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ep.11 夜の攻防線、新居問題ふたたび
1.
元旦の夜、日本橋浜町の2人の新居――元は榛名が1人暮らしをしていたマンションに帰ると、すぐに入浴を済ませ、もう休む体勢に入っていた。
「ねえ、伊吹くん」
「なんだい、はるちゃん?」
「……この体勢でいるの、疲れない?」
「全然」
風呂から上がってからというもの、伊吹は榛名を後ろから抱えたままの体勢でいる。
より詳細に説明すると、ベッドを背もたれにして、カーペットの上のクッションに座り、榛名を後ろから抱っこした姿勢である。
「この体勢だとはるちゃんを好きなだけ触れるし、好きなだけ嗅げる。しいて言えば、顔が見えないのが難点だな」
うっとりと恍惚とした声が髪に触れてくすぐったい。
先程から榛名の髪に顔をうずめてはクンクンと匂いを嗅いでいる。
「ちょっと、嗅がないでよ!」
だが文句を言ったところで聞きやしない。
「はるちゃん吸い、最高だ……」
開き直って大きく深呼吸する始末だった。
その上、手はスウェットの上をワサワサと這いずり周り、榛名の柔らかい部分をムニムニと揉んでいる。
身体をよじって逃げ出そうとしても無意味である。
心ゆくまで堪能している伊吹に、優しくだが、ガッチリと絡み取られていた。
「ハア……」
伊吹が引っ越して来てからというもの、毎日が攻防戦だった。
何の攻防戦かと言えば、もちろんそれは――
◇
「さて、もう寝ますかね」
遡って、引っ越し初日の晩。
あくびをしながら、榛名はベッドにモゾモゾと入った。
続いて伊吹もやって来る。
シングルサイズのベッドは1人で眠るのには十分な広さであったが、大人2人では狭い。
だが、2人の間には「どちらかがソファーで寝る」という考えは浮かばなかった。
布団にもぐり、榛名がおやすみ3秒を決めようとしたところ、のしっと覆いかぶさってきた伊吹に、
「はるちゃん……」
と迫られたのだった。
「だーーっ、だめだって! だめダメDAME!」
「そこまでダメ出ししなくたって……」
明後日の方向にシュンとうなだれてしまった伊吹に、
「そういう意味じゃないわよ!」
と、勢いよく弁解したのが、はっぱをかけているように聞こえたのか、
「だったら……」
再び迫られたので、
「ちょっと、待てーー!」
渾身の力で押し返したのだった。やはりびくともしなかったけれども。
だが、やはり伊吹は止まった。
昔から紳士的で理性的で、人の嫌がることを無理に進める人じゃなかった。それゆえに彼は止まった。
「休日とは言え、伊吹くんは何だかんだと忙しいじゃない? 年末年始の準備もあってバタバタしているし、ここで体力を使っている場合じゃないわよ」
ホテルロイヤルヴィリジアンの事務課は仕事納めを迎えたが、ホテルは年中営業している。
ましてや冬休み、年末年始はかき入れ時である。
伊吹はたびたび様子を見るためにホテルに出向いていた。
(これまではホテルで暮らしていたものだから、きっと何かとずっと仕事をしていたんだろうなぁ……)
まさに思い浮かぶようだった。
「いいや? 俺は体力がかなりある方だし、はるちゃんとこうするためなら無尽蔵にだってなれる。むしろシた方がより一層……」
「わーーーっ! もういい! もういいから、単に私が休みたいのよーーっ!」
ついに最終手段を使った。
実際、年中仕事で忙しいけれども、12月からは特別忙しかった。
その上、例年ならすでにグータラしている頃だ。ここらでちょっと小休止したい。
とは言え、伊吹に求められるのは嬉しい。榛名だって伊吹が欲しいのだ。(伊吹限定で)性欲もある。実のところ体力だってなくはない。
本音を言えば、大好きな伊吹と5年越しに結婚できたのだ。イチャイチャラブラブしたいし、心ゆくまで伊吹に触れたい。
我を忘れるほど伊吹に激しく抱かれたいし、もうとにかく伊吹にベッタリと引っ付いていたい。
(だけど、今これ以上伊吹くんを摂取したら……過剰摂取で死んでしまう!)
5年に渡る絶食期間があったのだ。供給過多は心と身体に支障をきたす。
そういうわけで、少々のリハビリ期間を必要とした。
「そうだよね……。ごめん、はるちゃんのことを考えているつもりで、考えが足りなかった。今夜はもう寝よう」
伊吹はそう言うと、後ろから榛名をガッチリ抱え込むようにして、布団の中に潜り込んだ。
「ううん、私こそゴメン。伊吹くんとするの、嫌じゃないのよ? 私だってシたいけど、もうちょっと落ち着いてからにしよう?」
「俺たちに落ち着く日なんて来るのか? これからもっと忙しくなる。だから時間は自ら作っていかなければ。そして俺は、はるちゃんのためならばその用意がある。昔とは違う。俺は……」
(くそっ、屁理屈をこねてきやがった……)
そこで榛名は一計を案じた。
「それじゃあ、いつにするか、あらかじめ決めておこうか?」
マジな雰囲気を少々和らげるため、明るく可愛い感じでそう提案すると……
「じゃあ、熱海旅行の夜、温泉旅館に宿泊する日はどうかな?」
間髪入れずに返答があった。
「あっ、うん? それなら……」
「決定だな」
(いや、私のリハビリ期間、意外と短くないか……?)
