14 / 16
第十三話 一つの頷き
しおりを挟む「睦月!」
まだ幼い少女が、艶やかな黒髪を揺らしながら駆けていく。その先には、黒紫の髪を持つ少年が一人。振り返り、にこやかに笑う。
少女を受け入れた少年は、彼女の頭を撫でつけ、「お前は懐っこい奴だなー!」と楽しげに一言。にぱにぱと嬉しそうに微笑む彼女に、「よし、行くか!」と声を上げた。彼女は大きく頷いている。
「睦月……」
その少年がそうだと理解した彼は、呆然とその名を呼び、下を向く。あれほど明るく笑う主など、この時に至るまで、彼は目にしたことがなかった……。
◇◇◇◇◇◇
ふと目を開ければ、見慣れた天井が写り込んだ。青と白を基調としたそれは、この豪華な屋敷にピッタリな色合いとなっている。
柔らかなベッドに沈むように眠っていたイーズは、徐に上体を起こし、視線を横へ。そこで、大きな書物を膝に抱えた少女を発見し、息をこぼす。少女は静かに本を閉じると、笑顔のない顔で、ただ一言、「おはよう」を告げた。
「……」
「イーズ、そろそろ理解しただろう? 試練の厳しさを、辛さを。君はもう降りるべきだ。これ以上死んでもなんの意味もないんだから」
語る少女に、手が動く。その手は不審そうな少女の首を掴むと、ギリギリと、強く力を込めていった。
「いー……」
「バカにしないでください」
涙が溢れる。頬を伝う。
それを拭うことなく、彼は言った。既に試練のクリア条件は分かっていると。
「新造の箱庭で己と向き合い打ち勝った者を、自然が認め、主とする。認められた存在にようやっと神が力を与えることで、その者は永遠ともいえる時間を手にすることが可能となる。苦痛を耐え抜き生き残れば、見事管理者へ昇格、そういう仕組みでしょう?」
「……」
「わかっていますよ。わかっていました。そもそもソルディナという口の軽い女がいろいろと話してくれたので察することは可能です。自分に打ち勝ちさえすれば試練の第一段階は終わる。簡単な、とても簡単なことじゃないですか」
ならばなぜそれをクリアできないのか。
弱まる手に、リレイヌは自身の手を重ねる。そして、ゆっくりと、その手を下へと下ろさせた。
「……私のせいだね」
リレイヌは眉尻を下げた。そして、涙を流すイーズの頬へと手を伸ばす。
「イーズ。理解したのならわかるはずだ。管理者とは守る者。それと同時に、『殺す』者であるということを……」
「……」
「私たち龍神は、生きてはいけない種族なんだよ」
人を食らうことで自身を保ち、絶望を覚えることで己となる。永遠の命を得た龍神は怪物に成り果てる運命しかなく、それを止めるのが管理者の役目となっている。
「……覚悟があるなら、進みなさい。そして、どうか終わらせてくれ」
誰でもない、君の手で。
願う神に、その従者はただ一つ、頷いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる