あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴

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三皿目 ろくろ首の母娘と水羊羹

その7 車で尾行

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 ろくろ首の母娘は、ぷるんとした葛の食感を楽しみ、あっという間に食べ終わった。

「ごちそうさまでした。美味しかったです。また来ますね」
「ありがとうございました!」

 レジで代金を支払い、清美とアカリが店を出ると、咲人が低く「蘭丸」と呼んだ。

「うん、咲人さん。わかっているよ。あの二人の後を追うんだね」

 菜々美は首を捻った。

「忘れ物ですか? お車で来店したとおっしゃっていたので、まだ駐車場に……」

 咲人が首を横に振った。

「菜々美も蘭丸について行ってくれ。あのアカリという子の背中や腕に、噛まれたような傷や、煙草を押し付けられたような不自然な火傷の痕があった」
「――え?」

 思わぬ言葉に、菜々美の顔から血の気が引いた。蘭丸が小さく息をつく。

「菜々美ちゃんからは背中が見えなかっただろうけど、僕も、アカリちゃんが暑いとTシャツをまくり上げた時に、ちらっと見えて、気になっていたんだよ」
「そ、それって、もしかして、虐待ですか? まさか、あのお母さんが……?」

 にこやかな清美は、アカリと仲のよい母娘のように見えた。アカリが特に怯えている様子もなかったと思う。
 シングルマザーで、懸命に双子を育ててきた菜々美自身の母の顔が浮かび、続いて和菓子を食べて微笑むアカリの顔が思い出される。
 まだ六歳くらいの小さな女の子が、体に煙草押し付けられて泣いている姿を想像すると、たまらなくなった。
 咲人が額に手を当て、考えている。

「母親の清美さんでなく、恋人の間宮という男性の可能性もある。もしくは別の……それを確かめに行ってほしい」
「わかりました!」

 菜々美と蘭丸の声がそろった。

「それから、『水羊羹』を持って行ってくれ。手土産だ」

 紙袋を受け取り、菜々美と蘭丸が急いで店を出ると、ちょうど清美が運転する白色の普通車が、店の駐車場を出て行くところだった。

「車で追うよ。菜々美ちゃん、助手席に乗って」
「はいっ」

 蘭丸の黄色の丸い車に乗り込み、すぐに前の車を追って走り出す。

(見失わないように、注意しなきゃ……)

 常連客なら、住所がわかるかもしれないが、清美たちは初めて来店した。ここで見失うと、アカリを助けることができなくなってしまう。
 結界を抜けると、蘭丸は清美の白い普通車の背後にぴったり付けた。

「あの、蘭丸さん。これでは気づかれてしまうので、少し離れたほうが……」
「あ、そっか。わかった」

 少し離れて走る。似たような白色の車が多くて、菜々美は集中して清美の車を追う。

「次の信号を左折するようです。車線を左へ」
「左って、えっと、どっちだっけ。あれ、慌てたらわからないや」

 アイドルみたいな甘い顔立ちをしているくせに、ボケ老人みたいなことを言い、蘭丸があははと笑っている。

「蘭丸さん、右の車線へ……えっと絵筆を持つ方へ」
「なるほど、わかりやすくて助かるよ」

 デザイナーの蘭丸は、趣味で絵を描くと言っていた。絵筆を持つ手が右で、左手はパレットを持つらしい。

「清美さんの車が次の角を左折……パレットの方へ曲がりました。次の信号、絵筆! その次がパレット!」
「了解……!」

 清美の車は市内を南下している。やがて、古い一戸建ての家の前で車が止まった。

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