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ep.5 若宮邸へご挨拶。祖父が語るのは……
2.
「もちろん、僕の決めたことに祖父母は反対しない。そのために結果を出したのだからね」
「ふうん、そうなんだ……」
伊吹の以前と異なる点はいくつもあるが、一人称の変化もその中の1つだった。
この5年の間で、「俺」から「僕」に変わっていた。
おそらく、様々なビジネスシーンやお付き合いの中で、その場に相応しいものに変化していったのだろう。
そう考えてみると、伊吹の所作はものすごく洗練されていて、榛名のこともさりげなくエスコートしてくれる。
その優雅で洗練された動作や雰囲気を浴びると、思わずドキドキしてしまう。
(伊吹くんに限らず、人間は変化していくものだ。だとしても彼の進化はすさまじいけれど)
人間の細胞は7年ですべてが入れ替わるというが、5年ぶりに再会した自分と伊吹にとって、まだ2年分は一緒にいた時の細胞が残っているのだろうか……?
(まっ、そんなこと考えても意味ないか)
よくわからない感慨に浸っているうちに、車は伊吹の祖父母が暮らす若宮邸に到着した。
日本橋界隈の住宅街に昔から存在する若宮邸。それはまさに武家屋敷といった歴史を感じさせる立派なお屋敷だった。
(いや、本当無理……)
榛名はその荘厳な日本家屋に足を踏み入れることに躊躇した。
身震いしてしまうのは、12月の気温のせいだけではない。
(それに、ご挨拶に休日の朝10時というのは、やっぱり早すぎじゃないか?)
先日、伊吹に同じことを聞いたのだ。
「ご挨拶に伺うのは、お昼過ぎの方が良いのではないか?」と。
すると、伊吹からは「いや、年寄りの朝は早いから、ちょうどいいんだ」と返事があった。
その辺も入籍を急いでいる伊吹らしいと言えばらしいが、榛名としても気が重い行事は早く終わってしまった方が良い。
12月、繁忙期真っ只中のせっかくの休日なのだ。家に帰ったら寝よう。榛名はそう心に決めていた。
広大な若宮邸。榛名たちが通されたのは、豪華な柄の描かれた襖で仕切られた、二間続きのお座敷であった。
お座敷からは、これまた立派な日本庭園を眺めることができる。
(わかってはいたけれど、住んでいる世界が違いすぎる……)
よもや遠い目をしながら、榛名は庭園を眺めていた。
無謀な契約結婚への諦めの境地である。
(いや、これ本当に認められているのか? 普通に反対されて『今すぐ出て行け』なんて追い出されるんじゃ……)
そんなことを考えつつ、伊吹と2人、お座敷で大人しく待っていると、廊下側の襖が開いた。
やって来たのは、伊吹の祖父であり、現ホテルロイヤルヴィリジアン社長の若宮柳之介と、その妻・はつ枝である。
緊張しながら2人に対して初対面の挨拶をすると、
「初めまして、由比榛名さん。伊吹の祖父の若宮柳之介です。こちらは私の妻のはつ枝です」
威厳のある着物姿の祖父母はそう名乗り、榛名たちに着席を促した。
「由比榛名さん、可愛らしいお名前ですこと」
祖母のはつ枝は着物の袖で口元を隠しながら、おほほと可憐に微笑んだ。
これは嫌味でもなんでもなく、本当にそう思っているかのような穏やかなものだった。
(たしかに、庶民の私に対しての話題と言えば、そんなところしかないよね……)
榛名は内心ホッとしながらも、途方に暮れていた。
「伊吹から詳細は聞いていると思うが、榛名さん、君には辛い思いをさせてしまった」
コホンと咳払いを1つすると、若宮柳之介はそう切り出した。
(えっ……!? 何も聞いちゃいないんですけど……?)
