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ep.Last 伊吹くん、もう二度と離れないから
2.
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……それでは、引継ぎは以上です。中村さん、これからもわからないことがあったら何でも聞いて。相談に乗るから」
E&Eトラベル、法人営業部内のミーティングスペース。
ここで部長、チーフ、そして後輩の中村結衣と共に打ち合わせをしていた。
内容はホテルロイヤルヴィリジアンと提携した新サービスの導入である。
昨年12月に榛名が提案した企画はホテルの稟議を通り、実現する運びとなった。
この企画は「若宮伊吹の妻」だからではなく、きちんと客観的な目を通して承認されたものだ。
だから榛名は堂々と自信を持って企画に取り組もうとやる気に満ちていたが、同時に「担当は代わった方が良いのかもしれない」とも考えた。
そこで上司である部長に相談すると、
「いや、由比……若宮さんが企画の担当を続けてくれて構わないよ。だが、もし気になると言うのなら……君の意志に任せるよう」
部長は穏やかにそう提案してくれたのだ。
悩んだ結果、潔く別の者に譲ることを考えた榛名は、まずは後輩の中村結衣に打診してみた。
「もちろん、押し付けているわけじゃないのよ。もし中村さんが良ければ、今後のステップアップのためにもやってみない?」
「はい! やります!」
意外にも中村結衣からは二つ返事でOKをもらったのだった。
そして現在の打ち合わせに戻る。
「だって新企画はホテルロイヤルヴィリジアンでのオシャレなランチプランですもん。こんなに華々しい企画、そりゃあ担当したいですよ」
「意欲を持ってやってくれるのはありがたいわ。だけど、華々しいプラス面だけでなく、マイナス面……デメリットなどもきちんと説明しなければならないわ。その辺り、客観的な視点を忘れずにね」
ようは「浮かれないでね」と言いたいのを、パワハラだと捉えられないように諭したのが今の言葉だ。
「任せて下さい! 私、こう見えて結構リアリストなんで大丈夫です!」
中村結衣は威勢よく胸を張って答えた。
(本当に大丈夫だろうか……?)
しかし、この後輩も法人営業部の営業職を任せられているぐらいだ。調子良く見えても、肝心なところではしっかりやってくれるはずだ。
だがしかし……
「若宮さんが寿退社した分は、私がしっかり引継ぎますから」
「ちょっと、人を勝手に退職扱いにしないでもらえる?」
「えぇっ、違うんですか? てっきり辞めてしまうのかと……」
中村結衣は驚いた様子で口元を押さえた。
この後輩は割とわかりやすい性格なので、思っていることがわかったが、周りの他の社員たちもそんな風に思っているのだろうか……。
榛名がちらりと部長とチーフの顔を見ると、2人は一瞬驚いたように目を大きく見開いたが、すぐに冷静な表情に戻ったのはさすがだ。
やはり2人も後輩と同じことを想像していたようだ。たしかに、そう思われるのも仕方ないのかもしれないけれど……。
「私は、この会社で仕事を続けるつもりなのですが……」
少々のしかめっ面で榛名がそう言うと、
「その件に関しては、今度のキャリアアップ面談で話そうと思っていたのだが……。我々としては由比……若宮さんに残って欲しいよ。優秀で貴重な戦力が失われるのは痛手が大きい」
部長はなだめるように伝えてきたが、それは本心のように聞こえた。隣でチーフもうなずいている。
そう評価してもらえるのは榛名としてもありがたく、ホッと胸を撫でおろした。
(だって、いらない子呼ばわりされたら悲しいもの……)
5年間頑張って続けてきたのだ。「いてもいなくても変わらない」「どうせ辞めてしまうのだろう」などと思われたくはなかった。
「だが……本当に良いのかね? 旦那さんはホテルロイヤルヴィリジアンの社長なんだ。正直言って、働かなくても生活にはまったく支障はないだろう。今後はプライベートで若宮氏を支えるための仕事が発生するだろうし、無理をして欲しくないと言うのが本当のところだ」
「……」
部長を始めとするE&Eトラベル側としては、ホテルロイヤルヴィリジアンに義理立てしている部分もあるのだろう。
「それに……若宮氏からは君に、ホテルロイヤルヴィリジアンに入社して欲しいとは頼まれなかったのかね?」
なるほど、それが1番の理由のようだ。
「いえ、今のところは何も。ですが……わかりました。今後の進退に関しては、改めてもう少し考えてみます。色々とご配慮頂き、ありがとうございます」
最後に榛名は自らそう締めくくった。
部長とチーフからは「若宮さんの望むようにして欲しい。ウチで仕事を続けてくれるなら、それは願ってもみないことだ」という言葉があった。
マイペースな後輩の中村結衣に至っては、
「私もホテルロイヤルヴィリジアンで素敵な出会いがあると良いな~。あっ、もちろん若宮さんの旦那様に近づいたりしませんよ。狙っているのは、その側近の方とか……」
やはり婚活目的でこの企画を引き継いだようだ。だが、動機がどうあれ、しっかりやってくれさえすれば問題ない。
そのための手綱をこちらでしっかりと引き締めるとしよう――榛名は悟ったように決意したのだった。
――伊吹くんの側近かぁ……
ふいに頭に浮かんだのは、伊吹の秘書・東城岬の顔だった。
(でも、あの人にはずっと好きな人がいるんじゃないかな?)
