あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴

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五皿目 見越入道の暴走と和菓子の絆

その8 それぞれの思い

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「ん……ぅ……、ここ、は……?」

 長椅子に横になっていた美月が、意識を取り戻し、ゆっくりと目を開けた。

「大丈夫よ、美月。ここは私がお世話になっている『甘味堂夕さり』の店内で、山本オーナーは、駆け付けた店長が取り押さえてくれたのよ」
 
 美月は手をついて起き上がり、周囲を見回した。

「あたしたち助かったのね。よかった……。護身術を習っていても、恐怖で体が動かなかった。本当に怖かった……」

 美月が小さく体を震わせているのを見て、咲人が冷たい水が入ったコップを差し出した。

「水を飲んで落ち着け」
「……っ、あなたは?」

 モデルをしている美月でも、咲人の恐ろしいほどの美貌は珍しいのだろう。驚いた表情で固まったように彼を見つめている。

「俺は泉咲人――この店の店長をしている。怪我がないようで、本当によかった」
「た、助けてくださって、ありがとうございました。危ないところでした……」

 美月が深く頭を下げ、菜々美も同じようにする。咲人が来てくれなかったらどうなっていたか、考えただけでも恐ろしい。

「もう少し早く駆けつければよかったが……」
「そんな……あの、あたしは桃瀬美月といいます。いつも姉がお世話になっています」

 改めて自己紹介する美月に、咲人は誇らしげに菜々美を振り返った。

「菜々美は本当によく頑張ってくれている。お世話になっているのはこちらのほうだ」

 そっと手が伸びてきて、咲人の手が菜々美の頭上にポンと触れた。ドキンと心臓が跳ねた直後、わしゃわしゃと乱暴にかき回されて驚いた。

「あの、咲人さん、髪が……大変なことになりますので……」

 いろいろあって乱れている髪が、もうぐしゃぐしゃだ。ようやく髪から手を離した咲人と目が合い、菜々美は苦笑した。

「ようやく笑った。お前は笑顔の方がいい」
「咲人さん……」

 元気づけようとしてくれている咲人の優しさに気づき、菜々美は心からの笑顔を浮かべた。そんな咲人と菜々美の様子を、美月はじっと見つめている。
 次の瞬間、ガラガラと音を立てて扉が引かれ、血相を変えた蘭丸が入ってきた。

「菜々美ちゃん! よかった、無事だね。咲人さんから聞いたよ。菜々美ちゃんの家に変質者が現れたって……」
 
 真っ直ぐに菜々美の方へ駆け寄った蘭丸から、がばっと両手を握りしめられ、菜々美は「わ」と思わず声を出した。
 両手を包み込む蘭丸の白い手の温もりに、言葉が出てこない。
 視線を感じ、そっと横を見ると、驚いた表情の美月の視線が、両手を握りしめられている菜々美の手に注がれていた。
 恥ずかしさから、失礼にならないよう、そっと蘭丸の手から手を引っこ抜く。

「あの、蘭丸さん、こちら、双子の妹の美月です」

 美月を見た彼は目を丸くした。

「君が? 菜々美ちゃんの妹さん? 初めまして……えっと僕は……この店のアルバイトで……その……」

 自己紹介の言葉が途切れたので、どうしたのかと思ったら、蘭丸はぼぅっと美月に見惚れていた。

「ら、蘭丸さん、口が半開きになっていますよ」

 菜々美が小声でそう指摘すると、彼は口を閉じて顔を赤らめ、頭を掻きながら、照れた笑みを浮かべた。

「ごめん。こんなきれいな女の子、初めて見たから……びっくりした」

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