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五皿目 見越入道の暴走と和菓子の絆
その13 見越入道の姿に
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明日香の運転する車の助手席に菜々美が座り、結界を抜けて『甘味堂夕さり』の前まで来ると、案の定、研也の車が店前に斜めに停まっていた。
開け放たれた夕さりの店の扉から、大きな物音と共に、研也の怒声が響いてくる。
「てめえが、あの女とグルになって……っ、ぶっ殺す! ぶっ殺してやる!」
物騒な怒鳴り声に足がすくんだが、ガシャンと何かが割れる音が聞こえ、菜々美は車の助手席から店内へ飛び込んだ。
明日香は青ざめて立ち尽くしているが、菜々美は自分を叱咤し、店内に飛び込んだ。
「あ? なんだ、お前はっ」
「菜々美、来るな!」
顔を真っ赤にした研也の驚いた声と、咲人の鋭く制止する声が重なった。
咲人と研也は、カウンターを挟んで向かい合っている。店の中に客がいないことが幸いだが、周囲に割れた皿や食器類が散乱している。厨房で咲人が試作していたのだろう、和菓子が全部床に落ちてぐちゃぐちゃになっていた。
「ひどい……」
思わず床に膝を着き、和菓子を手に取る菜々美に、研也が「ふん」と鼻を鳴らした。
「この男がしたことの方が、何倍もひどい。あの女と示し合わせて、金を奪おうとしたのだから」
明日香が店内に入ってきて、研也に向かって叫ぶ。
「研也さん、違うと言ってますわ!」
「黙れっ! お前はこの店長とデキているんだろう! 汚い女だ!」
話を聞こうとしない研也に、菜々美も大きな声を上げる。
「明日香さんは、研也さんを止めにきたんです。どうか、落ち着いてください」
「どうせ皆、店長の味方だろう! 顔がいい男は得だ。ぶっ殺してやる!」
理性を失っている研也は、いきなり菜々美の頭上へ平皿を振り上げた。
驚きのあまり、思考が停止して動けない。明日香も仰天して息を呑んでいる。だが、咲人は違った。
それまで眉根を寄せたまま、一方的に食器を投げて暴れる研也の攻撃を、静かに避けるだけだった咲人が、高い天井に着きそうなほどの跳躍を見せた。
咄嗟のことに体が硬直し、逃げることができずにいる菜々美の前に庇うように立つと、研也の腕を掴み、そのまま片手で彼を軽々と投げ飛ばした。
研也の体は大きな音を立てて壁に叩きつけられ、激痛と悔しさに顔が大きく歪む。
「痛いっ……! くそっ、なんでこんな目に……悪いのはお前たちだ。ぶっ殺してやる」
立ち上がった研也の顔つきがガラリと変わった。先ほどまでの怒りを湛えた表情が消え、彼の唇にゆっくりと意地悪そうな笑みが浮かんでいる。
何より、研也から放たれる妖気に殺気が混ざり、菜々美と明日香は、彼から放たれる妖力にびりびりと全身が痺れ、動けなくなった。
「うぐぅ――ぐぐ……ううぅぅぅ……」
憤慨の声を漏らしながら、研也の体がみるみるうちに巨大化していく。
菜々美と明日香が息を呑んだ。
バキバキと音を立てながら、店内のテーブルや椅子が壊され、屈んでいる研也の体は、もう店内いっぱいだ。
「許さない。よくもバカにしたな。絶対に許さぬ――」
見越入道の姿になった研也は、咲人しか見ていない。その眼差しは炎のように激しく、彼は怒りで我を忘れてしまっている。
「咲人さん、逃げて……!」
菜々美の声は、研也の哄笑に掻き消された。
「土下座して許しを請えば、今回のことは水に流してやったのに……」
「誤解だと何度言えばわかる」
静かに言葉を返す咲人に、研也の顔から嘲笑が消える。
「もっと怯えたらどうだ。その整った顔をぐちゃぐちゃに潰してやる。覚悟しろ……っ」
巨大な研也の手が咲人を捕えようと伸びた。
それを避けるために飛びすさる咲人から妖気が迸り、九本の長い尻尾が炎のように大きく揺れる。
「店を壊すな。外へ出ろ」
低い声で命じた咲人が、目にもとまらぬ速さで壁を蹴り、研也の顔面に九本の尾が叩きつけられた。
「うぐぅっ」
研也が顔を押さえ、ガクッと膝を着く。すかさず妖力を両手に集中させた咲人が、自分の何倍もの巨躯を持つ研也の襟首を掴んで外へ放り投げた。
