人食い神様と従者のおはなし

ヤヤ

文字の大きさ
上 下
12 / 16

第十一話 ガラクタの少女

しおりを挟む
 


 死が、死が、死が、その身に、残虐に降りかかる。
 体を裂かれ、抉られ、折り曲げられ、潰され、赤を散らして、命を捨てる。そうして蘇ること数回、彼には限界が訪れた。フラフラと、覚束なく地面を踏み締める彼を、その主は不安げな顔で見つめている。

 なぜそうまでして試練に向かうのか。
 なぜそうまでして死に行くのか。
 万能なる彼女ですら、その意味を見いだせなかった。

「うっ……」

 ガクリとくずおれた膝が、地面につく。慌てて彼に駆け寄れば、パシリと冷たく、伸ばした手を払われた。

「放っておいてください」

 泣きそうなくらい、悲しげな声だった。
 その悲しみの原因が自分にあると悟ったリレイヌは、目を細め、彼から離れる。そして、また立ち上がり、進み行く彼を、視線だけで追いかけた。

「イーズ……」

 呼んだ名に、返事はない。

「主様ー!」

 と、遠くから自分を呼ぶ声がして、振り返れば腕の中へと赤色が飛び込んできた。小柄なそれは「主様! 今日はお暇なのかしら!?」とはしゃぐように声を上げると、嬉しそうにリレイヌの胸元へと頭を寄せる。

「メーラ……」

 リレイヌは小さく、困ったように笑った。

「ごめんね、メーラ。今日はやることがあるんだ」

 赤い少女の頭を撫で、リレイヌは告げる。そんな彼女を見上げるメーラは、プクッとその柔らかな頬を膨らませると、不満げに「あのダメ補佐官の所に行く気なのね」と言葉を漏らした。

「ダメ補佐官って……」

「あんな奴、ダメ補佐官なのよね! 主様を悩ませる害虫! 害悪! メーラはあいつが大っ嫌いなのよ!」

 独特な語尾をつけて告げる彼女に、「そうだね」と一言。でも自分は彼のことが大好きなんだよ、と言えば、メーラは忽ち、萎むように黙っていく。

「……メーラの一番は主様なのよ。メーラだって主様のこと大好きなのよね」

「わかっているよ。メーラも私にとっては大切な子だ。かけがえのない、ね」

 そっと頭を撫で微笑む主に、魔法使いの少女はスンと鼻を鳴らして瞼を伏せる。愛する主君と共に。永遠に。
 それがガラクタと呼ばれる少女の、願いであった。
しおりを挟む

処理中です...