下剋上御曹司の純愛~再会した契約妻への積年の愛と執着が重すぎる~

織山ひなた

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ep.11 夜の攻防線、新居問題ふたたび

2.


そして現在に至る。

おあずけを食らった伊吹のスキンシップは日々増えていく。
皆まで言わずともわかる。榛名限定で欲求不満が溜まっているのだ。

今もクンクン嗅いだり、サワサワ触れたりしてくるが、隙を見てスウェットの内側に手が忍び込んでくる。
「あっ……だめ!」
榛名は伊吹の手をガッチリ捕まえて、衣服の中から引きずり出した。
(まったく、油断も隙もあったもんじゃない)

「はるちゃん……」
(キューンと耳の垂れた犬みたいなショボンとした顔をしても……ダ、ダメだ!)
「明日早いでしょ! さっ、もう寝よっ」

明日から1泊2日で熱海に行く。
1番の目的は、伊吹の母に会いに行くことだった。

伊吹の腕をほどいてサッと起き上がり、ベッドに入った。
後から伊吹も消灯して布団に入ってくると、榛名を向かい合ったまま抱きしめた。

伊吹の温もりを感じて眠りにつく。幸せな瞬間だった。

これまで1人暮らしをしてきた愛着のある部屋に、今は伊吹がいてくれる。
1人では広いと感じていたこの部屋も、2人だと……

(本音を言えば、この狭さがたまらなく良いんだよね~)
なにせ伊吹とくっついていられる。外は寒いけれど、家の中では伊吹とぬくぬくしていられる。
(あぁ……夢にまで見た幸せ……最高……)

(……だけど、どれほど愛する人とでも、夏は暑いわよね……)


冬の今だからこそ、この幸せを実感できる。だけど夏の暑さには、果たして耐えきれるだろうか?

密着することが多い分、暑くて、汗くさくなって、うっとおしくなって……それが原因で愛が冷めたりしないか――?

もちろん、汗の匂いごときで榛名の愛が冷めることはない。むしろ伊吹の汗のにおいを嗅ぎたいくらいだ。伊吹をスーハ―スーハ―したい。

だけど伊吹にとっては――? 幻滅されてしまったら――?

「やっぱり、夏までには引っ越した方がいいと思うわ」
「いきなりどうしたんだい、はるちゃん?」

自分の腕の中で可愛らしく眠りについていたと思っていた榛名が、いきなり結論づけたものだから、普通なら驚くかもしれない。

だが伊吹は眠りについた愛する妻の姿を凝視していたので、「何か悶々と考えていそうだなぁ」と薄々気がついていた。

それに、普段から察しが良く勘の鋭い伊吹である。ましてや愛するがゆえに四六時中観察してしまう榛名の思考回路は大体推察できる。

とは言え、まずは本人の口から理由が聞きたい。その方が予想外の可愛い言動が飛び出てくるからだ。

「……というわけで、年明けから新居探しをした方が良いと思うの」
「なるほど」

「伊吹くんのツテの不動産屋があれば、話だけ通しておいてくれれば、私が行って見てくるから」

なにせ若宮家、その御曹司の新居だ。諸々の点を考慮すれば、日頃から若宮家が懇意にしている不動産屋に依頼するのが理にかなっている。


そして伊吹は超多忙の身。年明けからはさらに忙しくなるはず。
榛名だって忙しいが、伊吹の多忙さの比ではない。

よって、事前に伊吹から譲れない条件などを聞いておき、榛名が不動産屋を訪れるのが効率的だろう、と考えた。

「ありがとう、はるちゃん。そこまで考えてくれて」
愛おしさをこめて伊吹は榛名をさらに抱き寄せた。
榛名の脳内では「はぁぁ、幸せ~」と幸せの鐘が鳴り響いている。


「だけど、はるちゃん。1人で出かけるのはいけないよ。俺も一緒に行く。これからは、どこに行くのも必ず一緒だ。わかったね?」

「うん。わかった」
榛名はトロンした目で素直に返事をした。眠かったからではない。

(伊吹くんが心配してくれている)
伊吹のことだ、榛名を1人で物件の下見に行かせることはないと思っていた。
彼だって色々と見たいだろうし、これまでの傾向を見ても、榛名を1人にするとは考えられなかった。

けれど、こうしてはっきりと真剣に言葉にしてもらうと、やはり大事にしてもらえているという実感がわく。
もう充分大事にしてもらっているけれども。

「ふふっ、いい子だね。これからはずっと一緒だ。どこに行くのも、何をするのも。もう二度と決して離さないよ、はるちゃん……」
「うん、離さないでね……」

伊吹からの甘く包み込まれるような、ほどよい執着心を感じながら、榛名は再び眠りについた。

――だが、この時の榛名はまだ知らなかった。伊吹の執着心はそんな程度では済まされないということを。
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