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2.思い出のミックスジュース(5)

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 昨日の会話である程度の自覚は芽生えたものの、それまでは、自分の中にある〝女の子らしさ〟には気が付いていなかったのである。

 しかし、美少女顔のミオと初対面した場合、多分、大勢の人がミオの性別を一発で看破できないだろうし、むしろ、まず女の子だと思い込む可能性の方が高い。

 今時ショートヘアでボーイッシュな女の子なんて珍しくないし、ミオが着ている服もユニセックスなタイプのTシャツとショートパンツときた。

 これだけで男女を判別するのはまず困難だと思う。

 外見で性別を見抜くためとして胸のふくらみに着目するとしても、ミオくらいの歳の女の子で貧乳だなんてザラにいるだろうし。

 だからミオの本当の性別を知るためには、本人の身分証明書を確認するか、あるいは〝ついているか否か〟を見るしかないのだが、さすがにそこまでして誤解を解くほどの事でもない。

 ミオが女の子だと思われたところで、この喫茶店の経営に影響を及ぼす事はまずないのだから。

「ミオ、何が飲みたい?」

「んーとね……あっ、ボクこのミックスジュースが飲みたい!」

 と言ってミオは、メニューに載っているミックスジュースの写真を指差した。

 なんでもこの店のミックスジュースは、バナナとリンゴ、そして桃をすりおろしたものに牛乳を加えて作っている自家製のものらしい。

「いいね、うまそうだ。俺もそれにしようかなぁ」

「絶対おいしいよ、お兄ちゃん。一緒に飲もうよ」

「そうだね。じゃあお揃いにしよっか」

「うん!」

 俺はカウンターの横でくつろいでいたおばあさんを呼び、ミックスジュースを二杯注文する。

 その注文を受けてから程なくして、カウンターの奥から果物をジュースにするためのミキサーの音が、ガガガガッと店中にけたたましく響いてきた。

「はーい、お待ちどうさま。ミックスジュースですよ」

「わぁ、おいしそう」

 ミオが目を輝かせ、グラスに顔を近づけて、なみなみと注がれたミックスジュースを眺める。

「こちらのお嬢ちゃんはあなたのお子さん?」

 俺がグラスにストローを挿そうとしたその時、店員のおばあさんがそんな事を尋ねてきた。

「あ、はい。今日がこの子の初登校日だから、一緒に学校まで来たんです。でもまだ時間があったんで……」

「あらそうなの。初登校って、転校か何か?」

 今度はちょっと突っ込んだ質問をされる。

 ただ、ここで答えをはぐらかす必要はない。

 俺たちに別にやましい事も恥ずかしい事もないのだから、正直に答えることにしよう。

「いえ、実は僕、児童養護施設にいたこの子の里親になったんです。それで自宅の近くにある学校に通わせる事にしまして」

「まぁ、そうだったのね。あなたがずいぶん若いから兄妹かしらとも思ってたんだけど、まさか里親だったとはねぇ」

「はは……」

「で、どうして里親になる事にしたの?」

「え? えっと、それは」

「おい、あんまり聞いてやるなよ!」

 と、カウンターで作業をしていたマスターの旦那さんが、大声でおばあさんをたしなめた。

 マスターは俺とおばあさんの会話をかたわらで聞きつつ、それなりの事情があるのを察して、気を回してくれたのだろう。
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