あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴

文字の大きさ
73 / 78
五皿目 見越入道の暴走と和菓子の絆

その14 激闘と菜々美の覚醒

しおりを挟む
「誤解だと言っている。頭を冷やせ」
「うるさいっ! 黙れぇぇっ、お前を……殺してやるっ」

 目を血走らせ、地響きを立てて向かってくる研也の攻撃を咲人は身軽な跳躍でかわし、街路樹の上に飛び乗った。
 そこから飛び降りざまに片手を研也に向け、纏っていた稲妻を放つ。

「ぐぅっ! うおおぉぉ……っ」

 突然の閃光に避ける間もなく、研也の体が大きく痺れ、どぉっと倒れた。

「くそっ、さすが高い妖力を持つ妖狐……! しかし、見越入道が負けるわけにはいかない……!」

 憤怒に禿頭まで真っ赤にした研也が、大きく息を吸い込み、長い髪をなびかせ身をかわす咲人を執拗に狙う。

「うおおぉぉ……っ」

 青ざめている明日香を庇うようにして、店の壁に身を隠していた菜々美は、丸太のような太く長い研也の腕に吹き飛ばされた。
 地面に叩きつけられ、菜々美は一瞬気を失いかける。

「菜々美ちゃん!」

 飛び出したのは蘭丸だ。血相を変えて走り寄り、倒れていた菜々美を抱き起す。

「大丈夫かい、菜々美ちゃ……」
「お前達も許さぬ! 叩き潰してやるっ」

 ゴッと音を立て、巨大な研也の腕が蘭丸の体を吹き飛ばした。店の壁に叩きつけられ、蘭丸の体がずるずるとその場に崩れ落ちる。

「蘭丸さん……っ」
「よくもあたしの可愛い孫を!」

 瑠璃が叫んだ。途端、彼女から凄まじい冷気があふれ出し、氷のような風が周囲を包む。研也目がけて、突き刺さるような氷の礫が襲いかかった。

「邪魔をするな!」

 つぶやいた研也の体を大量の糸が巻き付いた。女郎蜘蛛の明日香が指先から糸を繰り出しながら叫ぶ。

「もう止めて! 誤解だって言ってるでしょう! あたしの言い方が悪かったのなら何度でも謝るから……」
「やかましい。貴様だけは絶対に許さぬ! 死ね――っ」

 研也は体に巻き付いている糸を両手で力任せに引きちぎると、躊躇なく明日香の体を手で叩きつけた。

「明日香さんっ」

 地面に頭を打ち付け、明日香は気を失ってしまう。
 その彼女を踏みつけようと足を上げる研也を、跳躍した咲人が疾風のような身のこなしで、背後から蹴りつけた。
 地響きをさせて膝をついた研也が、忌々しそうに「うぉぅっ」と呻くと、瑠璃が素早く前に出る。

「戯れがすぎるわよ、見越入道ッ」
「雪女ごときが、生意気な」

 さらに強い冷気を吹き上げた瑠璃に、研也の腕が炸裂した。咄嗟に氷の鎧で防いだものの、瑠璃の体が後方へ下がる。

「女は嫌いだ! 厚かましい女は特に。明日香、お前を許しはしない……っ」

 目を血走らせ、研也は明日香を睨みつけた。意識を取り戻したばかりの明日香は、朦朧もうろうとする頭を押さえたまま動けず、逃げることもできない。

「ぶっ殺してやる」

 菜々美は無意識のうちに立ち上がると、まだ痺れが残っている脚を叱咤し駆け出す。
 走りながら地面を蹴った。
 菜々美の体は街路樹よりも高く跳躍していた。頭の中は真っ白で、ただただ、大切な夕さりの店舗と皆を守ることしかない。
 空中で、両手を研也へ向ける。次の瞬間、稲妻が菜々美の体中で生まれ、両手から放たれた。
 咲人が繰り出した妖力を同じ技に、研也の巨躯が後方に吹っ飛んだ。

「な、なんだ、お前は! 人間じゃないのか? 妖狐族の妖気を強く感じる……お前は……混じり者か!」
「混じりし……者……?」
「妖怪と人間が混ざり合って誕生した混じり者は、人間でもなくあやかしでもない半妖だ! 能力も妖力もほぼ人間に近いはず。なぜお前は大技を使えるのだ?」
「……」

 半妖という言葉に、菜々美は息を呑む。
 自分でもわからない。ただ菜々美は、大切な人と場所を守りたかっただけだ。

「余計なことを言うな。それ以上くだらない御託を並べるなら、容赦しない」

 怒気を含んだ咲人の声が落ち、大気が揺らぐ。咲人の殺気が妖雲をなって立ち上り、空が黒い雲に覆われた。

「瑠璃! 冷気結界を張れ」
「任せて!」

 瑠璃が冷気を飛ばして膜を作った直後、轟音と閃光が研也を直撃した。
 瑠璃の結界越しにも、大波のような風が吹きつけ、菜々美は気力を使い果たし、その場に崩れ落ちた。

「菜々美……っ」

 咲人の声が聞こえたのを最後に、菜々美の視界は暗転した。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...