最強騎士令嬢は強面王太子の溺愛に困惑する

潮 雨花

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潜入捜査

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 夜の帳が下りた頃、昼間には見せない顔を覗かせるのが、貧困層が暮らす裏路地に面した酒場である、というのが相場だ。
 ガーネットは太ももが大きく開いた艶やかなドレスを着こみ、銀髪は目立つので長い黒髪のかつらを被り、化粧も施して妖艶さを強調させた濃い口紅を付けた、娼館嬢か、踊り子のような装いだ。
 こうした店は、お上品な令嬢は立ち寄らないため、こうした身なりの方が馴染むのだという。
 一番壁際の、あまり目立たない席で、二人掛けのテーブルで惜しみなく太ももを晒して優雅に足を組み、少し離れたところでひとり酒をしているジルフォードを盗み見る。不機嫌そうなのは、別々の時間にこの店に入った時からなのだが、その理由をガーネットが気づくはずはない。
 そんな彼は成金貴族風の装いだ。
 だがいくら服装を変えても、彼の高貴な雰囲気はあまり隠せていないように思えるけれど、それは惚れたガーネットの贔屓目なのだろう。
 元より彼は女性が憧れる絵本の中の王子様というイメージではなく、鬼軍曹とか、流れ者の傭兵とか、とにかく別の意味で近づきがたい風貌をしているから、成り上がり貴族の若旦那、という変装に違和感はなかった。
(さて、とりあえず………)
 ちらりとそれほど広くもない、居酒屋の中の客を観察した。
 まだ目当ての客は来ていないようだ。
 誰か、常連客っぽい人間に近づいて、それとなく話を聞けないだろうか、とガーネットは長い脚を組みなおした。
(エリスによると、女は色気……)
 ガーネットは事前に、エリスに諜報員としての手ほどきを受けていた。ぶっつけ本番よりかは遙かに良いだろうし、彼は諜報専門の騎士だ。
 何かしらテクニックを聞きだそうと、先日、食堂で鉢合わせしたとき、彼の妹のプレゼントを一緒に選びに行くことを条件に、諜報の手ほどきを受けていた。彼はやはり中性的な容姿を生かして女装をすることもあるそうで、女諜報員としての立ち居振る舞いも教えてくれた。
「おう、綺麗なねーちゃんだな」
 頭の中でエリスに教えてもらったテクニックを反芻していると、不意に声を掛けられた。
 見ない顔だな、と言われ、恐らく常連かそれに類する客なのだろうと判断する。
「どうも。最近この城下に来たの。この店で安くておいしいお酒を知らない?」
 わざと、胸の谷間が見えるように若干前屈みになり、男を誘惑する。
(大抵はこれでペラペラと男たちは話し出すはず……)
 ちなみにこれもエリスの入れ知恵である。蛇足だが、もちろん男である彼には胸がないので、代わりに太ももで誘惑するのだという。そのエリスから、胸があるならそれを最大限利用しろ、とも言われていた。
 ふっ、と妖艶な笑みを浮かべるのも忘れず、ガーネットは男を見上げる。
「いいぜ、俺が色々、教えてやるよ」
 そう言いながら、いやらしく胸に伸ばされた手を、ガーネットはにっこりと微笑みながら、手首を掴んで捻りあげた。 「痛っ、痛てててて!」
「気やすく触らないでくださる?」
 触れられそうになったら軽く牽制する。これもエリスに教えられたテクニックだった。最初にそうしておけば性欲処理の相手として目を付けられることはないのだという。あくまで酒飲み仲間として交流を深めるのが、後々面倒にならないとも。
「美味しいお酒が飲めないようだし、帰ろうかしら」
 パッと手を離し、席を立つ素振りを見せる。
「ま、待った! 悪かった」