ドゥッと音を立て、見越入道になった研也が店の前の地面に転がった。
「うぉぉ……! ぶっ殺してやる、絶対に許さないっ」
ゼイゼイと荒い息をつきながら、研也が立ち上がった。
開け放たれた夕さりの店の扉から、大きな物音と共に、研也の怒声が響いてくる。
「てめえが、あの女とグルになって……っ、ぶっ殺す! ぶっ殺してやる!」
物騒な怒鳴り声に足がすくんだが、ガシャンと何かが割れる音が聞こえ、菜々美は車の助手席から店内へ飛び込んだ。
明日香は青ざめて立ち尽くしているが、菜々美は自分を叱咤し、店内に飛び込んだ。
「あ? なんだ、お前はっ」
「菜々美、来るな!」
顔を真っ赤にした研也の驚いた声と、咲人の鋭く制止する声が重なった。
咲人と研也は、カウンターを挟んで向かい合っている。店の中に客がいないことが幸いだが、周囲に割れた皿や食器類が散乱している。厨房で咲人が試作していたのだろう、和菓子が全部床に落ちてぐちゃぐちゃになっていた。
「ひどい……」
思わず床に膝を着き、和菓子を手に取る菜々美に、研也が「ふん」と鼻を鳴らした。
「この男がしたことの方が、何倍もひどい。あの女と示し合わせて、金を奪おうとしたのだから」
明日香が店内に入ってきて、研也に向かって叫ぶ。
「研也さん、違うと言ってますわ!」
「黙れっ! お前はこの店長とデキているんだろう! 汚い女だ!」
話を聞こうとしない研也に、菜々美も大きな声を上げる。
「明日香さんは、研也さんを止めにきたんです。どうか、落ち着いてください」
「どうせ皆、店長の味方だろう! 顔がいい男は得だ。ぶっ殺してやる!」
理性を失っている研也は、いきなり菜々美の頭上へ平皿を振り上げた。
驚きのあまり、思考が停止して動けない。明日香も仰天して息を呑んでいる。だが、咲人は違った。
それまで眉根を寄せたまま、一方的に食器を投げて暴れる研也の攻撃を、静かに避けるだけだった咲人が、高い天井に着きそうなほどの跳躍を見せた。
咄嗟のことに体が硬直し、逃げることができずにいる菜々美の前に庇うように立つと、研也の腕を掴み、そのまま片手で彼を軽々と投げ飛ばした。
研也の体は大きな音を立てて壁に叩きつけられ、激痛と悔しさに顔が大きく歪む。
「痛いっ……! くそっ、なんでこんな目に……悪いのはお前たちだ。ぶっ殺してやる」
立ち上がった研也の顔つきがガラリと変わった。先ほどまでの怒りを湛えた表情が消え、彼の唇にゆっくりと意地悪そうな笑みが浮かんでいる。
何より、研也から放たれる妖気に殺気が混ざり、菜々美と明日香は、彼から放たれる妖力にびりびりと全身が痺れ、動けなくなった。
「うぐぅ――ぐぐ……ううぅぅぅ……」
憤慨の声を漏らしながら、研也の体がみるみるうちに巨大化していく。
菜々美と明日香が息を呑んだ。
バキバキと音を立てながら、店内のテーブルや椅子が壊され、屈んでいる研也の体は、もう店内いっぱいだ。
「許さない。よくもバカにしたな。絶対に許さぬ――」
見越入道の姿になった研也は、咲人しか見ていない。その眼差しは炎のように激しく、彼は怒りで我を忘れてしまっている。
「咲人さん、逃げて……!」
菜々美の声は、研也の哄笑に掻き消された。
「土下座して許しを請えば、今回のことは水に流してやったのに……」
「誤解だと何度言えばわかる」
静かに言葉を返す咲人に、研也の顔から嘲笑が消える。
「もっと怯えたらどうだ。その整った顔をぐちゃぐちゃに潰してやる。覚悟しろ……っ」
巨大な研也の手が咲人を捕えようと伸びた。
それを避けるために飛びすさる咲人から妖気が迸り、九本の長い尻尾が炎のように大きく揺れる。
「店を壊すな。外へ出ろ」
低い声で命じた咲人が、目にもとまらぬ速さで壁を蹴り、研也の顔面に九本の尾が叩きつけられた。
「うぐぅっ」
研也が顔を押さえ、ガクッと膝を着く。すかさず妖力を両手に集中させた咲人が、自分の何倍もの巨躯を持つ研也の襟首を掴んで外へ放り投げた。
ドゥッと音を立て、見越入道になった研也が店の前の地面に転がった。
「うぉぉ……! ぶっ殺してやる、絶対に許さないっ」
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