テンプレ悪役令嬢シャーロット・バレリアは性的にちょっと特殊な転生者

潮 雨花

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シャーロットとマリアンヌ

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(確か、マリアンヌの教室は……)
 学園に戻ってきて三週間。
 シャーロットはマリアンヌがいる一年生の教室へと足を向けていた。その背後にはレオンも付いてきている。
「お姉様。ご機嫌よう」
「お姉様、どちらに行かれるのですか?」
「お姉様。わたくしがご案内いたしますわ」
 下級生たちは上級生であり侯爵令嬢であるシャーロットに取り入ろうと、わらわらと集まってきたが、それを彼女は軽くあしらった。
(お姉様って呼ばれるのはちょっと嬉しいけど、うざったい!!)
 胸に掛かっている長い赤毛を乱暴に手で払うと、何故か下級生たちの黄色い声援を受けた。
(なんで私をアイドル扱いするの?)
 侯爵家に取り入ろうとしているのか、それとも他に理由があるのか。下級生の女子生徒たちは皆、シャーロットにくぎ付けだ。
(一年の教室なんて、進級してから行ってなかったけど、私が二カ月前どこに入ってたか知らないわけないだろうし……)
 学園内で起こったことは、娯楽の少ないこの環境ではすぐに噂として学年関係なく広がる。その間に脚色されて事実とは異なる内容で広がることは珍しいことではなく、今回もその類なのだろう。
(侯爵家を悪く言えば、それ相応の処罰を受けることもあるし、当然と言えば当然だけど……)
 一体どんな広がり方をしたのだろうか。
 知りたいようで、知りたくない。
 ふと、ある教室の中でピンクブロンドの髪を発見し、シャーロットは足を止めた。
(いた……)
 一年の教室の隅で、マリアンヌはひとりでいた。
 どこか表情は浮かなく、顔色も悪い。
(またあの腹黒鬼畜変態王子に悪戯されてるのかな……?)
 あの王子のやることは原作を知っているので熟知している。だが、どうも様子がおかしかった。
 辺りを見回しても、護衛の騎士たちがいない。彼女の周囲にはコンラッドの命令で常に最低でも二人、護衛騎士が付いているはずである。
「…………」
 シャーロットはふと、教室内の時計に目をやった。今は授業の間の休み時間だ。あと数分もすれば、休憩を終えた生徒たちが戻ってくるだろうが、マリアンヌの教室には誰もいない。
(移動教室なら、彼女も行かないとまずいんじゃないの? それとも、腹黒鬼畜変態王子を待ってる……?)
 彼女は度々コンラッドに呼び出されて、授業中でもお構いなしに蹂躙されているが、今日、肝心のコンラッドは教室にいたはずだ。
 学友たちと気さくに話していたので、どこかへ行く素振りもなかった。
 シャーロットはマリアンヌが気になり、彼女以外誰もいない教室に静かに入り、声を掛けることにした。
「何をしていらっしゃるの?」
「ひゃっ! え? シャーロット様!? あの、ご機嫌麗しく……」
「挨拶は必要ありませんわ。質問に答えなさい」
「えっと、あの……」
 マリアンヌは、胸に何かを抱えていた。
 それは泥にまみれて、ボロボロに引き裂かれた布のように見えた。
(この頃、マリアンヌに対する虐めって結構壮絶だったけど……)
 シャーロットの取り巻きたち以外の、同級生からも虐めに遭っていた。今日はその具合がどの程度かを確認しに来たのだが、思っていたよりも酷い。
「あなたにいつも付いている騎士の姿が見えませんわね」
「あの……、あの方たちは、いつも傍にいてくださるわけではないので……」
 その言葉に、シャーロットの背後からついてきていたレオンの眉間に皺が寄った。
(そういえば、マリアンヌを凌辱するように男子生徒を誑かした相手って――騎士の内の誰かだったような……)
 原作小説は読んでいるのだが、この辺りの記憶だけが何故か曖昧で、思い出せない。
(誰だったっけ……。なんか、すごく覚えやすい名前だった気がするけど……)
 覚えやすかったはずなのに、存在感は薄かった。『騎士たち』と一括りにされがちなレオン同様、名前はあるがモブ扱いの騎士がもう一人いたはずだが、思い出そうと思ってもなかなか出てこない。
(あとでレオン様に騎士の名前を聞けば良いか……。とりあえず……)
 シャーロットはマリアンヌに近づき、彼女が抱えているものを奪う勢いで取り上げた。
「まあ。なんですの、このボロ衣」
「…………」
 両手で広げてみると、それは運動着だった。一応、ここは学校なので体育の授業がある。貴族とはいえ基礎体力は重要だ。
 マリアンヌは俯き、何かを堪えているようだった。
「神聖なる学園でこんな惨めなことをされるだなんて、される方にも問題がありますわよ」
