下剋上御曹司の純愛~再会した契約妻への積年の愛と執着が重すぎる~

織山ひなた

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ep.1 5年ぶりに再会した元彼は、御曹司になっていました

1.

――12月になると彼を思い出す。あれから5年、元気にしているだろうか。

由比ゆい榛名はるなは少々の感傷に浸りながら、大手町にある会社から銀座方面へと向かっていた。

街中いたるところがクリスマスに彩られるこの季節。

榛名と彼の距離が縮まったのも、そして離れ離れになったのもクリスマスだった。

興津おきつ伊吹いぶき。それが榛名にとって忘れられない彼の名前。

榛名の頭の中には、大学生時代の、毛先だけちょっと癖っ毛のモサモサ頭、黒縁メガネ、ワンサイズ大きなトレーナーを着ていた伊吹の姿が蘇り、思わずふふっと微笑む。

「伊吹くんのことを思い出して笑える日が来るなんて、あの頃は思いもしていなかったな……」

寂しげな微笑みは溜息に変わる。
しかし顔を上げて、今日も榛名はビジネス街を歩く。


榛名の勤務先は大手町に本社のあるE&Eトラベルという旅行会社で、新入社員で配属されて以来、社会人5年目の現在まで、ずっと法人営業部で働いている。

企業に社内イベントや福利厚生の旅行プランを、またホテルや旅館にパッケージプランなどを提案するのが榛名の仕事だ。

初めて行く取引先や新しい先方の担当者には、よくどちらが名字で、どちらが名前かを混同される。

「ユイ・ハルナ? ハルナ・ユイ? どっち?」とはしょっちゅう聞かれるが、もう慣れっこである。

名刺を二度見されるので、営業としてはお得なのかもしれないとすら思っていた。

27歳、周囲からはバリキャリに見られるし、パンツスーツ姿も様になってきた。
身長は157センチと平均ほどだが、時たま威勢が良いためか、実際より大きく見られがちである。

学生時代の友人たちからは「猫のようだけど優しげな目をしている」と不思議な表現をされていたが、現在の同僚たちからも似たようなことを言われ、驚いていた。

髪の毛はややボリュームがあり、伊吹のことを言えないくらい毛先だけ跳ねやすい髪質だった。
1つに結うと、まさに活きの良いポニーテールに仕上がる。

そして今日向かっているのは、ホテルロイヤルヴィリジアンという、明治時代に創業の老舗ホテルである。


かつて創業時は『ホテルグリーンワカミヤ』という名称であったのを、平成の間に、建て替えと同時に現在の名称へとリニューアルされた。

このホテルロイヤルヴィリジアンは、一時期は経営悪化による倒産が危ぶまれていた。

しかしここ2、3年はメインターゲット層である女性顧客へのきめ細やかなサービス展開と、レトロモダンなラグジュアリー空間が大当たりして、赤字からV字回復を遂げた。

そのため世間からの関心を集めており、もっぱら噂されているのは、
「ヒットを生んだのは、高齢の社長に代わって指揮を執っている、孫でもある若き副社長である」
という話だった。

だが、この副社長、若宮氏の姿を榛名は拝見したことがなかった。

公の場に姿を見せることもなかったが、ホテルロイヤルヴィリジアンのホームページにさえ写真の1枚も載っていないのだ。

現在、経済関連の情報媒体から取材依頼が殺到しているようだが、断っているのか、今は企画を温めていて、表に出てくるのはもう少し先なのか……。
いかんせん顔がわからないのが現状である。

(噂ではすごいイケメンらしいけど、まさに噂って感じよね)

榛名にとって興味があるのは、仕事に関わる若宮副社長の業績だけで、彼がどんな顔をしているのかなんて、正直興味も関心もなかった。


これまでE&Eトラベルとホテルロイヤルヴィリジアンは細く長い付き合いを続けていたが、

「御社との商品をもっと充実させたいので、企画のご相談をしたい」

最近になって向こうから、こうした申し出があった。

法人第1営業部ホテル部門サブチーフである榛名は、ホテルロイヤルヴィリジアンの担当ではなかった。

だが、先日別のホテルで提案したパッケージプランが好評で、その評判を聞きつけたホテルロイヤルヴィリジアン側から、
「ぜひ由比榛名さんに担当を」
とご指名が入ったのだ。

榛名としては嬉しい反面、社内でホテルロイヤルヴィリジアンの現営業担当に対して気まずさを感じていたが、

「いやぁ、自分の担当は多すぎて、少し分担したいなと思っていたところなんだ。むしろありがたい、助かるよ」

現営業担当は、ほくほくした顔で快く手放し……もとい譲ってきたのだった。

そんなわけで、昨日仕上げたばかりの企画書を携えて商談へ向かうことになった。
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