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ep.7 エプロン姿の御曹司が待っているなんて聞いてません
1.
12月24日、クリスマスイブの朝、伊吹と榛名は揃って中央区役所に行き、婚姻届を提出した。
無事に入籍し、2人は晴れて夫婦になった。
その後は、それぞれの職場に向かったのだが――
E&Eトラベル、法人営業部のオフィス。
「由比さん、ご結婚おめでとうございます!」
事前に申請していた通り10時過ぎに出社すると、すれ違う社員たちから口々にお祝いの言葉をかけられた。
「ありがとうございます」
榛名の左手の薬指には、伊吹から贈られた結婚指輪が光っている。
「それにしても、すごい早さでトントン拍子に入籍まで行きましたね~! 驚いちゃいました!」
わりと思ったことがすぐ口に出る後輩の中村結衣が興味津々に話しかけてきた。
まさか榛名が、と驚いたのだろう。
「はは……そうね」
榛名だって、まさか自分が結婚するとは予想もしていなかった。これまで浮いた噂の1つもなかったのだから。
「だけど、以前からお付き合いしていたわけではなかったのよね?」
通りすがりにそう聞いてきたのは、先輩チーフの小早川唯だ。
この部署には「ユイ」が3人いる。
「そうですね。先日ご説明した通り、今月はじめの商談が初対面でした」
――初対面のはずだったが、会ってみたら実は大学時代の同級生だった。
その上、実家とも仕事で繋がりがあり、意気投合してプロポーズされた。
職場で説明したのはこんな内容だった。両親に話したものと大差ない。
別段、職場で馴れ初めやら何やら話す必要はないのだが、
「自分の恋人をホテルロイヤルヴィリジアンの担当に変えさせた」
と、伊吹が誤解されるのを避けるためだった。
これは自分のためでもあり、伊吹の評判のためでもある。
いくら前担当者が快く譲ってくれたとはいえ、そこは筋を通さねばならない。
「じゃあ、これからは『若宮さん』って呼びますね!」
「えっ……」
(面倒だから、職場では『由比』のままで通そうと思っていたんだけどなぁ……)
「そうね、『若宮さん』だと、社内の誰とも被らないから便利かもしれないわね」
先輩の小早川唯からも、そう後押しがあった。
榛名の職場、E&Eトラベルでは、社内ルールとして、職員同士は『名字+さん』で呼び合うことになっている。
一部例外があるのは、『鈴木さん』や『佐藤さん』など多い姓の場合、本人たちの同意を得た上で、『スズ〇〇(名前の省略)さん』や『サト〇〇(名前の省略)さん』と呼ぶことがある。
例えば、もし榛名の姓が『鈴木さん』だった場合、『スズハルさん』と呼ばれたりする。
というわけで、法人営業部で『ユイさん』と呼ばれたら、それは榛名のことを示しているのだが、他2人の名前が『ユイさん』たちが反応してしまうのは自然の摂理だろう。
榛名だって『ハルナさん』と呼ばれたら反応してしまう。
つまりは、「紛らわしいから『若宮』に変えてくれ」という無言の圧だった。
(はぁ……面倒だけど、人事労務部に社内で名字の明記を変更してもらえるよう言ってこよう……。仕事納めがもうすぐなのに、すみませんね)
年明けには総務部に行って、『若宮』の日付印を作ってもらわなければ。
とりあえず、今日の帰りに印鑑ショップで『若宮』のシャチハタを注文しに行こう。
「しかし、せっかくの入籍日なんだから、有休を使ってもよかったんだぞ」
同じデスクの島にいる部長が気遣ってくれる。
「そうですよ。ウチの職場はせっかくホワイトなんですから。若宮さんは真面目すぎますよ」
順応性高い中村結衣はさっそくニューネームで呼んできた。
「そうよね。年内の営業日もあと2日なのだし、今日を仕事納めにしてしまったらどう?」
先輩の小早川唯にも、周囲にいた他の社員たちからも、「せっかくの新婚なのだから」と気遣われた結果、急遽だったが、ありがたく残り2日は有休を取らせてもらうことにした。
そういうわけで、自分の担当顧客に本日が年内最終出勤である旨をメールで伝え、残りの仕事を納めて、帰路に着いたのだった。
