しかし、少女は嘆くことは無い。軽く痛みに呻いたものの、すぐに顔を上げて己を見下ろすふたつの顔を睨みつける。

「……生意気なガキ」

 ほう、と片頬に手を当て、兄者は言った。バチン、ともう一度ペンチの音を鳴らした彼は、するりとリレイヌの傍へ。縛られた彼女の片耳にペンチの先を当てると、ニコリと笑ってソレを動かす。

 バチン。

 音が鳴り、赤が散る。
 リオルが息を飲んで少女の名を呼ぶ中、ニヤニヤと笑う兄者はそこで、少女を見下ろし目を見開く。

 あかく、赤く染まっていた。
 少女のガラス玉のような瞳が、赤く染まり果てていた。それはそう、いつかの本で目にしたことのある、龍の瞳と同じもの。

 縦長の瞳孔、真っ赤な瞳。
 向けられる殺意、感じる畏怖。

 額に冷や汗をかく兄者が、そっとペンチを握る手を引き、少女から距離をとる。何故だろう。何故だかものすごく怖くなって、身震いしてしまう自分がいた。普段ならそんなことは無いはずなのに、どうしたことか。

「……これが、神族……」

 ゴクリと唾を飲み込み、兄者は笑いを発した。おかしそうにケラケラと、狂気を得たように腹を抱えて笑うソレに、リオルはおかしなものでも見るような目を向ける。

「どうした?」

ウィリアムが問う。

「はは! ふふ……いいえ、なんでも……なんでもないわ」

 バチン、と音が鳴る。

「なんっでもないの!」

 やや興奮気味に顔を赤らめ、兄者は少女を蹴りあげた。何度も彼女をいたぶる彼は、既に人としての何かを忘れている様子だ。

 されど、どんなに痛めつけられようとも、少女は決して泣くことは無かった。ただ無表情に、無感情に己を見続ける少女に、兄者は嬉しそうに笑う。まるでそれこそが楽しいと、いい玩具を見つけたと、そう言いたげに……。
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