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ep.11 夜の攻防線、新居問題ふたたび
3.
日頃から、自分の考えや決心を口に出さない、まさに不言実行の男である若宮伊吹。
彼があえて「離さない」と執着宣言を出してきたのだ。
その本気度は計り知れない……
そんな伊吹の甘やかな重い想いに包まれながら、ウトウトする榛名であったが……
「はるちゃん、実は新居の目途はもう立っているんだ」
「なぜ、先に言わぬ」
榛名の目はパチリと覚めた。
「ちょっと、何それ? 聞いてないんだけど――!」
「それはそうさ。今初めて言ったのだから」
「……ちなみに、新居に入れるのはいつ頃なの?」
「3月」
…………。
「なんで今まで言わなかったのよー!」
ベッドの掛け布団の中、変わらず伊吹に抱きしめられながら、榛名はジタバタと動いた。
「もし話したら、はるちゃんはきっとこう言うはずだ。『伊吹くん、新居に引っ越すまでは別々に暮らそう』と」
伊吹はジタバタする榛名を「どうどう」とあやしながら、ガッチリとその腕の中に抱え込んでいる。
「それはそうでしょうよ。引っ越しの手間は1度で済ませたいもの」
「その通りだよ。だけど、俺はどうしてもこの部屋で、はるちゃんと一緒に暮らしたかったんだ」
「え……」
榛名は思わず顔を見上げて、伊吹の表情をたしかめた。どこか遠くを見るような、昔を思い出しているような表情だった。
「はるちゃんが5年住んだこの部屋で、5年分のはるちゃんの気配に包まれながら、はるちゃんと共に暮らす。それこそが俺の願望だった」
もはや『はるちゃん』のゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。
(だから、この部屋に住むことにあんなに固執してたんだ――)
榛名は腑に落ちた。そして同時に伊吹の想いの深さを知る。
「それで、新居はどこになるの?」
黙っていたことについては不問にしてあげよう。愛おしい理由だったのだから。
そう思って、少し甘えた感じで尋ねてみた。
「ホテルロイヤルヴィリジアン・アネックスビルの10階。非公開になっているのは、住居スペースだからなのさ」
…………。
「な、何だってーーーー!?」
眠気はすっかり吹き飛んでしまった。
「今度、間取り図を見せるからね。色々と説明するよ」
「えっ!? あぁ、そうね。……ってそういう場合じゃないんだわ」
新居は銀座のど真ん中。ホテルロイヤルヴィリジアンの敷地内。アネックスビルの10階。
(わ……私、そんな煌びやかな場所で生活できるの!?)
現在の日本橋浜町だって銀座からほど近い便利な都会の中心部だが、下町情緒の残った、住むには落ち着いた場所である。
(そりゃあ、銀座は上品な大人の街って感じだけど、人だって多いし、私、やっていけるのかーー!?)
