ショタっ娘のいる生活

松剣楼(マッケンロー)

文字の大きさ
664 / 871

52.夏の終わりに(29)

しおりを挟む
「うん。さっきのは佐藤からの電話なんだけど、例の元カノが大阪で悪い事をして、お巡りさんに捕まっちゃったんだってさ」

「え!? お巡りさんに?」

 犯罪とは無縁なショタっ娘ちゃんは、あの女が逮捕された事に相当なショックを受けたらしく、俺が着ているシャツの裾を掴み、不安げな眼差しで俺の顔を見上げてきた。

「元カノさんはお兄ちゃんと付き合ってた人でしょ? お兄ちゃんもお巡りさんに怒られちゃうの?」

「はは、怒られはしないさ。俺は誓って悪い事をしていないからね。ただ、『あの元カノに、どれだけお金をふんだくられましたか?』みたいな事は聞かれるかもって話だったから、お巡りさんが家か会社に来るのは、ほぼ確実じゃないかな」

「むー……だいぶ前に別れた人なのに、まだ迷惑をかけちゃうんだね」

 慈愛に満ち、慈悲深い心を持つ天使のようなミオでさえ、未玲のやらかした罪には、さすがに呆れ返ってしまったらしい。無理もないよな、それが普通の感覚なんだから。

「まぁ何だ。せっかく実家にいるんだし、未玲が捕まった話は親父とお袋にも明かした方がいいだろうな。だから、詳しい内容は晩飯の後に話すよ。さ、蚊に食われないうちに家に入ろう」

「うん。ボク、怖いからウサちゃんを連れてくるね」

 ミオは、とにかく俺の身柄がどうなるのか、心配で心配でたまらないようだ。俺のシャツをぎゅっと掴んだまま、後をついて来ている。きっと、「どこにも行かないで!」という強い願いがこの子を突き動かしているのだろう。

 大好きなウサちゃんを連れてくると言ったのは、俺が警察に連行され、空席となった時に隣の椅子に座らせて、親父たちと晩ご飯を食べるのかも知れない。

 普段、俺が退社して帰宅するまでは、そのウサちゃんのぬいぐるみを俺だと思って抱っこして、さみしさを紛らわしている事がしばしばある。だから今日も、食卓でそうしようと思っているんだ。

 この子が抱くさみしさは、孤独である事を実感するからに他ならない。俺が退社して帰宅すれば、そんなさみしさは一遍いっぺんに吹っ飛ぶ。明るく元気よく、小走りで玄関までお迎えしてくれるほどに。

 ただ、今回の場合は状況が違う。佐藤の電話によって知り得た情報から、逮捕された未玲の元カレだった事で、俺までが詰め腹を切らされるのではないか? という危惧が頭をよぎり、現実となるのが怖くて仕方ないのだろう。

 さっきミオに誓った通り、俺は重度のショタコンでこそあるけれども、お天道様に顔向けできないような悪事に手を染めた事はないし、手を貸すつもりもない。

「所詮は理想論だ」とあざけられるかも知れないが、それでも俺は、「悪法もまた法なり」と心得た上で、常に正しいと信じた道を歩み続ける。即ち、品行方正である事を貫くわけだ。それこそが、里子のミオに見せる、里親の背中であると信じているから――。

 そんな里親のお嫁さんなると宣言し、いつも疲れた心を癒やしてくれる、愛らしいショタっ娘ちゃんでさえ、今は一抹の不安が払拭できないでいる。

 その理屈こそ分からないけど、ミオだけが持つ特有の感覚で、何らかの予知や予感といった不思議な能力が働いているんじゃないだろうか。それが事実に結びつくかはともかく。

 ……くそっ、あのバカ女めー。どこまで迷惑をかけ続けるんだ? 一度も面識がないミオが、ここまで動揺するのはよっぽどの事だぞ。

 せっかくお盆休みを利用して実家へ帰って来たんだから、ミオには伸び伸びとした、スローライフを送って欲しかったのに!

 晩ご飯も花火遊びも何もかも、未玲のやらかしでみーんなブチ壊しだ。もうここまで来ると、あの女の名前を呼ぶのも、名前に当てる漢字を覚えている自分の記憶力まで嫌になってくる。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...