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第六章 研究施設
79.終焉の化け物
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「……ふふ、うふふふふ」
赤に塗れた少女が笑う。そのどこかおぞましさすら感じる気配に、リジマは自然と眉間に皺を寄せて少女を見た。
俯くその顔色は伺えない。しかし、彼女が『ご機嫌でない』ことはよくわかる。
チカチカと室内の仄かな明かりが点滅をはじめる。それがまるで異様なことだと認識できずに、リジマはただ、目の前のその存在を見続けた。じっと、真っ直ぐに、見続けた。
「──はぁー。久々に目が覚めたと思ったら……なにかしらねぇ、この状況」
少女はさも可笑しいと言いたげにそう言った。
どこか呆れ半分感心半分と言ったその声色は、無駄に艷があり、魅力的だ。今までの少女のそれとはひと味もふた味も違う声に、リジマは背に手を回す。そして、そこに隠し持っていた小型のナイフを取り出すと、徐にその切っ先を周囲を見回す少女に向けた。
「……だれ?」
零された疑問。
「あら? わかるの?」
返される言葉は愉しげに歪む。
「私はリジマ。この施設の研究員。アナタは? だれ? あの子を何処にやったの?」
「うーん、自分から名乗ったのは褒められることだけど質問が些か多すぎるわね。減点」
ビシリ、と窓ガラスにヒビが入った。慌てて振り返ったリジマの前、少女は両腕を広げてニコリと笑う。
「ハジメマシテ。私は『イヴ』」
乱れた黒髪の隙間から覗く『獣のような赤い瞳』が、爛々と薄暗い室内で輝いた。
「イヴ……イヴですって……?」
「ええそう。アナタたち人間が『終焉の化け物』と呼んでいる存在。ソレが私」
にこぉっと笑う少女の不気味なこと不気味なこと……。
リジマはナイフを構えたまま、一歩後ろへ後退した。そうして僅かに目を細め、舌を打つ。
嫌でも感じる。相手があまりにも恐ろしいことを。
嫌でもわかる。相手があまりにも歪だということが。
震える手先を空いた片手で抑え、リジマは睨んだ。目の前の『存在』を。まるでそれを否定すると言いたげなその眼光を受け、少女はケラケラと笑い出すと、暫くしてその笑みを消した。感情の抜け落ちた顔が、リジマにゆっくりと向けられる。
「アナタ、随分と躾がなっていないわね。普通目上の存在に対して舌打ちなんてするかしら? 私、立場を弁えない小娘って嫌いなの」
ひたりひたりと床の上を移動し、少女はリジマの方へ。そっと掲げられたナイフを掴むと、それを思い切り握りしめる。
「今すぐ消えて? 私、今機嫌よくないから」
「ッ!!」
バッと片手を振り払い、リジマはそのまま転がるように部屋を飛び出していった。
残された少女はそんなリジマの姿に鼻から息を吐き出すと、そっと床の上へ。膝を折ってしゃがみ込むと、ゆっくりとした動作で己の胸元に手を当てる。
「……ほら、もう怖いのはどこかへ行ったわよ」
さっきと打って変わって優しい声色が響いた。共に、少女の瞳に青色が戻り、次いで彼女はハッとしたように周囲を見回す。
「なに、が……」
起きたの?、と疑問をひとつ。
己の手のひらを見下げた彼女は、パチリと目を瞬くと、そのままフラリと立ち上がる。
「……ゆめ?」
小首を傾げ、一言。
少女は沈黙すると、そのまま辺りをもう一度見回し、『綺麗になったそこ』で、ひとり首を傾げた。
やはり、夢でも……悪夢でも見ていたのだろうか……。
考えながら、額を抑える。そうして震える息を吐き出す彼女は知らない。その内なる怪物が、穏やかに微笑んでいたことを……。
赤に塗れた少女が笑う。そのどこかおぞましさすら感じる気配に、リジマは自然と眉間に皺を寄せて少女を見た。
俯くその顔色は伺えない。しかし、彼女が『ご機嫌でない』ことはよくわかる。
チカチカと室内の仄かな明かりが点滅をはじめる。それがまるで異様なことだと認識できずに、リジマはただ、目の前のその存在を見続けた。じっと、真っ直ぐに、見続けた。
「──はぁー。久々に目が覚めたと思ったら……なにかしらねぇ、この状況」
少女はさも可笑しいと言いたげにそう言った。
どこか呆れ半分感心半分と言ったその声色は、無駄に艷があり、魅力的だ。今までの少女のそれとはひと味もふた味も違う声に、リジマは背に手を回す。そして、そこに隠し持っていた小型のナイフを取り出すと、徐にその切っ先を周囲を見回す少女に向けた。
「……だれ?」
零された疑問。
「あら? わかるの?」
返される言葉は愉しげに歪む。
「私はリジマ。この施設の研究員。アナタは? だれ? あの子を何処にやったの?」
「うーん、自分から名乗ったのは褒められることだけど質問が些か多すぎるわね。減点」
ビシリ、と窓ガラスにヒビが入った。慌てて振り返ったリジマの前、少女は両腕を広げてニコリと笑う。
「ハジメマシテ。私は『イヴ』」
乱れた黒髪の隙間から覗く『獣のような赤い瞳』が、爛々と薄暗い室内で輝いた。
「イヴ……イヴですって……?」
「ええそう。アナタたち人間が『終焉の化け物』と呼んでいる存在。ソレが私」
にこぉっと笑う少女の不気味なこと不気味なこと……。
リジマはナイフを構えたまま、一歩後ろへ後退した。そうして僅かに目を細め、舌を打つ。
嫌でも感じる。相手があまりにも恐ろしいことを。
嫌でもわかる。相手があまりにも歪だということが。
震える手先を空いた片手で抑え、リジマは睨んだ。目の前の『存在』を。まるでそれを否定すると言いたげなその眼光を受け、少女はケラケラと笑い出すと、暫くしてその笑みを消した。感情の抜け落ちた顔が、リジマにゆっくりと向けられる。
「アナタ、随分と躾がなっていないわね。普通目上の存在に対して舌打ちなんてするかしら? 私、立場を弁えない小娘って嫌いなの」
ひたりひたりと床の上を移動し、少女はリジマの方へ。そっと掲げられたナイフを掴むと、それを思い切り握りしめる。
「今すぐ消えて? 私、今機嫌よくないから」
「ッ!!」
バッと片手を振り払い、リジマはそのまま転がるように部屋を飛び出していった。
残された少女はそんなリジマの姿に鼻から息を吐き出すと、そっと床の上へ。膝を折ってしゃがみ込むと、ゆっくりとした動作で己の胸元に手を当てる。
「……ほら、もう怖いのはどこかへ行ったわよ」
さっきと打って変わって優しい声色が響いた。共に、少女の瞳に青色が戻り、次いで彼女はハッとしたように周囲を見回す。
「なに、が……」
起きたの?、と疑問をひとつ。
己の手のひらを見下げた彼女は、パチリと目を瞬くと、そのままフラリと立ち上がる。
「……ゆめ?」
小首を傾げ、一言。
少女は沈黙すると、そのまま辺りをもう一度見回し、『綺麗になったそこ』で、ひとり首を傾げた。
やはり、夢でも……悪夢でも見ていたのだろうか……。
考えながら、額を抑える。そうして震える息を吐き出す彼女は知らない。その内なる怪物が、穏やかに微笑んでいたことを……。
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