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ep.Last 伊吹くん、もう二度と離れないから
4.
「はぁ……俺、なんであんなにクセの強い女が良いんだろう……」
榛名のそばで、再び東城がため息を吐きながらぼやいた。視線の先には鞠花がいる。
「学生時代は、『まさか、俺があんなクセ強オンナを好きなわけがない』って認めたくなくて、別に彼女を作ってはいたのですが……」
東城は頭を振って、歴代の彼女たちと上手く行かなかったことを示した。
どうやら東城は自覚していたよりも鞠花にハマっていたらしい。
「挙句の果てには、付き合っていた子の言葉遣いまで気になってしまう始末で……。さすがに『~ですわ』はないだろうって思いますけど……」
「『岬く~ん』って甘い声で寄ってくる子たちが、他の人間の前で『うるっせーよ』とか『~じゃね?』とか喋っているのを聞いていると、お小言を言いたくなってくる……もう末期だと思いましたよ」
社会人になってからも恋人はいたが、『私のこと、実はそんなに好きじゃないでしょ?』とフラれてしまったそうだ。そこで観念したらしい。
「……まあ自分のことは置いといて、そう言えば、榛名さんはホテルロイヤルヴィリジアンにご入社されないのですか?」
「えっ……?」
突然、話題が全然違う方向に変わった。
それが先日職場でも聞かれたことだったので榛名は驚いていた。
(でも、そうか……やっぱり皆、そう思うんだな)
E&Eトラベルを辞めて家庭に入る。またはホテルロイヤルヴィリジアンに転職する。
考えてみれば、たしかにそう思われるだろうし、それ自体は嫌ではない。
ただ、新卒以来ずっと頑張って働いてきた今の会社を辞めることを考えたことがなかった。
「はるちゃんには好きな仕事をしてもらいたい。そう思っているんですよ」
バルコニーから振り向いてこちらに戻ってきた伊吹が、にこやかに微笑みながらそう言った。
「そうなんですか。てっきり伊吹さんは、榛名さんにご自分のそばで働いて欲しいと口説き落としているのかと思っていました」
ほおと目を丸くして、東城は驚いていた。
「伊吹さんのストッパー役として、榛名さんが適任だと思ったんですけどねぇ」
東城の言う「ストッパー役」というのが気になる。
「伊吹さんは有能なあまり、何でもご自分でやろうとする。働きすぎなんですよ」
東城が困ったようにため息を吐く。
(あぁ、やはり……)
榛名の懸念していた通りだった。
伊吹は真面目で責任感が強い。何とか持ち直したホテルを今度は維持しなければならない。さらなる高みまで進化させなければならない。
彼は従業員も家族も、すべてを守る気でいるのだ。自分1人で。
「伊吹さんと仕事をしたい若い奴らは多いですし、何より30代、40代の働き盛りが『自分たちも伊吹さんの力になりたい』と言ってくれていますからね。これを使わない手はないです」
しみじみと東城はうなずいた。
27歳の伊吹に対して年上にあたる30代、40代の社員たち。
伊吹は上に立つ者として、彼らに媚びへつらうことはしないが、年上の人間としての彼らのその経験や能力に敬意を表している。
だから「ついていきたい」と思う社員たちは多く、その中には信頼できる者も多くいるのだそうだ。
「今回、新規事業である、老人ホーム事業の子会社の社長に収まった人物は、まさにそのタイプです」
40代の営業本部長。有能なだけでなく、伊吹を始め、社内でも信頼が厚い人物のようだ。
「最初は伊吹さんがそちらの事業も兼任すると聞いて、さすがに過労で倒れるからやめてくれと止めましたよ。結果、良い人物が収まってくれてホッとしましたよ」
「まあ、まるでご自分の手柄のようですわ」
ツッコミを入れる鞠花に、東城は「うるさい」と言い返していた。
何もかも1人で抱え込もうとする伊吹には、ストッパーとなる人間が必要だ――榛名もそう思う。だが……
「はるちゃんは今の職場で頼りにされているし、順調にキャリアを積み重ねている。俺はその邪魔をしたくないんですよ」
ふふっと少し寂しげに伊吹は微笑んだ。
(きっと伊吹くんはわかっている……。私が今の会社を志望した理由も、伊吹くんと別れてからは、仕事に没頭することで自分を保っていたことも……)
再会してからも志望理由を伊吹に話したことはない。内緒にしているのではなくて、単に話す機会がなかったのだ。
でも何となく、勘の良い伊吹なら気づいているような気がしていた。
(私は今後の自分のことを、伊吹くんのことを、ちゃんと考えないといけない……!)
