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第十二話 慕っている
しおりを挟むなぜこんなことをしているのだろう。
殺され続けて幾度目か、彼は既に回らなくなってきた頭でそんなことを考えた。
頭から頬へと流れる血液が落下し、地面を汚す。重力が加わり重たくなった体を引き摺るように前に進めば、チカチカと鉱石たちが目に痛い点滅を繰り返す。
危険信号だ。彼は身を固くする。
「ねえ、イーズ」
声が聞こえて振り返った。するとそこには、穏やかに微笑む彼女がいる。手を伸ばされ、思わずこちらも手を伸ばす。触れた手は冷たくて、凍えるような寒さを感じた。
「君は本当にいい子だね」
柔らかに告げられる言葉に、目を細める。そうして地に膝をつけば、優しく頭を撫でられた。
自分は主君に見てもらいたくて。
認めて欲しくて。
そして管理者へと名乗りを上げて。
それから、それから……。
思考する脳を妨げるように、「イーズ」と彼女は彼の名を呼ぶ。
「君が睦月であったなら……」
残酷な一言だ。
身を抉るような憎悪が腹の底から膨れ上がる。咄嗟に彼女の体を切り裂くように剣を震えば、それはモヤとなって鉱石の中へと吸い込まれていく。
睦月、睦月、睦月、睦月。
顔も知らぬ輩に、怒りが湧く。それは誰だと問うても、返ってこない答えに頭が冷たく冷えていく。
心の奥底で理解していた。睦月という者が、彼女にとって大切な者であるということを。それを認めたくない自分は、無様な姿で地を這いながら、彼女を振り向かせようと必死になる。なんて醜い姿だろう。こんな人間、認めてもらえるわけがない。
「……ぬしさま」
とても小さく、声が零れる。
「お慕いしております……」
独り言のように呟いた声は、とても悲しく、試練の間に響き、消えていった。
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