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五皿目 見越入道の暴走と和菓子の絆
その7 咲人と夕さりへ
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「退けえぇぇっ、邪魔をするなぁぁぁっ」
山本オーナーの怒声が響き、サバイバルナイフが振り上げられる。
鈍い光が菜々美の目を射った刹那、左耳のピアスが熱を放った。
菜々美の体へ、鋭い刃先が食い込もうとした時、空気がゆらりと揺らめき、光の粒子が弾ける。
「――菜々美!!」
聞きなれた声と共に、大量の光が目の前を集まり、菜々美は思わず目を閉じた。
一瞬の後、眩い光の粒が人の姿へと変化し、咲人が現れる。彼は人型を取っており、獣耳と尻尾を消していた。
(あ……咲人、さん……!)
咲人を見た瞬間に、菜々美の胸が奥が安堵と喜びで打ち震えている。公園でろくろ首の男に襲われた時も、危ないところを助けてくれた。
(咲人さんが……助けに来てくれた……!)
「ぐっ、この眩しい光……っ、だ、誰だ……っ! くそおぉぉっ」
恐怖と苛立ちに顔を醜く歪ませた山本オーナーが、刃先を咲人へ向け突進してきた。
咲人は華麗に飛び退いてかわし、片手を突き出すと大量の光と共に妖力の礫を放つ。
「ご……、ぐふっ……」
山本オーナーは刃物を落とし両手で顔を覆うと、膝をついて床に前のめりに倒れた。
菜々美は美月を抱きしめたまま、視界が真っ白になり、眩しさに目を閉じる。
ふわりと体が浮遊感に包まれ、はっとして目を開けると、真っ白な霧が周囲に立ち込め、菜々美たちの体がふわりと空中に舞い上がっていた。
「咲人さん……私たち宙に浮いて……」
「じっとしていろ。大丈夫だ」
菜々美は彼の体にしがみつき、目を閉じる。
世界中のどこより、咲人のそばが落ち着く。オレ様でぶっきらぼうなところがあるけれど、菜々美は彼のことを誰よりも信頼し、頼りにしているのだ。
やがて菜々美と美月を抱き上げたまま、咲人は妖狐の姿に戻って地面を蹴ると空高く昇り――そのまま甘味堂夕さりへと向かった。
****
店の中へ入ると、咲人は菜々美を下ろし、まだ気を失っている美月を長椅子の上に寝かせた。菜々美は美月の額に濡れタオルを置く。
「美月……」
目を閉じていても美しい妹の顔を見つめ、大丈夫だろうかと心配している菜々美の背後から、咲人が静かに言った。
「軽い脳震盪のようだから、じきに気づくと思う。それにしても……美月という妹は、菜々美と似ていないな」
今まで何度も言われたことのある言葉なのに、咲人から言われた途端、胸の奥が抉られるように痛んだ。
そんな菜々美の表情を見た咲人が、ぐっと眉根を寄せた。
「――すまない。お前を傷つけるつもりはなかった」
「平気です。自分でも、美月とまったく似てないとわかっていますから……あの、助けに来てくれて、ありがとうございました」
「翡翠のピアスが教えてくれた。あの男が美月につきまとっていたという、カフェのオーナーか?」
「そうです。すっかりおかしくなってました。あっ、あの男は逃げてしまったんでしょうか?」
菜々美の問いに、咲人は小さく首を横に振る。
「動けないように手足を縛ってきた。しかし、あのままではお前の母親と遭遇するかもしれない。菜々美、智子さんへ連絡を」
「あ……連絡……わかりました!」
なぜ咲人が、菜々美の母の名前を知っているのだろうと、小さな疑問が脳裏をよぎったが、菜々美はまず母の智子へ連絡を取った。
美月を狙った男が家に押しかけてきたこと、甘味堂夕さりへ避難していること、犯人は動けず、意識を失っていることを説明する。
怪我はないかと心配する智子の声を聞いて、改めて山本オーナーの変貌した顔を思い出し、身震いした。
そして警察にも連絡した。すぐに山本オーナーを捕まえに来てくれるそうだ。
電話が終わると、咲人は人型を取り、獣耳と尻尾を消して、黒髪に戻っていた。そして菜々美がしているものと同じ、翡翠のピアスを取り出した。
「お前たちをあの男から離そうと、無意識のうちに俺の妖力で結界をくぐり、狭間まで飛んだが……念のためピアスを付けておく。ここから出たら自然と消えるように妖気を注いでいるから、お前の妹はここが狭間だということも、俺があやかしだということも、気づかないはずだ」
咲人のすっと手が動き、一瞬のうちに美月の左耳へ、翡翠のピアスがつけられた。
山本オーナーの怒声が響き、サバイバルナイフが振り上げられる。
鈍い光が菜々美の目を射った刹那、左耳のピアスが熱を放った。
菜々美の体へ、鋭い刃先が食い込もうとした時、空気がゆらりと揺らめき、光の粒子が弾ける。
「――菜々美!!」
聞きなれた声と共に、大量の光が目の前を集まり、菜々美は思わず目を閉じた。
一瞬の後、眩い光の粒が人の姿へと変化し、咲人が現れる。彼は人型を取っており、獣耳と尻尾を消していた。
(あ……咲人、さん……!)
