あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴

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五皿目 見越入道の暴走と和菓子の絆

その6 美月を守りたい

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 美月が「はーい」と返事をしながら、嬉しそうに立ち上がった。

「母さんが保育園から帰ってきたんだわ」
「待って、美月!」

 母は鍵を持っているので、いつも呼び鈴は押さない。なんだか嫌な胸騒ぎがする。
 菜々美がインターホンで応答すると、「宅急便です」と男性のくぐもった声が返って来た。

「なんだ。母さんじゃないのね。いいわ、あたしが受け取る。菜々美は仕事帰りだし、ゆっくりしててね」

 玄関へ向かおうとする美月の腕を掴み、菜々美は低い声で囁く。

「ううん。私が出る。美月はここにいて」

 菜々美がドアスコープで確認すると、宅配業者の帽子を被った男性が見えた。

(本当に宅配業者さんみたい……)

 ほっとしながら菜々美が細く玄関ドアを開けると、そこには夜の闇に紛れるように、細身の男が立っていた。
 宅配業者に似た服を着た男性が、ギロリと血走った目を菜々美へ向ける。

「美月さんが帰ってきているだろう? 中へ入れろ!」
「……っ」

 山本オーナーの声だ。さっきは声を変えていたので、気づかなかった。少しの間に頬がこけ、別人のように凶悪な顔つきになっている。
 体の芯が凍り付くような感覚を覚え、鳥肌と震えで声が出ない。その一瞬の隙に、山本オーナーが靴を脱ぐこともせず、家の中へ上がってきた。
 菜々美は冷え切った喉に力を入れ、奥へ向かって叫ぶ。

「み、美月、逃げて!」
「え? 菜々美、どうし……っ」

 山本オーナーが居間に飛び込み、唖然となった美月の腕をガシッと掴んだ。

「美月さん、お会いできてよかった。どうか僕と付き合ってください」
「……て、手を放して。家から出て行って……っ」

 青ざめながらも、毅然と言い切った美月に、山本オーナーはぎらぎらした目を向け、口角を上げてほほ笑んだ。

「美月さん、好きです。僕の家に来てください。ああ、僕の美月さん、やっと会えた……」

 はあはあと呼吸を荒げ、山本オーナーが「美月さん、好きです」と繰り返す。

「美月さん、美月さん……! 僕の美月さん……さあ、一緒に僕の家へ」
「手を放して……っ、家から出て行って。け、警察に連絡します!」
「嫌だ。美月さんは僕だけのものだ……」

 テーブルの上の携帯電話へと美月が手を伸ばした瞬間、咆哮を上げた山本オーナーがポケットから何かを取り出した。
 彼の手にサバイバルナイフが握られているのを見て、菜々美はハッと我に返る。

(美月! 美月を守らなくては……!)

 逆上して美月へ刃物を振りかざす山本オーナーを、菜々美が背後から渾身の力で突き飛ばした。
 だが、数歩よろけただけで、彼はすぐにこちらを向いた。顔に歪んだ笑みを浮かべ、ぎょろりと血走った双眸が白目を剥いた直後、体を痙攣させるようにして、けたたましく笑い出した。

「ひ……っ、いやっ……」

 美月の口から悲鳴とも呻き声ともつかない小さな音が呼吸と共にこぼれ落ち、彼女は気を失ってその場に倒れてしまう。

「美月、大丈夫? しっかりして!」

 気を失った美月のそばへ駆け寄った菜々美は、誰より大切な双子の妹を守ろうとする。
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