下剋上御曹司の純愛~再会した契約妻への積年の愛と執着が重すぎる~

織山ひなた

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ep.2 妥協の契約結婚!? そんなものはお断りです

1.

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興津伊吹、現在は若宮伊吹――大学時代に付き合って、卒業間近に切り捨てられるように振られた相手。

(そんな相手を前にしてプレゼンをやりきった私を褒めてほしい)

強がりながらも、内心はバクバクしている。
それに、目の前に伊吹がいることに、いまだ実感がわかない。

若宮伊吹と先方の担当者は、熱心に榛名のプレゼンに耳を傾け、真剣に資料を読んでいた。

一通りの質疑応答を終え、話が一段落すると、
「それでは、後は私から由比さんにご相談したいことがありますので」
伊吹が隣の担当者に微笑みながら目配せをした。

すると担当者は心得たように、「それでは私は失礼いたします」と即座に退室してしまった。

2人だけになってしまった会議室。

若宮伊吹がこちらを見て微笑んでいる。

(こういうビジネスライクな笑い方をする人じゃなかった……)

榛名は、ほんの少しの寂しさを感じたのと同時に――
(なんだか嫌な予感がする)

こちらに向かってニコニコしている若宮伊吹を見ていると、蛇に睨まれた蛙のような気分になってくる。

若宮伊吹の微笑んでいる目の奥が、榛名に狙いを定めてキラーンと漆黒に瞬いたような気すらしてきた。

(いかん、いかん、考えすぎ)
榛名の理性は「妄想だ」と鼻で笑っているが、本能では危険信号を訴えかけてくる。

その証拠に、さっきから背筋に冷や汗が流れるのが止まらない。

外は12月の冬だと言うのに。ましてやこの会議室の暖房は適温で、暑すぎるということはない。

「私から由比さんにご相談というのは――」
ついに若宮伊吹から何らかの宣告が下されようとしている。


(「先程のプレゼンは全然ダメですね。箸にも棒にも掛かりません」とか手厳しいことを言われるんじゃ……! 真剣に見聞きしていたけど、それだけ心の中でダメ出しをしていたってこと……!?)

(恋愛相手としてもダメ、仕事相手としてもダメだなんて……無理、もう立ち直れない――)

攻撃(言葉)に備えて、ギュッと目を閉じ、心のシャッターを閉じる準備を榛名がしていると――

「由比榛名さん。突然の申し出で大変失礼いたしますが、私と結婚してみるのはいかがでしょうか?」

この世のものとは思えない麗しい笑みを浮かべながら、若宮伊吹は提案してきた。


「…………は?」

榛名の口からは地声よりも低いドスの効いた返しが飛び出した。

すると、若宮伊吹は愉快そうにクスクスと笑う。
「以前は見られなかった反応ですね」

楽しそうなその言葉に、榛名の口は思わずポカンと半開きになった。

――つまり、以前のような可愛げがないと言いたいのだろうか。
(は!? どの口が言うの!?)

よもや自分のことを忘れたとは言わせないが、意外とちゃんと覚えていたことに驚きを隠せなかった。


「学生時代より殊勝な感じになりましたね」
再び茶目っ気のある笑みを浮かべて、目の前の男はそんなことを言う。

「それは……社会人5年目ともなれば、そのくらい強くもなりますよ」
余計なお世話と思いながら、それでもつい応戦してしまいそうになるが、肝心なことを忘れてはいけない。

「そっ、そんなことより、け、結婚って一体何の話ですか? 初耳なんですけど!」

「それはそうでしょう。今、初めて言いましたから」

若宮伊吹はケロッとした表情で答える。

(初対面で「結婚してくれ」なんて、普通ならこの場で警察を呼ばれても文句は言えないでしょーよ)

つまり、若宮伊吹は榛名のことを初対面ではなく『旧知の仲』だと認識した上で提案もといプロポーズをしてきたのだ。

(でも、それよりなにより……)

「あの、ひとつよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
今度はこちらからの質疑応答のターンになった。
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