咲人を見た瞬間に、菜々美の胸が奥が安堵と喜びで打ち震えている。公園でろくろ首の男に襲われた時も、危ないところを助けてくれた。
(咲人さんが……助けに来てくれた……!)
「ぐっ、この眩しい光……っ、だ、誰だ……っ! くそおぉぉっ」
恐怖と苛立ちに顔を醜く歪ませた山本オーナーが、刃先を咲人へ向け突進してきた。
咲人は華麗に飛び退いてかわし、片手を突き出すと大量の光と共に妖力の礫を放つ。
「ご……、ぐふっ……」
山本オーナーは刃物を落とし両手で顔を覆うと、膝をついて床に前のめりに倒れた。
菜々美は美月を抱きしめたまま、視界が真っ白になり、眩しさに目を閉じる。
ふわりと体が浮遊感に包まれ、はっとして目を開けると、真っ白な霧が周囲に立ち込め、菜々美たちの体がふわりと空中に舞い上がっていた。
「咲人さん……私たち宙に浮いて……」
「じっとしていろ。大丈夫だ」
菜々美は彼の体にしがみつき、目を閉じる。
世界中のどこより、咲人のそばが落ち着く。オレ様でぶっきらぼうなところがあるけれど、菜々美は彼のことを誰よりも信頼し、頼りにしているのだ。
やがて菜々美と美月を抱き上げたまま、咲人は妖狐の姿に戻って地面を蹴ると空高く昇り――そのまま甘味堂夕さりへと向かった。
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店の中へ入ると、咲人は菜々美を下ろし、まだ気を失っている美月を長椅子の上に寝かせた。菜々美は美月の額に濡れタオルを置く。
「美月……」
目を閉じていても美しい妹の顔を見つめ、大丈夫だろうかと心配している菜々美の背後から、咲人が静かに言った。
「軽い脳震盪のようだから、じきに気づくと思う。それにしても……美月という妹は、菜々美と似ていないな」
今まで何度も言われたことのある言葉なのに、咲人から言われた途端、胸の奥が抉られるように痛んだ。
そんな菜々美の表情を見た咲人が、ぐっと眉根を寄せた。
「――すまない。お前を傷つけるつもりはなかった」
「平気です。自分でも、美月とまったく似てないとわかっていますから……あの、助けに来てくれて、ありがとうございました」
「翡翠のピアスが教えてくれた。あの男が美月につきまとっていたという、カフェのオーナーか?」
「そうです。すっかりおかしくなってました。あっ、あの男は逃げてしまったんでしょうか?」
菜々美の問いに、咲人は小さく首を横に振る。
「動けないように手足を縛ってきた。しかし、あのままではお前の母親と遭遇するかもしれない。菜々美、智子さんへ連絡を」
「あ……連絡……わかりました!」
なぜ咲人が、菜々美の母の名前を知っているのだろうと、小さな疑問が脳裏をよぎったが、菜々美はまず母の智子へ連絡を取った。
美月を狙った男が家に押しかけてきたこと、甘味堂夕さりへ避難していること、犯人は動けず、意識を失っていることを説明する。
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「お前たちをあの男から離そうと、無意識のうちに俺の妖力で結界をくぐり、狭間まで飛んだが……念のためピアスを付けておく。ここから出たら自然と消えるように妖気を注いでいるから、お前の妹はここが狭間だということも、俺があやかしだということも、気づかないはずだ」
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