 こうした店では、喋り相手として女と酒を酌み交わしたい男も多いという。男もそうだったようで、お詫びの印、と言って、一杯奢ってくれると言った。
 ささっと酒を持ってきた男は、ショットグラスに入った琥珀色の飲み物を差し出してくる。
(……まったく)
 ふぅ、と眉を上げ、男を見上げる。これはテキーラだ。しかもひとつではなく、五つある。
「ここのテキーラの種類が豊富で、その中でもそれはかなり絶品だ。なかなかお目に掛かれない銘柄だぜ」
 ガーネットは男の意図を理解して、にやり、と唇の端を吊り上げた。
「あら、じゃあ頂くわ」
 迷いもせず、ガーネットはクイッとそれを一気に飲み干す。わずかに唇の端から、琥珀色の液体が零れ、ガーネットの肌を伝い落ちるより前に蒸発した。そして一気に五つのショットグラスを次々に飲み干していく。
「本当、おいしいわね」
 ふぅ、と息を吐き、グラスを置いて、ぺろっ、と赤い舌を覗かせて唇を舐める。にっこり、と微笑むと、いきなり店内にドッと喝采が起こった。
「嬢ちゃん大丈夫か!? それ、この店でも一番度数が高い酒だぜ!?」
「飲める口なんだな!気に入った!」
「おい! こっちに来て、俺たちとも飲もうぜ!」
 一切顔色が変わらず、ケロリとしているガーネットに、男たちが群がる。
 そう、ガーネットはザルなのだ。
 リンデンもかなりの酒豪で、彼に憧れて成人して酒が飲めるようになってから一緒に嗜んでいたのだが、生まれつき酔えない体質なのか、酒に酔ったことは一度もない。
 これもエリスから教わった、一番手っ取り早く簡単な処世術だった。
 思っていた以上に盛り上がってしまい、ガーネットは内心冷や汗をかいたが、一応、掴みはばっちり、と取って良いのだろう。
(あまり人付き合いが得意じゃないから、こんな諜報のやり方なんてって思ってたけど……)
 無事に彼等の仲間に入れたようで、少し安心した。声を掛けてくれる男たちは、見た目はあまり関わりたくないような風貌だが、愉快な者たちが多い。妙な絡み方をされなかったことにも安堵した。
(――それにしても……)
 ガーネットは男たちの群れに囲まれながらも、周囲を見渡す。
 話にあった、ローブで全身を覆っているという人物は一人もいない。
 ちらりと、少し離れた位置にいるジルフォードを盗み見た。彼は、女数人に囲まれ、静かに酒を飲んでいる。
「…………」
 ちょっと、イラッとしてしまい、だが、表情に出さず男たちの話とも付かない会話に耳を傾ける。
(不敬だわ。相手は王太子殿下なのだから……)
 嫉妬にも似た醜い感情を腹の奥底へと仕舞い、ガーネットは作り物の笑顔を顔に張り付ける。
 そもそもこういう任務なのだ。客として潜り込み、ローブを纏う人物に近づくか、それに類する人物を探り、情報を仕入れる。
 それが諜報活動である。
 それぞれのやり方で、各々情報を手に入れるべきだ。
 ジルフォードだって、女を侍らせるためにここにいるわけではない。彼もああやって、情報収集の糸口を探っているはずである。
「おい嬢ちゃん。次は何を呑む? その飲みっぷりだ。まだいけるんだろ?」
 誰かが、そう煽ってくる。
 その時、カウンターにひとり酒をしているローブを着た人物が目に飛び込んできた。
「今日はひとり酒に来たの。また今度ね」
 席を立ち、カウンターの方へと向かう。
 ジルフォードの席を通り過ぎたとき、ちらりと目が合った。彼も、気づいている。
 ガーネットはローブを頭から被った人物が座る隅の席から二席ほど距離を取り、腰かける。
 カウンターの中に居た店主が、小さく頷いた。
「マスター。軽めのカクテルを」
 注文をしながらも、ローブの人物を盗み見る。体格からして、恐らく男。俯いているので横目ではやはりその人相はわからない。
 男は誰かを待っているのか、ちらちらと出入口付近に顔を向ける仕草を見せた。