「――……はい。おっしゃる通りです」
「なぜ、言わないのです」
「え……?」
 シャーロットの言葉に、マリアンヌが涙目になった大きな瞳で見つめてくる。
「あなたはご自分の立場が分かっていらっしゃらないようですわね。男爵家とはいえ、このようなことをされる謂われはないはずですわ。しかもあなたを贔屓にしている『友人』は上級生ではありませんの」
「あの、でも……、そんなことしたら、あの方にご迷惑が……」
「そんなことだから舐められるのですわ。使える権力はすべて行使なさい。そうしないから勘違いした者たちがこうした嫌がらせをするのですわ」
 原作小説を読んでいたからこその鬱憤が、ここで出てしまった。あの小説は本当に大好きだった。だが、マリアンヌのこの気の弱さが気になっていたのだ。本当に気が弱いのか、陰では権力を使っていたのか、今日はそれを確かめに来たのだ。
「あの方の名を使うのが嫌なのであれば、私と一緒にいらっしゃい」
 すっと、手を差し伸べる。
 マリアンヌは戸惑いながらも、その手を取った。
「良いこと? マリアンヌ様。私たち貴族は繋がりが大事なのですわ。権力をどう使うか、誰と繋がっているのか、それをわからせるのです」
 言いながら、シャーロットはマリアンヌを連れ出し、上級生用の更衣室へ連れ込んだ。そこでシャーロットは午後に使うはずだった体操着を彼女に手渡し、その場で着替えさせる。
(なんでこの世界、体操着がブルマなんだろう……)
 シャーロットも前世、ブルマ時代を経験しているが、今時は違うということはニュースにもなったので知っている。
 えっちなことが良く起こる世界なので、このチョイスも当然と言えば当然だろうが、マリアンヌが着ると男子生徒もおちおち授業など受けられないのではないだろうか。
(まぁいいか……。こういう世界なんだから、仕方ないもんね……)
 淑女は足を見せてはいけない、というルールを完全に無視しているが、今に始まったことではない。
 シャーロットは気を取り直し、着替え終わったマリアンヌの肩に手を置いた。
「それを着て授業に出なさい」
「よろしいのですか? これはシャーロット様のものでは……」
「その体操着は上級生の証である刺繍が施されています。それを着ていることによって、あなたには上級生の女生徒の誰かに繋がりがある、ということを示すことになるのですわ」
 この学園では、進級するごとに何学年なのかを示す刺繍入りの制服やその他もろもろを購入させられる。別に購入しなくても良いのだが、いつまでも下級生の刺繍を施している物を着るという行為は、その家の経済力がないことを示すことであり、進級祝いとして親からこれらを贈られることが多いのだ。
 だが、貴族でも「忘れ物」はよくあることで、同学年から借りたり、上下の学年に繋がりがあるようであればその人に借りることもある。
 ここでは現代日本同様の、自己責任が問われるため、学園内に特別な理由がない限り侍女や執事は連れ込めない。そのため、学園から徒歩数十分かかる寮へも取りには行けないので、忘れ物をすれば借りるほかないのである。
「ですが、シャーロット様も本日、授業でこれをお使いになるのでは……?」
「午後からなので、昼休みにでも取りに行きますわ。行って帰るだけであれば十分余裕がありますもの」
「でも……」
「遠慮も、度が過ぎれば失礼に値しますよ」
「――ありがとうございます」
 ペコッと頭を下げられ、シャーロットは何とも言えない心境に陥った。
(ここまでするつもりはなかったんだけどなぁ……)
 ただマリアンヌの様子を見に行っただけなのだが、予想外に世話を焼いてしまった。
(でも、見たくなかったから……)
 シャーロットが学園から去っても、マリアンヌに対する周囲の態度は変わらなかった。第一王子を色目を使って誑かし侯爵令嬢から奪った女として、彼女はコンラッドの卒業式までこうした虐めに遭うのだ。
 原作でシャーロットが彼らの物語から退場したのは、物語の中盤だ。後半戦になるとシャーロットが居た頃よりも虐めは壮絶になっていく。
 そして最後に、あの子宮脱させられる展開が待ち受けているのだ。
(たぶん……それももうすぐ……)
 どこか嬉しそうに自分が着た体操着を見つめているマリアンヌの横で、シャーロットは考えた。
 あの事件なくして、彼女は王太子妃にはなれない。それを食い止めるべきか、それとも見知らぬふりをするべきか。
 シャーロット・バレリアは悪役令嬢だが、性根は腐っていない。目の前の下級生のために何かをするべきか、傍観するべきなのか、その判断は難しい。
 感謝を込めて何度も頭を下げるマリアンヌを見送り、シャーロットはさらに考える。
 この先、どうするべきなのかを。
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