榛名のその予想は見事に当たることになる。
「……それでは、引継ぎは以上です。中村さん、これからもわからないことがあったら何でも聞いて。相談に乗るから」
E&Eトラベル、法人営業部内のミーティングスペース。
ここで部長、チーフ、そして後輩の中村結衣と共に打ち合わせをしていた。
内容はホテルロイヤルヴィリジアンと提携した新サービスの導入である。
昨年12月に榛名が提案した企画はホテルの稟議を通り、実現する運びとなった。
この企画は「若宮伊吹の妻」だからではなく、きちんと客観的な目を通して承認されたものだ。
だから榛名は堂々と自信を持って企画に取り組もうとやる気に満ちていたが、同時に「担当は代わった方が良いのかもしれない」とも考えた。
そこで上司である部長に相談すると、
「いや、由比……若宮さんが企画の担当を続けてくれて構わないよ。だが、もし気になると言うのなら……君の意志に任せるよう」
部長は穏やかにそう提案してくれたのだ。
悩んだ結果、潔く別の者に譲ることを考えた榛名は、まずは後輩の中村結衣に打診してみた。
「もちろん、押し付けているわけじゃないのよ。もし中村さんが良ければ、今後のステップアップのためにもやってみない?」
「はい! やります!」
意外にも中村結衣からは二つ返事でOKをもらったのだった。
そして現在の打ち合わせに戻る。
「だって新企画はホテルロイヤルヴィリジアンでのオシャレなランチプランですもん。こんなに華々しい企画、そりゃあ担当したいですよ」
「意欲を持ってやってくれるのはありがたいわ。だけど、華々しいプラス面だけでなく、マイナス面……デメリットなどもきちんと説明しなければならないわ。その辺り、客観的な視点を忘れずにね」
ようは「浮かれないでね」と言いたいのを、パワハラだと捉えられないように諭したのが今の言葉だ。
「任せて下さい! 私、こう見えて結構リアリストなんで大丈夫です!」
中村結衣は威勢よく胸を張って答えた。
(本当に大丈夫だろうか……?)
しかし、この後輩も法人営業部の営業職を任せられているぐらいだ。調子良く見えても、肝心なところではしっかりやってくれるはずだ。
だがしかし……
「若宮さんが寿退社した分は、私がしっかり引継ぎますから」
「ちょっと、人を勝手に退職扱いにしないでもらえる?」
「えぇっ、違うんですか? てっきり辞めてしまうのかと……」
中村結衣は驚いた様子で口元を押さえた。
この後輩は割とわかりやすい性格なので、思っていることがわかったが、周りの他の社員たちもそんな風に思っているのだろうか……。
榛名がちらりと部長とチーフの顔を見ると、2人は一瞬驚いたように目を大きく見開いたが、すぐに冷静な表情に戻ったのはさすがだ。
やはり2人も後輩と同じことを想像していたようだ。たしかに、そう思われるのも仕方ないのかもしれないけれど……。
「私は、この会社で仕事を続けるつもりなのですが……」
少々のしかめっ面で榛名がそう言うと、
「その件に関しては、今度のキャリアアップ面談で話そうと思っていたのだが……。我々としては由比……若宮さんに残って欲しいよ。優秀で貴重な戦力が失われるのは痛手が大きい」
部長はなだめるように伝えてきたが、それは本心のように聞こえた。隣でチーフもうなずいている。
そう評価してもらえるのは榛名としてもありがたく、ホッと胸を撫でおろした。
(だって、いらない子呼ばわりされたら悲しいもの……)
5年間頑張って続けてきたのだ。「いてもいなくても変わらない」「どうせ辞めてしまうのだろう」などと思われたくはなかった。
「だが……本当に良いのかね? 旦那さんはホテルロイヤルヴィリジアンの社長なんだ。正直言って、働かなくても生活にはまったく支障はないだろう。今後はプライベートで若宮氏を支えるための仕事が発生するだろうし、無理をして欲しくないと言うのが本当のところだ」
「……」
部長を始めとするE&Eトラベル側としては、ホテルロイヤルヴィリジアンに義理立てしている部分もあるのだろう。
「それに……若宮氏からは君に、ホテルロイヤルヴィリジアンに入社して欲しいとは頼まれなかったのかね?」
なるほど、それが1番の理由のようだ。
「いえ、今のところは何も。ですが……わかりました。今後の進退に関しては、改めてもう少し考えてみます。色々とご配慮頂き、ありがとうございます」
最後に榛名は自らそう締めくくった。
部長とチーフからは「若宮さんの望むようにして欲しい。ウチで仕事を続けてくれるなら、それは願ってもみないことだ」という言葉があった。
マイペースな後輩の中村結衣に至っては、
「私もホテルロイヤルヴィリジアンで素敵な出会いがあると良いな~。あっ、もちろん若宮さんの旦那様に近づいたりしませんよ。狙っているのは、その側近の方とか……」
やはり婚活目的でこの企画を引き継いだようだ。だが、動機がどうあれ、しっかりやってくれさえすれば問題ない。
そのための手綱をこちらでしっかりと引き締めるとしよう――榛名は悟ったように決意したのだった。
――伊吹くんの側近かぁ……
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(でも、あの人にはずっと好きな人がいるんじゃないかな?)
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