 それを盗み見ていると、ローブ男がいる左側ではない、空席の右側の席に、ジルフォードが座る。
 お互い他人のフリをしてそれぞれグラスを傾けた。
 背後からはワイワイと男たちが酒と会話を楽しむ音が聞こえるが、カウンターは静かだ。
 どれくらい経っただろうか、もうひとり、ローブ姿の人物が入店してくる。
 その人物は、カウンターの仲間に気づくと、当たり前のように先に着ていた男の隣に座った。
 何やら話しているが、ここからでは聞こえない。かなりの小声だ。
 もっと近くに寄るべきか。だが、気づかれてはいけない。
 ちらりとジルフォードへと横目を流す。彼は黙ってグラスを手の中でくゆらせているだけで動かない。
「…………」
 動くな、ということらしい。
 ガーネットは物思いに耽っているフリをしながら、耳を澄ませる。
「……が、………薬を」
 わずかだが、ローブ男たちの会話が聞こえてくる。
 聞き取れたのは、薬、奴隷、武器、忍び込む、という、どれも物騒な単語だが、驚くほどの内容ではない。
 だが次の瞬間、ガーネットは何故第四騎士団の諜報部員ではなく、各騎士団から五人が集められたのか、その理由を知った。
「四……の……騎士を――……」
 遅れてやってきたローブの男が、そう口にしたのを、たしかに聞いた。
(まさか…………)
 騎士団の中に、何か企んでいる彼等の仲間がいる。
 リュクスメディア王国では先代国王の代から奴隷制度が廃止され、当時横行していた人身売買も禁止されている。それに関わっている騎士がいる、ということだ。
 そしてその関わっている騎士というのは、恐らく――。
「――第四騎士団」
 はっきりと聞こえた声に、ガーネットはそっと、瞼を閉じた。
 エリスは騎士団では珍しい、庶民階級の出だ。そして彼は、おそらく、貴族階級の者が多い騎士団の、とりわけ第四騎士団で浮いている。
『諜報だけなら、僕だけで良いのに』
 あの時は聞き流したが、あれは自分が所属する第四騎士団の不始末を、自分を見下す貴族出の同僚の不正を、ひとりで暴きたかったのではないだろうか。
(エリスの気持ち、わかるな……)
 ガーネットも同じだ。
 マイアス家の人間に復讐したい、見返してやりたい。その思いが原動力だ。だからこの国で騎士になろうと決めた。
 恐らくエリスは、ガーネットが生家で向けられてきたような目で、第四騎士団の人間に見られているのだろう。
(うん。今度の休みはエリスと合わせて、妹さんのプレゼントちゃんと選んであげよう……)
 果たして、十六歳の女の子のプレゼントを自分が選べるのか自信はない。ここはエリスの妹と歳が近いステラに、それとなく女の子が欲しがるものを聞いてみよう。
 このとき、彼女が始めた「婚約者遊戯」が役に立つ。普段、王女である彼女に、こんな話題を振ることは許されないが、「婚約者遊戯」中であれば、許されるはずだ。
 一瞬ばかり思考が飛んでいたガーネットは、ローブの男たちが席を立ったことで思考を戻した。
 後を追うべきか、とガーネットも席を立つ。
 その時、不意に右腕を掴まれた。
「……私にご用かしら?」
 腕を掴んだのは、ジルフォードだ。
 他人のフリをしていたので、他人行儀に尋ねる。
「一杯、俺に付き合わないか」
 つまり、追うなということだ。
「彼女に新しいカクテルを」
 ジルフォードは店主にそう注文すると、カウンターに乗せていたガーネットの手に、自分のそれを重ね合わせてくる。
 思わず肩を震わせそうになり、だが、耐えた。
 経験豊富そうな身なりをしているのだ。
 一々反応しては、誰かに怪しまれるかもしれない。
「さっきみたいに、俺の手を捻りあげなくていいのか?」
 最初に声を掛けてきた男の腕を捻りあげたのを、彼はもちろん見ていたのだろう。
「……そうね」