もちろん、印鑑ショップに寄ってシャチハタを注文するのを忘れなかった。
無事に入籍し、2人は晴れて夫婦になった。
その後は、それぞれの職場に向かったのだが――
E&Eトラベル、法人営業部のオフィス。
「由比さん、ご結婚おめでとうございます!」
事前に申請していた通り10時過ぎに出社すると、すれ違う社員たちから口々にお祝いの言葉をかけられた。
「ありがとうございます」
榛名の左手の薬指には、伊吹から贈られた結婚指輪が光っている。
「それにしても、すごい早さでトントン拍子に入籍まで行きましたね~! 驚いちゃいました!」
わりと思ったことがすぐ口に出る後輩の中村結衣が興味津々に話しかけてきた。
まさか榛名が、と驚いたのだろう。
「はは……そうね」
榛名だって、まさか自分が結婚するとは予想もしていなかった。これまで浮いた噂の1つもなかったのだから。
「だけど、以前からお付き合いしていたわけではなかったのよね?」
通りすがりにそう聞いてきたのは、先輩チーフの小早川唯だ。
この部署には「ユイ」が3人いる。
「そうですね。先日ご説明した通り、今月はじめの商談が初対面でした」
――初対面のはずだったが、会ってみたら実は大学時代の同級生だった。
その上、実家とも仕事で繋がりがあり、意気投合してプロポーズされた。
職場で説明したのはこんな内容だった。両親に話したものと大差ない。
別段、職場で馴れ初めやら何やら話す必要はないのだが、
「自分の恋人をホテルロイヤルヴィリジアンの担当に変えさせた」
と、伊吹が誤解されるのを避けるためだった。
これは自分のためでもあり、伊吹の評判のためでもある。
いくら前担当者が快く譲ってくれたとはいえ、そこは筋を通さねばならない。
「じゃあ、これからは『若宮さん』って呼びますね!」
「えっ……」
(面倒だから、職場では『由比』のままで通そうと思っていたんだけどなぁ……)
「そうね、『若宮さん』だと、社内の誰とも被らないから便利かもしれないわね」
先輩の小早川唯からも、そう後押しがあった。
榛名の職場、E&Eトラベルでは、社内ルールとして、職員同士は『名字+さん』で呼び合うことになっている。
一部例外があるのは、『鈴木さん』や『佐藤さん』など多い姓の場合、本人たちの同意を得た上で、『スズ〇〇(名前の省略)さん』や『サト〇〇(名前の省略)さん』と呼ぶことがある。
例えば、もし榛名の姓が『鈴木さん』だった場合、『スズハルさん』と呼ばれたりする。
というわけで、法人営業部で『ユイさん』と呼ばれたら、それは榛名のことを示しているのだが、他2人の名前が『ユイさん』たちが反応してしまうのは自然の摂理だろう。
榛名だって『ハルナさん』と呼ばれたら反応してしまう。
つまりは、「紛らわしいから『若宮』に変えてくれ」という無言の圧だった。
(はぁ……面倒だけど、人事労務部に社内で名字の明記を変更してもらえるよう言ってこよう……。仕事納めがもうすぐなのに、すみませんね)
年明けには総務部に行って、『若宮』の日付印を作ってもらわなければ。
とりあえず、今日の帰りに印鑑ショップで『若宮』のシャチハタを注文しに行こう。
「しかし、せっかくの入籍日なんだから、有休を使ってもよかったんだぞ」
同じデスクの島にいる部長が気遣ってくれる。
「そうですよ。ウチの職場はせっかくホワイトなんですから。若宮さんは真面目すぎますよ」
順応性高い中村結衣はさっそくニューネームで呼んできた。
「そうよね。年内の営業日もあと2日なのだし、今日を仕事納めにしてしまったらどう?」
先輩の小早川唯にも、周囲にいた他の社員たちからも、「せっかくの新婚なのだから」と気遣われた結果、急遽だったが、ありがたく残り2日は有休を取らせてもらうことにした。
そういうわけで、自分の担当顧客に本日が年内最終出勤である旨をメールで伝え、残りの仕事を納めて、帰路に着いたのだった。
もちろん、印鑑ショップに寄ってシャチハタを注文するのを忘れなかった。
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