突然決まった結婚に対して、当然ながらその後のキャリアを想像なんてしていなかった。
伊吹は案ずるなと言いたげな微笑みを向けてきた。
だけど榛名は今、自分が岐路に立たされていることを実感していた。
榛名のそばで、再び東城がため息を吐きながらぼやいた。視線の先には鞠花がいる。
「学生時代は、『まさか、俺があんなクセ強オンナを好きなわけがない』って認めたくなくて、別に彼女を作ってはいたのですが……」
東城は頭を振って、歴代の彼女たちと上手く行かなかったことを示した。
どうやら東城は自覚していたよりも鞠花にハマっていたらしい。
「挙句の果てには、付き合っていた子の言葉遣いまで気になってしまう始末で……。さすがに『~ですわ』はないだろうって思いますけど……」
「『岬く~ん』って甘い声で寄ってくる子たちが、他の人間の前で『うるっせーよ』とか『~じゃね?』とか喋っているのを聞いていると、お小言を言いたくなってくる……もう末期だと思いましたよ」
社会人になってからも恋人はいたが、『私のこと、実はそんなに好きじゃないでしょ?』とフラれてしまったそうだ。そこで観念したらしい。
「……まあ自分のことは置いといて、そう言えば、榛名さんはホテルロイヤルヴィリジアンにご入社されないのですか?」
「えっ……?」
突然、話題が全然違う方向に変わった。
それが先日職場でも聞かれたことだったので榛名は驚いていた。
(でも、そうか……やっぱり皆、そう思うんだな)
E&Eトラベルを辞めて家庭に入る。またはホテルロイヤルヴィリジアンに転職する。
考えてみれば、たしかにそう思われるだろうし、それ自体は嫌ではない。
ただ、新卒以来ずっと頑張って働いてきた今の会社を辞めることを考えたことがなかった。
「はるちゃんには好きな仕事をしてもらいたい。そう思っているんですよ」
バルコニーから振り向いてこちらに戻ってきた伊吹が、にこやかに微笑みながらそう言った。
「そうなんですか。てっきり伊吹さんは、榛名さんにご自分のそばで働いて欲しいと口説き落としているのかと思っていました」
ほおと目を丸くして、東城は驚いていた。
「伊吹さんのストッパー役として、榛名さんが適任だと思ったんですけどねぇ」
東城の言う「ストッパー役」というのが気になる。
「伊吹さんは有能なあまり、何でもご自分でやろうとする。働きすぎなんですよ」
東城が困ったようにため息を吐く。
(あぁ、やはり……)
榛名の懸念していた通りだった。
伊吹は真面目で責任感が強い。何とか持ち直したホテルを今度は維持しなければならない。さらなる高みまで進化させなければならない。
彼は従業員も家族も、すべてを守る気でいるのだ。自分1人で。
「伊吹さんと仕事をしたい若い奴らは多いですし、何より30代、40代の働き盛りが『自分たちも伊吹さんの力になりたい』と言ってくれていますからね。これを使わない手はないです」
しみじみと東城はうなずいた。
27歳の伊吹に対して年上にあたる30代、40代の社員たち。
伊吹は上に立つ者として、彼らに媚びへつらうことはしないが、年上の人間としての彼らのその経験や能力に敬意を表している。
だから「ついていきたい」と思う社員たちは多く、その中には信頼できる者も多くいるのだそうだ。
「今回、新規事業である、老人ホーム事業の子会社の社長に収まった人物は、まさにそのタイプです」
40代の営業本部長。有能なだけでなく、伊吹を始め、社内でも信頼が厚い人物のようだ。
「最初は伊吹さんがそちらの事業も兼任すると聞いて、さすがに過労で倒れるからやめてくれと止めましたよ。結果、良い人物が収まってくれてホッとしましたよ」
「まあ、まるでご自分の手柄のようですわ」
ツッコミを入れる鞠花に、東城は「うるさい」と言い返していた。
何もかも1人で抱え込もうとする伊吹には、ストッパーとなる人間が必要だ――榛名もそう思う。だが……
「はるちゃんは今の職場で頼りにされているし、順調にキャリアを積み重ねている。俺はその邪魔をしたくないんですよ」
ふふっと少し寂しげに伊吹は微笑んだ。
(きっと伊吹くんはわかっている……。私が今の会社を志望した理由も、伊吹くんと別れてからは、仕事に没頭することで自分を保っていたことも……)
再会してからも志望理由を伊吹に話したことはない。内緒にしているのではなくて、単に話す機会がなかったのだ。
でも何となく、勘の良い伊吹なら気づいているような気がしていた。
(私は今後の自分のことを、伊吹くんのことを、ちゃんと考えないといけない……!)
突然決まった結婚に対して、当然ながらその後のキャリアを想像なんてしていなかった。
伊吹は案ずるなと言いたげな微笑みを向けてきた。
だけど榛名は今、自分が岐路に立たされていることを実感していた。
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