 こういうとき、何と言うべきか、咄嗟に頭に浮かばなかった。動揺しているのを周囲に悟られないよう、せめて微笑んでみることにした。
「俺の誘いに乗ってくれるようだな」
「――どうかしら」
 店主はこの会話を聞いても顔色一つ変えず、カクテルを作っている。通報してきた本人であり、つい先日顔を合わせたばかりだ。二人が王宮騎士であることは知っている。このやりとりを、何かの隠語だと思っているのかもしれない。
「その髪の色、あまり似合わないな」
 黒髪のかつらを言っているのだろう。
 エリスから黒髪が一番いい、と聞いたから借りてきたのに、彼のお好みではなかったようだ。
「あら、失礼ね」
 つん、と怒ったフリをしながら、手を払いのけようとしたが、ジルフォードによってそれを阻まれた。
 ぎゅっと握り込まれ、そのまま彼の口元へと持っていかれる。
 あっ、と思った時には、指先が彼の薄い唇に触れていた。
 見つめてくる金色の瞳が、熱っぽい色を帯びていて、意図的にガーネットの扇情をくすぐってくる。
「怒った顔も綺麗だ」
 その瞳で、彼はガーネットの容姿を褒めた。
(なんだか、口説かれてるみたい)
 だがすぐにその考えを一蹴する。
 軟派な男を装っているのであろうジルフォードの言葉を鵜呑みにするほど、ガーネットは愚かではなかった。
「そう言って、先ほどの女性たちも口説いていらっしゃったのかしら」
 その言葉に、一瞬だけジルフォードが目を見開く。
「まさか。俺は正直者だ。気に入った者にしかこういうことは言わない」
「――どうだか」
 これでは先ほど女を侍らせていたことを怒っていたことを露見するような言い方になったが、一度言ってしまった言葉は取り消せない。
 ぐっと自分の失言に内心下唇を噛みしめていると、ジルフォードの視線が背後へと移された。
「なんだ、やっぱり男を漁りに来てたんじゃねーか」
 不意に、最初に声を掛けてきた男がヤジを飛ばしてきた。
 その声にジルフォードは挑発的な笑みを浮かべて唇を吊り上げる。
「彼女は見る目があるんだろうな。俺は気に入ってもらえたようだ」
 勝ち誇った笑みを浮かべるジルフォードに、男は肩を怒らせ「成金が」と捨て台詞を吐いて店を出て行ってしまった。
 ジルフォードは逆に肩を竦ませ、そして席を立つ。
「別の店で飲みなおそう」
 手を握ったまま、そう促された。
 ガーネットはこれが今夜の任務終了の号令と取り、言われるがまま従う。
「また来る」
 店主にそう言い残し、金を支払うと、ジルフォードはガーネットの腰に腕を回し、男たちを牽制する。
 だがそれも、ガーネットにとっては、ただのポーズであり、本当にジルフォードが男たちに「手を出すな」という意味を含んだ目で睨みつけていたことなど、露程も気づいていなかったのだった。



 二人を乗せた馬車は、王宮へと向かっている。
「その格好はなんだ」
 しばしの沈黙の後、ジルフォードは向かいの席に腰を下ろしたガーネットを睨みつけていた。
「私の容姿だと、このくらいが妥当とのことでしたので」
「誰の入れ知恵だ」
「エリス殿です」
任務は終わったので、ガーネットは黒髪のかつらを脱いでいた。
「この黒髪のかつらも、似合いませんでしたか? これもエリス殿の見立てなのですが……」
 ちなみにドレスも、エリスからの借り物だった。彼は裁縫もできるようで、自分が持っていた使用頻度の低いドレスをガーネットが着られるように仕立て直してくれたのだ。
 あの器用さがあれば、騎士ではなく仕立て屋の方が向いていそうだ。人好きのする中性的な顔立ちは、ステラ御用達のあのデザイナーを思い起こさせる。
「――エリスのことがいたく気に入ったようだな」
「今回、エリス殿を選抜したのは騎士長殿では……?」
 そもそも今回のチームメンバーだ。
