下剋上御曹司の純愛~再会した契約妻への積年の愛と執着が重すぎる~

織山ひなた

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ep.5 若宮邸へご挨拶。祖父が語るのは……

1.

「榛名さん、お待たせ」

冬晴れの休日、午前10時。
日本橋浜町にある自宅マンションの前で待っていると、高級そうな外車が停まり、オープンになった窓から、そう呼びかけてきたのは若宮伊吹だった。

(まさか、こんなに近くで暮らしていたなんて……)

会社から住宅手当で家賃の4割が支給されるため、榛名は会社からほど近い日本橋浜町で部屋を借りて1人暮らしをしていた。

伊吹のいるホテルロイヤルヴィリジアンは銀座にあり、ここから目と鼻の先である。

(それなのに、5年もの間、よくすれ違いもしなかったな……)

生活圏が同じ。銀座にはしょっちゅう足を運んでいた。それなのに偶然バッタリ出くわすこともなかったのは、もはや奇跡だろう。

(まあ、出くわしたところで他人のフリをされたり無視されたら、きっと傷ついていたはず。だから会わなくて良かったのよ)

榛名は助手席に座ると、脳内でしみじみと自問自答していた。

モノトーンの落ち着いた車内。助手席は最高に座り心地が良くて、榛名はウトウトと眠たくなってきた。

だが、きっとすぐ到着する。榛名があくびをかみころしていると、フッと微笑みながら伊吹が話しかけてきた。

「眠たい? 仕事が忙しいのに、休日まですまないね」

「大丈夫。今眠いのは、この座席の座り心地が最高だからよ」

「フフッ、そうかい」

眠気を隠さなくなった榛名の答えに、伊吹はククッと笑いを噛みしめていた。


「ねえ、伊吹くん」
「なんだい?」

呼び方や話し方については、もはや敬語は略していた。

最初は「若宮さん」と他人行儀で呼んでいたのだが、だんだんと面倒になってきた。

なぜなら再会してから、伊吹とは毎日のように会っていたからだ。

結婚のことで決めなければならないことはたくさんある。だけど、伊吹はそれを最短距離の猛スピードで決定しようとしていた。

思わず理由を尋ねると、

「クリスマスイブに入籍したいから」
と、即答で返ってきた。

(よりによってクリスマスイブ……。別れるのにも、入籍するのにもこの日を選ぶなんて、意外とロマンチストなのかもしれない)

やはり、名前の由来が関係しているのだろうか。
昔、話してくれて、すごく嬉しかったのを覚えている。

……だとしても、明らかに用法・用量が異なる。
クリスマスイブを乱用しすぎだろう。

よっぽど周囲からの「早く結婚しろ」の圧が煩わしいのか、伊吹はとにかく一刻も早く結婚を急ぎたがっていた。
榛名のことは「狙った獲物は逃がさない」とばかりに。

いっそ清々しいと感じた榛名は、面倒なのもあって、むしろ5年前よりもラフな態度で伊吹に接している。

(あの頃は、伊吹くんのことが好きで好きでどうしようもなかったから、なるべく可愛くいたかったし……)

(今の伊吹くんに私への気持ちはない。単に過去の相手の中から、契約結婚の条件にピッタリ当てはまる人間を選んだに過ぎないのだから)

そう考えると切なくなるので、榛名はあえて考えないようにしていた。


(だけど、現実問題として結婚生活は送るのだし、あまり気を遣いすぎても疲れるよね。良く見せようとする必要はないのだし、だったら下手に気を遣わない方がいい。こういうのは最初が肝心よ)

そういう訳で、伊吹に対してはラフな態度で臨むことに決めたのだ。

伊吹はというと、榛名のそういう態度を面白がっている。いやむしろ喜んでいるようにも見えた。
おそらく気のせいだと思うが。

そして彼の方も合わせるようにフランクになっていた。ただ1つ、呼び方以外は。

昔は「はるちゃん」と呼んでくれていたが、そこはさすがに時間と距離感が開いているせいか、「榛名さん」になっていた。


そして会話の途中である。

「おじいさんとおばあさんは、本当に私との結婚を認めているの?」

いっそ反対されているのなら、それでも構わないと榛名は思っていた。

ただこの場合、ご破算になっても由比漬物店との契約は撤回しないで頂きたい。

なぜなら、こちらからお断りしたわけではないのだから。反対されたのなら、こちらとしては不可抗力なのだから。
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