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ep.4 私と伊吹くんの昔話<後編>
2.
◇◇
それから卒業式までの間、ついぞ伊吹を見かけることはなかった。
卒業式には来ていたようだが、用件を終えたらすぐに東京へリターンしたようだ。
むろん、追いかけるつもりなどない。失恋どころか、友人としても縁を切られてしまったのだから。
4月、榛名は東京の大手町に本社のあるE&Eトラベルに入社した。
なぜ旅行業界を希望したのかと聞かれると、面接や周囲にはそれらしい理由を並べたが、本当の理由はこうだった。
「お金があったら、はるちゃんと一緒に歴史探訪の旅に行きたいな。面白いコースを自分たちで色々考えてさ」
「わっ、それいいね、楽しそう!」
伊吹と一緒に行けたら、どこだって楽しみだった。隣に伊吹さえいてくれれば……
2人でした、たわいもない会話がきっかけだった。
それなのに、きっかけだけを残して、当の本人は榛名の前からいなくなってしまった。
すっかり目標も意欲も見失ったかと思いきや、榛名はそうにはならなかった。
実際に働いてみると、これが意外にも性に合っていた。
配属先や仕事内容と相性が良かったのだろう。
ありがたいことにホワイト企業で、上司や同僚に恵まれて仕事がしやすかったのもある。
多種多様な企業に赴き、時には出張をして、先方に合うプランを提案する。
自分で企画を立案するのも、忙しく飛び回るのも苦労は多い。
だけど仕事にのめり込んでいる方が、榛名の心は軽くなった。
――恋だけはできなかった。
この5年間、ずっと伊吹を引きずっていた。
突然、強制的に断ち切られた縁だったが、想いはそう簡単に断ち切れるものではない。
だが、あれだけはっきりと振ってきたのだ。
伊吹の方は榛名のことなどすっかり忘れて、過去の人間になっているはずだ。新しい恋人だっているかもしれない。
それに、恋愛に臆病になったのも事実だった。
自分の何かが至らなかったために、伊吹に愛想を尽かされたわけだ。また同じ失敗をして嫌われるのが怖かった。
同期に誘われて合コンにも行った。グループで遊びに行ったこともある。
その中で榛名を気に入って告白してくれた人もいた。
職場で好意を持って食事に誘われたこともある。だけど、どうしても拒絶反応が出てしまう。
告白してくれた相手には気取られぬよう、その場ではやり過ごしたが、離れた場所で1人になると、全身に鳥肌が立っているのがわかる。
生理的にもまったく嫌な相手ではないのに、全身から嫌悪感がわいてくる。
伊吹じゃないとだめなのだ。
彼に対して望みがないことは、わかりきっている。諦めてもいる。それなのに……
――伊吹くん以外の人と関係を進めたくない。これは私のただのわがままだ。独りよがりで、自分勝手だ。
カウンセリングを受けることも一時は考えたりもしたが、もはや伊吹以外の誰かと恋をする気になれない。
だから、そのために心を回復させる必要はないと諦めたのだ。
――伊吹くんとの、あのキラキラした毎日があまりにも眩しくて、どうしても心から消えてくれない。
あまりにも辛くなった夜、榛名はマンションの部屋で独り、泣いた。
もう恋愛はしない。そう心に決めて。
それから卒業式までの間、ついぞ伊吹を見かけることはなかった。
卒業式には来ていたようだが、用件を終えたらすぐに東京へリターンしたようだ。
むろん、追いかけるつもりなどない。失恋どころか、友人としても縁を切られてしまったのだから。
4月、榛名は東京の大手町に本社のあるE&Eトラベルに入社した。
なぜ旅行業界を希望したのかと聞かれると、面接や周囲にはそれらしい理由を並べたが、本当の理由はこうだった。
「お金があったら、はるちゃんと一緒に歴史探訪の旅に行きたいな。面白いコースを自分たちで色々考えてさ」
「わっ、それいいね、楽しそう!」
伊吹と一緒に行けたら、どこだって楽しみだった。隣に伊吹さえいてくれれば……
2人でした、たわいもない会話がきっかけだった。
それなのに、きっかけだけを残して、当の本人は榛名の前からいなくなってしまった。
すっかり目標も意欲も見失ったかと思いきや、榛名はそうにはならなかった。
実際に働いてみると、これが意外にも性に合っていた。
配属先や仕事内容と相性が良かったのだろう。
ありがたいことにホワイト企業で、上司や同僚に恵まれて仕事がしやすかったのもある。
多種多様な企業に赴き、時には出張をして、先方に合うプランを提案する。
自分で企画を立案するのも、忙しく飛び回るのも苦労は多い。
だけど仕事にのめり込んでいる方が、榛名の心は軽くなった。
――恋だけはできなかった。
この5年間、ずっと伊吹を引きずっていた。
突然、強制的に断ち切られた縁だったが、想いはそう簡単に断ち切れるものではない。
だが、あれだけはっきりと振ってきたのだ。
伊吹の方は榛名のことなどすっかり忘れて、過去の人間になっているはずだ。新しい恋人だっているかもしれない。
それに、恋愛に臆病になったのも事実だった。
自分の何かが至らなかったために、伊吹に愛想を尽かされたわけだ。また同じ失敗をして嫌われるのが怖かった。
同期に誘われて合コンにも行った。グループで遊びに行ったこともある。
その中で榛名を気に入って告白してくれた人もいた。
職場で好意を持って食事に誘われたこともある。だけど、どうしても拒絶反応が出てしまう。
告白してくれた相手には気取られぬよう、その場ではやり過ごしたが、離れた場所で1人になると、全身に鳥肌が立っているのがわかる。
生理的にもまったく嫌な相手ではないのに、全身から嫌悪感がわいてくる。
伊吹じゃないとだめなのだ。
彼に対して望みがないことは、わかりきっている。諦めてもいる。それなのに……
――伊吹くん以外の人と関係を進めたくない。これは私のただのわがままだ。独りよがりで、自分勝手だ。
カウンセリングを受けることも一時は考えたりもしたが、もはや伊吹以外の誰かと恋をする気になれない。
だから、そのために心を回復させる必要はないと諦めたのだ。
――伊吹くんとの、あのキラキラした毎日があまりにも眩しくて、どうしても心から消えてくれない。
あまりにも辛くなった夜、榛名はマンションの部屋で独り、泣いた。
もう恋愛はしない。そう心に決めて。
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