下剋上御曹司の純愛~再会した契約妻への積年の愛と執着が重すぎる~

織山ひなた

文字の大きさ
46 / 49
エピローグ

1.

9月、伊吹と榛名は結婚式を挙げた。

少し遅めの夏休みを取って、再び伊吹の実家である熱海に行った、その帰り――と言っても東京までは遠回りになるのだが、2人は静岡駅にいた。

どちらからともなく、大学生時代を共に過ごした静岡市に行こうと決めたのだ。

だが、伊吹は榛名のトラウマも案じていた。
5年前、伊吹に別れを告げられ、置き去りにされた場所だから。

「平気よ。だって実家へは静岡駅に行かなきゃ帰れないんだから」
そうは言っても、やはり伊吹と別れたあの場所は避けていたのだが。迂回したり、足早に通り過ぎたりしていた。

2人は駅を出て、ゆっくりと街中に向かって歩き出した。

あの日と同じクリスマスイブではない。まだ残暑どころか真夏の勢いの9月である。
だけど、今日は少し風が涼しいので助かる。

夕暮れ時なのは、あの日と同じだった。

珍しく先を歩く榛名に遅れること数歩。その距離で伊吹が声をかけた。

「はるちゃん」

榛名が振り向くと、

「あの日、置き去りにしたはるちゃんを迎えに来たよ」

伊吹はそう言って、そっと手を広げた。

「伊吹くん……」

あの日――目の前から去ってしまった伊吹は、今こうして榛名の元に戻ってきた。彼の強靭な意志と努力によって。

榛名はゆっくりと元来た道を辿り、伊吹の胸に飛び込んだ。

「人が見ているのに恥ずかしいよ」
「構うもんか。はるちゃんの顔はこうして隠しているのだし」

伊吹は帰ってきたのだ。そして、榛名を抱きしめている。



「あらぁ! 久しぶり! 榛名ちゃんと……興津くん!?」

大学生時代、バイトをしていた食堂を訪れると、おかみさんが驚きながらも嬉しそうな声を上げた。

「随分とご無沙汰しております」

伊吹は大学3年生の途中で食堂のバイトを辞めていた。おそらくホテルの仕事で手一杯だったからだと今ならわかる。

もちろん彼は最終日まできっちりと食堂で働いていた。だからこそ大将もおかみさんも伊吹が辞めたことを残念がっていたし、「また、いつでも遊びにおいで」と言ってくれていた。

榛名は卒業するまで食堂で働いていた。

伊吹にフラれた大学4年生の12月から3月までは魂が抜けたみたいになっていた。
だが元来の真面目さゆえ、バイト先に迷惑をかけてはいけないと、働いている間だけは必死に笑顔を作って頑張っていた。

榛名と伊吹が付き合っていることを知っている2人だったが、そんな榛名の様子を見て察するものがあったのか、「興津くんは元気?」などは聞かないでいてくれた。

「2人が一緒にいてくれて良かったわ~!」

おかみさんは自分のことのように喜んでくれた。

「実は、現在は興津ではなく若宮といいます」

伊吹がそう伝えた後の説明は、榛名が引き継いだ。きっと伊吹は言いづらいだろうから。

「伊吹くんのご家庭の事情で私たちは離れてしまったのですが、再会して……結婚しました」

離れている間もお互いに一途だったことを明かすと、おかみさんは泣き出し、大将も目に涙を溜めて堪えているようだった。


久しぶりに大将のスペシャル定食を堪能した後、お会計を終え、2人にお礼を伝えて食堂を後にした。

もうすっかり日は落ちている。伊吹と榛名は手を繋いで寄り添い合いながら、静岡駅までの道のりを歩き出した。

――今度は一緒に。もう二度と離れない。



Fin.
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

再会した御曹司は 最愛の秘書を独占溺愛する

猫とろ
恋愛
あらすじ 青樹紗凪(あおきさな)二十五歳。大手美容院『akai』クリニックの秘書という仕事にやりがいを感じていたが、赤井社長から大人の関係を求められて紗凪は断る。 しかしあらぬ噂を立てられ『akai』を退社。 次の仕事を探すものの、うまく行かず悩む日々。 そんなとき。知り合いのお爺さんから秘書の仕事を紹介され、二つ返事で飛びつく紗凪。 その仕事場なんと大手老舗化粧品会社『キセイ堂』 しかもかつて紗凪の同級生で、罰ゲームで告白してきた黄瀬薫(きせかおる)がいた。 しかも黄瀬薫は若き社長になっており、その黄瀬社長の秘書に紗凪は再就職することになった。 お互いの過去は触れず、ビジネスライクに勤める紗凪だが、黄瀬社長は紗凪を忘れてないようで!?  社長×秘書×お仕事も頑張る✨ 溺愛じれじれ物語りです!

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

恋は秘密のその先に

葉月 まい
恋愛
秘書課の皆が逃げ出すほど冷血な副社長 仕方なく穴埋めを命じられ 副社長の秘書につくことになった 入社3年目の人事部のOL やがて互いの秘密を知り ますます相手と距離を置く 果たして秘密の真相は? 互いのピンチを救えるのか? そして行き着く二人の関係は…?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。