榛名のそんな思惑とは裏腹に次回のスケジュールが決まった。
だが、伊吹からすれば初夜から一転、1月2日の夜までおあずけを食らうことになったのだ。
「ねえ、伊吹くん」
「なんだい、はるちゃん?」
「……この体勢でいるの、疲れない?」
「全然」
風呂から上がってからというもの、伊吹は榛名を後ろから抱えたままの体勢でいる。
より詳細に説明すると、ベッドを背もたれにして、カーペットの上のクッションに座り、榛名を後ろから抱っこした姿勢である。
「この体勢だとはるちゃんを好きなだけ触れるし、好きなだけ嗅げる。しいて言えば、顔が見えないのが難点だな」
うっとりと恍惚とした声が髪に触れてくすぐったい。
先程から榛名の髪に顔をうずめてはクンクンと匂いを嗅いでいる。
「ちょっと、嗅がないでよ!」
だが文句を言ったところで聞きやしない。
「はるちゃん吸い、最高だ……」
開き直って大きく深呼吸する始末だった。
その上、手はスウェットの上をワサワサと這いずり周り、榛名の柔らかい部分をムニムニと揉んでいる。
身体をよじって逃げ出そうとしても無意味である。
心ゆくまで堪能している伊吹に、優しくだが、ガッチリと絡み取られていた。
「ハア……」
伊吹が引っ越して来てからというもの、毎日が攻防戦だった。
何の攻防戦かと言えば、もちろんそれは――
◇
「さて、もう寝ますかね」
遡って、引っ越し初日の晩。
あくびをしながら、榛名はベッドにモゾモゾと入った。
続いて伊吹もやって来る。
シングルサイズのベッドは1人で眠るのには十分な広さであったが、大人2人では狭い。
だが、2人の間には「どちらかがソファーで寝る」という考えは浮かばなかった。
布団にもぐり、榛名がおやすみ3秒を決めようとしたところ、のしっと覆いかぶさってきた伊吹に、
「はるちゃん……」
と迫られたのだった。
「だーーっ、だめだって! だめダメDAME!」
「そこまでダメ出ししなくたって……」
明後日の方向にシュンとうなだれてしまった伊吹に、
「そういう意味じゃないわよ!」
と、勢いよく弁解したのが、はっぱをかけているように聞こえたのか、
「だったら……」
再び迫られたので、
「ちょっと、待てーー!」
渾身の力で押し返したのだった。やはりびくともしなかったけれども。
だが、やはり伊吹は止まった。
昔から紳士的で理性的で、人の嫌がることを無理に進める人じゃなかった。それゆえに彼は止まった。
「休日とは言え、伊吹くんは何だかんだと忙しいじゃない? 年末年始の準備もあってバタバタしているし、ここで体力を使っている場合じゃないわよ」
ホテルロイヤルヴィリジアンの事務課は仕事納めを迎えたが、ホテルは年中営業している。
ましてや冬休み、年末年始はかき入れ時である。
伊吹はたびたび様子を見るためにホテルに出向いていた。
(これまではホテルで暮らしていたものだから、きっと何かとずっと仕事をしていたんだろうなぁ……)
まさに思い浮かぶようだった。
「いいや? 俺は体力がかなりある方だし、はるちゃんとこうするためなら無尽蔵にだってなれる。むしろシた方がより一層……」
「わーーーっ! もういい! もういいから、単に私が休みたいのよーーっ!」
ついに最終手段を使った。
実際、年中仕事で忙しいけれども、12月からは特別忙しかった。
その上、例年ならすでにグータラしている頃だ。ここらでちょっと小休止したい。
とは言え、伊吹に求められるのは嬉しい。榛名だって伊吹が欲しいのだ。(伊吹限定で)性欲もある。実のところ体力だってなくはない。
本音を言えば、大好きな伊吹と5年越しに結婚できたのだ。イチャイチャラブラブしたいし、心ゆくまで伊吹に触れたい。
我を忘れるほど伊吹に激しく抱かれたいし、もうとにかく伊吹にベッタリと引っ付いていたい。
(だけど、今これ以上伊吹くんを摂取したら……過剰摂取で死んでしまう!)
5年に渡る絶食期間があったのだ。供給過多は心と身体に支障をきたす。
そういうわけで、少々のリハビリ期間を必要とした。
「そうだよね……。ごめん、はるちゃんのことを考えているつもりで、考えが足りなかった。今夜はもう寝よう」
伊吹はそう言うと、後ろから榛名をガッチリ抱え込むようにして、布団の中に潜り込んだ。
「ううん、私こそゴメン。伊吹くんとするの、嫌じゃないのよ? 私だってシたいけど、もうちょっと落ち着いてからにしよう?」
「俺たちに落ち着く日なんて来るのか? これからもっと忙しくなる。だから時間は自ら作っていかなければ。そして俺は、はるちゃんのためならばその用意がある。昔とは違う。俺は……」
(くそっ、屁理屈をこねてきやがった……)
そこで榛名は一計を案じた。
「それじゃあ、いつにするか、あらかじめ決めておこうか?」
マジな雰囲気を少々和らげるため、明るく可愛い感じでそう提案すると……
「じゃあ、熱海旅行の夜、温泉旅館に宿泊する日はどうかな?」
間髪入れずに返答があった。
「あっ、うん? それなら……」
「決定だな」
(いや、私のリハビリ期間、意外と短くないか……?)
榛名のそんな思惑とは裏腹に次回のスケジュールが決まった。
だが、伊吹からすれば初夜から一転、1月2日の夜までおあずけを食らうことになったのだ。
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