榛名にとってはお出かけスポットというイメージである銀座にも、もちろん多くの人が暮らしている。
わかってはいるのだが……
(もはやラフな格好で近所のコンビニには行けない)
住むのが銀座だからというのもあるが、なにせアネックスビルはホテルの従業員が出入りするのだ。
ちょっとの買い物に行くにもバッチリメイクをしなければならない。
榛名は、ビルの入口ですれ違う従業員たちに、エコバッグにネギしょった自分が「おほほ、ごきげんよう」と挨拶している姿を想像した。
「10階直通の専用エレベーターと居住者以外立ち入り禁止の専用出入口を作ったよ」
「あぁ、そうなのね」
(ならば、少しはマシかぁ……)
すっかり冴えてしまった目で、再びベッドに潜り込んだのだが……
「眠れない……。こんな話を聞いたら、眠れなくなってしまった……」
「だったら、眠れるように少し運動するかい? 大丈夫、『今夜は眠らせない』なんて言わないよ。明日に響かないように調節する。俺は予定が前倒しになるのは全然構わないよ」
妙に甘い艶のある声で、伊吹が明確な意思をもって触れてきた。
「わっ、私は構うわ! もっ、もう寝ます! おやすみ」
慌てた榛名がそう言って目を閉じると、クスクス笑う伊吹に抱きしめられ、今度こそ本当に眠りについたのだった。
彼があえて「離さない」と執着宣言を出してきたのだ。
その本気度は計り知れない……
そんな伊吹の甘やかな重い想いに包まれながら、ウトウトする榛名であったが……
「はるちゃん、実は新居の目途はもう立っているんだ」
「なぜ、先に言わぬ」
榛名の目はパチリと覚めた。
「ちょっと、何それ? 聞いてないんだけど――!」
「それはそうさ。今初めて言ったのだから」
「……ちなみに、新居に入れるのはいつ頃なの?」
「3月」
…………。
「なんで今まで言わなかったのよー!」
ベッドの掛け布団の中、変わらず伊吹に抱きしめられながら、榛名はジタバタと動いた。
「もし話したら、はるちゃんはきっとこう言うはずだ。『伊吹くん、新居に引っ越すまでは別々に暮らそう』と」
伊吹はジタバタする榛名を「どうどう」とあやしながら、ガッチリとその腕の中に抱え込んでいる。
「それはそうでしょうよ。引っ越しの手間は1度で済ませたいもの」
「その通りだよ。だけど、俺はどうしてもこの部屋で、はるちゃんと一緒に暮らしたかったんだ」
「え……」
榛名は思わず顔を見上げて、伊吹の表情をたしかめた。どこか遠くを見るような、昔を思い出しているような表情だった。
「はるちゃんが5年住んだこの部屋で、5年分のはるちゃんの気配に包まれながら、はるちゃんと共に暮らす。それこそが俺の願望だった」
もはや『はるちゃん』のゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。
(だから、この部屋に住むことにあんなに固執してたんだ――)
榛名は腑に落ちた。そして同時に伊吹の想いの深さを知る。
「それで、新居はどこになるの?」
黙っていたことについては不問にしてあげよう。愛おしい理由だったのだから。
そう思って、少し甘えた感じで尋ねてみた。
「ホテルロイヤルヴィリジアン・アネックスビルの10階。非公開になっているのは、住居スペースだからなのさ」
…………。
「な、何だってーーーー!?」
眠気はすっかり吹き飛んでしまった。
「今度、間取り図を見せるからね。色々と説明するよ」
「えっ!? あぁ、そうね。……ってそういう場合じゃないんだわ」
新居は銀座のど真ん中。ホテルロイヤルヴィリジアンの敷地内。アネックスビルの10階。
(わ……私、そんな煌びやかな場所で生活できるの!?)
現在の日本橋浜町だって銀座からほど近い便利な都会の中心部だが、下町情緒の残った、住むには落ち着いた場所である。
(そりゃあ、銀座は上品な大人の街って感じだけど、人だって多いし、私、やっていけるのかーー!?)
榛名にとってはお出かけスポットというイメージである銀座にも、もちろん多くの人が暮らしている。
わかってはいるのだが……
(もはやラフな格好で近所のコンビニには行けない)
住むのが銀座だからというのもあるが、なにせアネックスビルはホテルの従業員が出入りするのだ。
ちょっとの買い物に行くにもバッチリメイクをしなければならない。
榛名は、ビルの入口ですれ違う従業員たちに、エコバッグにネギしょった自分が「おほほ、ごきげんよう」と挨拶している姿を想像した。
「10階直通の専用エレベーターと居住者以外立ち入り禁止の専用出入口を作ったよ」
「あぁ、そうなのね」
(ならば、少しはマシかぁ……)
すっかり冴えてしまった目で、再びベッドに潜り込んだのだが……
「眠れない……。こんな話を聞いたら、眠れなくなってしまった……」
「だったら、眠れるように少し運動するかい? 大丈夫、『今夜は眠らせない』なんて言わないよ。明日に響かないように調節する。俺は予定が前倒しになるのは全然構わないよ」
妙に甘い艶のある声で、伊吹が明確な意思をもって触れてきた。
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