あっけにとられた榛名は、そう思ったことがそのまま顔に出ていたのだろう。
柳之介はサッと伊吹を見やると、伊吹は『余計なことは言ってくれるな』と言わんばかりの涼しい笑顔を浮かべている。
「伊吹……お前、一体何を考えているのだ。いや、それほどまで本気ゆえに……なるほど」
なぜだか柳之介は、孫の言動に納得したようだ。
意外にもこの祖父は孫のことをよく理解しているのかもしれない。
――わかっていないのは私の方だ。
「どういうこと?」
隣の伊吹に小声で尋ねると、ニッコリ微笑んで「後でね」とかわされた。
(いや、「後でね」じゃないんだわ)
「ふうん、そうなんだ……」
伊吹の以前と異なる点はいくつもあるが、一人称の変化もその中の1つだった。
この5年の間で、「俺」から「僕」に変わっていた。
おそらく、様々なビジネスシーンやお付き合いの中で、その場に相応しいものに変化していったのだろう。
そう考えてみると、伊吹の所作はものすごく洗練されていて、榛名のこともさりげなくエスコートしてくれる。
その優雅で洗練された動作や雰囲気を浴びると、思わずドキドキしてしまう。
(伊吹くんに限らず、人間は変化していくものだ。だとしても彼の進化はすさまじいけれど)
人間の細胞は7年ですべてが入れ替わるというが、5年ぶりに再会した自分と伊吹にとって、まだ2年分は一緒にいた時の細胞が残っているのだろうか……?
(まっ、そんなこと考えても意味ないか)
よくわからない感慨に浸っているうちに、車は伊吹の祖父母が暮らす若宮邸に到着した。
日本橋界隈の住宅街に昔から存在する若宮邸。それはまさに武家屋敷といった歴史を感じさせる立派なお屋敷だった。
(いや、本当無理……)
榛名はその荘厳な日本家屋に足を踏み入れることに躊躇した。
身震いしてしまうのは、12月の気温のせいだけではない。
(それに、ご挨拶に休日の朝10時というのは、やっぱり早すぎじゃないか?)
先日、伊吹に同じことを聞いたのだ。
「ご挨拶に伺うのは、お昼過ぎの方が良いのではないか?」と。
すると、伊吹からは「いや、年寄りの朝は早いから、ちょうどいいんだ」と返事があった。
その辺も入籍を急いでいる伊吹らしいと言えばらしいが、榛名としても気が重い行事は早く終わってしまった方が良い。
12月、繁忙期真っ只中のせっかくの休日なのだ。家に帰ったら寝よう。榛名はそう心に決めていた。
広大な若宮邸。榛名たちが通されたのは、豪華な柄の描かれた襖で仕切られた、二間続きのお座敷であった。
お座敷からは、これまた立派な日本庭園を眺めることができる。
(わかってはいたけれど、住んでいる世界が違いすぎる……)
よもや遠い目をしながら、榛名は庭園を眺めていた。
無謀な契約結婚への諦めの境地である。
(いや、これ本当に認められているのか? 普通に反対されて『今すぐ出て行け』なんて追い出されるんじゃ……)
そんなことを考えつつ、伊吹と2人、お座敷で大人しく待っていると、廊下側の襖が開いた。
やって来たのは、伊吹の祖父であり、現ホテルロイヤルヴィリジアン社長の若宮柳之介と、その妻・はつ枝である。
緊張しながら2人に対して初対面の挨拶をすると、
「初めまして、由比榛名さん。伊吹の祖父の若宮柳之介です。こちらは私の妻のはつ枝です」
威厳のある着物姿の祖父母はそう名乗り、榛名たちに着席を促した。
「由比榛名さん、可愛らしいお名前ですこと」
祖母のはつ枝は着物の袖で口元を隠しながら、おほほと可憐に微笑んだ。
これは嫌味でもなんでもなく、本当にそう思っているかのような穏やかなものだった。
(たしかに、庶民の私に対しての話題と言えば、そんなところしかないよね……)
榛名は内心ホッとしながらも、途方に暮れていた。
「伊吹から詳細は聞いていると思うが、榛名さん、君には辛い思いをさせてしまった」
コホンと咳払いを1つすると、若宮柳之介はそう切り出した。
(えっ……!? 何も聞いちゃいないんですけど……?)
あっけにとられた榛名は、そう思ったことがそのまま顔に出ていたのだろう。
柳之介はサッと伊吹を見やると、伊吹は『余計なことは言ってくれるな』と言わんばかりの涼しい笑顔を浮かべている。
「伊吹……お前、一体何を考えているのだ。いや、それほどまで本気ゆえに……なるほど」
なぜだか柳之介は、孫の言動に納得したようだ。
意外にもこの祖父は孫のことをよく理解しているのかもしれない。
――わかっていないのは私の方だ。
「どういうこと?」
隣の伊吹に小声で尋ねると、ニッコリ微笑んで「後でね」とかわされた。
(いや、「後でね」じゃないんだわ)
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