 多少仲良くなったところで、それは普通ではないのだろうか。
「必要以上に親しくなる必要はない」
 棘のある言い方に、ガーネットは何故? と首を傾げた。
「任務に必要でしたので、エリス殿に色々と助言を乞うたのですが、間違いでしたか?」
 せっかく今回の五人の中に、諜報専門のエリスがいるのだ。さすが馬は馬方である。
 彼の助言通りにしたから、上手く潜り込めたと思っていたが、あれはやり過ぎたのかもしれない。
「ですが、目立ち過ぎたかもしれません。申し訳ありません」
 素直に自分の非を認め、ガーネットは頭を下げる。
「…………その衣装、エリスにも見せたのか」
「はい。今日は彼の部屋から、あの店に行きましたので……」
 時間帯をずらして別々に入店したため、ジルフォードは事前にガーネットの変装を見ていない。もしも彼が事前に見ていたのであれば、有無を言わさず着替えさせていたが、ジルフォード自身、まさか彼女がこんな格好でやってくるとは思っていなかったのである。
「エリスに肌を見せたのか?」
「まさか。彼もあれでいて男性ですし。礼儀は守ってくださいました」
 ガーネットの中で、エリスの性別は曖昧だ。男なのはわかっている。だが、仕立て直されたドレスを着たとき、ガーネットは聞いてしまったのだ。『やだ!もう、マイアス殿の身体のライン、綺麗すぎて嫉妬しちゃいそうだわっ!』という、女言葉で話す、エリスの声を。
女姉妹の間に男ひとりだから、おそらく、彼女たちの口調が移ってしまい、興奮するとつい出てしまうのだろう。普段は男言葉を使っているから、そういうことだろうとガーネットはそのとき敢えて指摘はしなかった。
「私より女性らしいところがあり、女友達ができたようで、舞い上がっていたのかもしれません」
「…………」
 この言葉はジルフォードを密かに安堵させたが、別の衝撃に彼は何も言えなくなっていた。
 しばらくの間、馬車の中は沈黙に包まれる。
「まぁ、そういうことなら、親しくしておけ。だが、次回は俺が見立てる」
 またこんな扇情的な装いで行かれたらたまらない、とジルフォードは密かに額に大きな手を押し当てた。
「いえ、次もエリス殿に……」
「これは命令だ!」
 しかし、と言い募るガーネットを、ジルフォードはじろりと睨みつけた。
「それともここで抱かれれば意味が分かるか? 俺は構わないが、お前は嫌だろう」
 城下街をふたりで歩いた日の行きの馬車で身体をまさぐられたことを、ガーネットは今、ようやく思い出した。
 ハッとして、深いスリットの入ったドレスのスカートを無意味に整える。直接的な言葉で言われると、自分の姿が、いくら任務とはいえ抱かれるためのもののように思えてしまい、頬が羞恥で紅潮してしまう。
(さっきまで任務だと思ってたから、全然気にならなかったけど……)
 今はジルフォードとふたりきりだ。
 この馬車は路地で拾ったものであり、こんなところで抱かれたら、御者に声を聞かれてしまう。今、自分たちが乗っている馬車の造りは、会話すら外に漏れる程度には、あの時のものよりも遙かに劣るものだった。
 やっとガーネットが本当の間違いに気づいたのを悟り、ジルフォードはふっと笑い、腰を上げる。そして、ガーネット側の壁に手を突き、薄く開いていたその唇に深い口づけをした。
「ん……っ!」
 驚いて声を上げるガーネットに気を良くし、ジルフォードはすぐに離れて元の位置へと腰を落ち着かせる。
「今日は俺の部屋に来い。何が間違いだったか、答え合わせをする」
「……仰せの通りに」
抱いてもらえる、という高揚感と、泣いても終わらないであろう責め苦を想像し、ガーネットは二つの意味で、身体を震わせたのだった。
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