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第六章 研究施設
90.笑う女
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「涙は止まったかい?」
女は聞いた。その赤い髪を揺らしながら。
リレイヌはそんな女にこくりと頷き、立ち上がろうと小さく動く。そんな彼女を止めた女は、ゆっくりと膝を折ると己の視線をリレイヌと合わせてみせた。そうして柔らかに微笑むと、じっと己を見るリレイヌの片足に手をかざす。
ポウ……
あたたかな光が溢れ出した。それと同時に、折れていた彼女の足が治っていく。
「ずっと痛いままは嫌だからね」
言って笑う女が、振り向きざまに刀を振るった。いつの間に手にしていたのか、腰元の鞘から引き抜かれた様子のそれは、高い金属音をたてながら飛んできたなにかを防ぐ。
「ソイツから……はなれろ……!」
息も絶え絶え。
肩で大きく呼吸しながらそう叫んだのは、黒紫の髪を揺らす少年、睦月だった。片手に、そこら辺で入手したであろうガラクタを持った彼は、既に飛びかけているであろう意識をなんとか保ちながら手にしたそれをぶん投げる。
カキンッ
高い音をたて、投げられたそれが切り落とされた。そうして切り捨てたガラクタをそのままに、刀を手に睦月に向かう女。リレイヌが咄嗟に「アガラさま!!」と女を呼べば、女はピタリと動きを止めた。
そして、口元に小さな弧を描く。
「ウンディーネにイフリートか。久しいね」
言って、向かい来る水と炎を避けた彼女は、そのままくるりと回転し睦月の方へ。ガッと彼の頭をわし掴むと、まるで軽く放るように彼のことをぶん投げる。
「わ!?」
投げられた睦月がアジェラとぶつかった。それに驚くリックを前、ほんの一瞬で彼の前に移動した女が、彼の目線に合わせるように背中を曲げてにこりと笑う。
「いや、素晴らしいね。よく鍛えてるじゃないか。しかし、まだまだ全然足りない」
「は……──うわっ!?」
グイッと胸ぐらを掴まれ持ち上げられたリックが、高い位置から地面の上へと叩きつけられた。思わず空気の塊を口内より吐き出した彼は、痛めた背中に呻きながら深く咳き込み蹲る。
「弱いね、キミたちは。とても、とても弱い……」
そう言い、刀を手にリックにその切っ先を突きつける女。冷たい青色が、睨む少年を見下げた。その時だった。
ぞわりと、背筋を這う悪寒。
背後に感じる禍々しい気配に、振り返る女は目を見開く。
その視線の先、彼女はいた。血のような赤い瞳を見開く、彼女が。
「やめて」
たった一言。零された静止の音に、女はそっと手を下ろした。かと思えば、突如肩を震わせ笑い出す。
ケラケラ ケラケラ
暫く笑い続けた女は、少しして沈黙。己の顔を片手で抑え、そっと、目線を上げてみせる。
「いいね。すきだよ、そういうの」
言って刀を仕舞い、女はみなを振り返った。
この場にいる子らは、みな一様に女を睨み、沈黙している。
「うん。やっぱりいいね」
こくりと頷き、女は言った。
「キミたち、私に鍛えられるつもりはないかい?」
「……は?」
零される疑問。
それすらも可笑しいと笑う女に、警戒の色が強まっていた。
女は聞いた。その赤い髪を揺らしながら。
リレイヌはそんな女にこくりと頷き、立ち上がろうと小さく動く。そんな彼女を止めた女は、ゆっくりと膝を折ると己の視線をリレイヌと合わせてみせた。そうして柔らかに微笑むと、じっと己を見るリレイヌの片足に手をかざす。
ポウ……
あたたかな光が溢れ出した。それと同時に、折れていた彼女の足が治っていく。
「ずっと痛いままは嫌だからね」
言って笑う女が、振り向きざまに刀を振るった。いつの間に手にしていたのか、腰元の鞘から引き抜かれた様子のそれは、高い金属音をたてながら飛んできたなにかを防ぐ。
「ソイツから……はなれろ……!」
息も絶え絶え。
肩で大きく呼吸しながらそう叫んだのは、黒紫の髪を揺らす少年、睦月だった。片手に、そこら辺で入手したであろうガラクタを持った彼は、既に飛びかけているであろう意識をなんとか保ちながら手にしたそれをぶん投げる。
カキンッ
高い音をたて、投げられたそれが切り落とされた。そうして切り捨てたガラクタをそのままに、刀を手に睦月に向かう女。リレイヌが咄嗟に「アガラさま!!」と女を呼べば、女はピタリと動きを止めた。
そして、口元に小さな弧を描く。
「ウンディーネにイフリートか。久しいね」
言って、向かい来る水と炎を避けた彼女は、そのままくるりと回転し睦月の方へ。ガッと彼の頭をわし掴むと、まるで軽く放るように彼のことをぶん投げる。
「わ!?」
投げられた睦月がアジェラとぶつかった。それに驚くリックを前、ほんの一瞬で彼の前に移動した女が、彼の目線に合わせるように背中を曲げてにこりと笑う。
「いや、素晴らしいね。よく鍛えてるじゃないか。しかし、まだまだ全然足りない」
「は……──うわっ!?」
グイッと胸ぐらを掴まれ持ち上げられたリックが、高い位置から地面の上へと叩きつけられた。思わず空気の塊を口内より吐き出した彼は、痛めた背中に呻きながら深く咳き込み蹲る。
「弱いね、キミたちは。とても、とても弱い……」
そう言い、刀を手にリックにその切っ先を突きつける女。冷たい青色が、睨む少年を見下げた。その時だった。
ぞわりと、背筋を這う悪寒。
背後に感じる禍々しい気配に、振り返る女は目を見開く。
その視線の先、彼女はいた。血のような赤い瞳を見開く、彼女が。
「やめて」
たった一言。零された静止の音に、女はそっと手を下ろした。かと思えば、突如肩を震わせ笑い出す。
ケラケラ ケラケラ
暫く笑い続けた女は、少しして沈黙。己の顔を片手で抑え、そっと、目線を上げてみせる。
「いいね。すきだよ、そういうの」
言って刀を仕舞い、女はみなを振り返った。
この場にいる子らは、みな一様に女を睨み、沈黙している。
「うん。やっぱりいいね」
こくりと頷き、女は言った。
「キミたち、私に鍛えられるつもりはないかい?」
「……は?」
零される疑問。
それすらも可笑しいと笑う女に、警戒の色が強まっていた。
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