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五皿目 見越入道の暴走と和菓子の絆
その16 双子の父親
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「あの……」
「まだ起き上がるなと言ってるだろう! 横になっていろ!」
「は、はいっ」
手をついて体を起こしかけた菜々美は、咲人から怒鳴られ、あわてて布団の中に入った。
瑠璃がふふふ、と笑いながら、菜々美の髪をすくように撫でる。
「あのね、菜々美ちゃん。咲人くんはね、ご両親がいなくて、ひとりで野狐として育ったの。その頃の咲くんは荒れていて、女の子を騙したり、危ないことをしたり、かなり悪い男だったのよぅ。ね、咲人くん?」
瑠璃がいたずらっぽく笑い、咲人は困ったような顔で「そんなことまで説明しなくていい」とぶっきらぼうに言った。
「あれはいつ頃だったかしら。咲人くんは同じ妖狐族の蒼吾さんと出会ったの。彼は他の誰にもできないことを咲人くんにしたのよ。実の弟のように咲人くんを導き、大切に愛情を注いだの」
「あ……」
家族はいるのかと聞いた時、咲人は義理の兄がいると言った。それが蒼吾という男なのだろう。
「菜々美、蒼吾さんの顔をお前に見せる。目を閉じてくれ」
「あ、はい……」
言われたとおりに目をつむると、そっと咲人の指先が菜々美の額に触れた。ぴりぴりと電気のようなものが伝わり、妖力が送り込まれ、ひとりの男の顔が菜々美の脳裏に浮かぶ。
切れ長の双眸と高い鼻梁、形のよい唇、非の打ち所がない、美しい男性が優しく微笑んでいる。
(誰……? この人が、蒼吾さん……? この人……美月に……似ているような)
菜々美がそんなことを考えていると、咲人が静かに告げた。
「彼――蒼吾さんは、菜々美と美月の父親だ」
「えっ……お、お父さん……?」
咄嗟に菜々美は大きな目を開け、信じられない思いで、咲人の美麗な双眸を見つめる。
「本当に? この蒼吾という人が、私と美月の、お父さん……?」
「そうだ――」
咲人が深く首肯し、瑠璃がふわりと微笑む。
「蒼吾さんはね、すごく優しい人だったのよぅ。この『甘味堂夕さり』は、蒼吾さんがはじめたお店なの。彼は和菓子が好きで、よく人界へ行き売っていたわ。養護施設や保育園にも行って……その縁で智子さんと知り合ったのよぅ」
「母さんと? あ、母さん、保育士だから……」
「ふふふ、運命の出会いだって、蒼吾さん言ってたわ。あたしは人間の伴侶と暮らしていたから、いろいろ蒼吾さんの相談に乗っていたのよぅ。咲人くんは猛反対したけれど」
「え……咲人さんは、父さんと母さんの結婚に反対だったんですか?」
起き上がろうとする菜々美を咲人が素早く止め、布団をかけ直した。
「まだ起きるな――打撲は安静が大切だ」
「はい……。あの、なぜ咲人さんは、結婚に反対を?」
咲人は口元を引き締め、罰が悪そうな顔になってつぶやいた。
「寿命が違うし、蒼吾さんが苦労しそうだったから反対した。しかし、蒼吾さんは智子さんといる時、幸せそうだった。だから俺は悩んだ……」
菜々美は「寿命が……そうですね」と頷いた。あやかしは不老長寿だ。種族によって違うが、人間に比べると寿命は驚くほど長い。
瑠璃がくすくす笑い出す。
「それだけじゃないでしょう? 咲人くんは、蒼吾さんを誰かに奪われるのが嫌だったのよね? 兄とも父とも彼のことを慕っていたから……ね、咲人くん? でも蒼吾さんが本当に智子さんを必要としていることを知って、反対するのをやめたのよね?」
咲人はまっすぐに菜々美を見つめ、目元をやわらげた。
「俺は、蒼吾さんは智子さんはお似合いだと思うようになった。短い間だったが、二人は幸せに暮らした」
短い間という言葉に、菜々美の胸が締め付けられた。
「まだ起き上がるなと言ってるだろう! 横になっていろ!」
「は、はいっ」
手をついて体を起こしかけた菜々美は、咲人から怒鳴られ、あわてて布団の中に入った。
瑠璃がふふふ、と笑いながら、菜々美の髪をすくように撫でる。
「あのね、菜々美ちゃん。咲人くんはね、ご両親がいなくて、ひとりで野狐として育ったの。その頃の咲くんは荒れていて、女の子を騙したり、危ないことをしたり、かなり悪い男だったのよぅ。ね、咲人くん?」
瑠璃がいたずらっぽく笑い、咲人は困ったような顔で「そんなことまで説明しなくていい」とぶっきらぼうに言った。
「あれはいつ頃だったかしら。咲人くんは同じ妖狐族の蒼吾さんと出会ったの。彼は他の誰にもできないことを咲人くんにしたのよ。実の弟のように咲人くんを導き、大切に愛情を注いだの」
「あ……」
家族はいるのかと聞いた時、咲人は義理の兄がいると言った。それが蒼吾という男なのだろう。
「菜々美、蒼吾さんの顔をお前に見せる。目を閉じてくれ」
「あ、はい……」
言われたとおりに目をつむると、そっと咲人の指先が菜々美の額に触れた。ぴりぴりと電気のようなものが伝わり、妖力が送り込まれ、ひとりの男の顔が菜々美の脳裏に浮かぶ。
切れ長の双眸と高い鼻梁、形のよい唇、非の打ち所がない、美しい男性が優しく微笑んでいる。
(誰……? この人が、蒼吾さん……? この人……美月に……似ているような)
菜々美がそんなことを考えていると、咲人が静かに告げた。
「彼――蒼吾さんは、菜々美と美月の父親だ」
「えっ……お、お父さん……?」
咄嗟に菜々美は大きな目を開け、信じられない思いで、咲人の美麗な双眸を見つめる。
「本当に? この蒼吾という人が、私と美月の、お父さん……?」
「そうだ――」
咲人が深く首肯し、瑠璃がふわりと微笑む。
「蒼吾さんはね、すごく優しい人だったのよぅ。この『甘味堂夕さり』は、蒼吾さんがはじめたお店なの。彼は和菓子が好きで、よく人界へ行き売っていたわ。養護施設や保育園にも行って……その縁で智子さんと知り合ったのよぅ」
「母さんと? あ、母さん、保育士だから……」
「ふふふ、運命の出会いだって、蒼吾さん言ってたわ。あたしは人間の伴侶と暮らしていたから、いろいろ蒼吾さんの相談に乗っていたのよぅ。咲人くんは猛反対したけれど」
「え……咲人さんは、父さんと母さんの結婚に反対だったんですか?」
起き上がろうとする菜々美を咲人が素早く止め、布団をかけ直した。
「まだ起きるな――打撲は安静が大切だ」
「はい……。あの、なぜ咲人さんは、結婚に反対を?」
咲人は口元を引き締め、罰が悪そうな顔になってつぶやいた。
「寿命が違うし、蒼吾さんが苦労しそうだったから反対した。しかし、蒼吾さんは智子さんといる時、幸せそうだった。だから俺は悩んだ……」
菜々美は「寿命が……そうですね」と頷いた。あやかしは不老長寿だ。種族によって違うが、人間に比べると寿命は驚くほど長い。
瑠璃がくすくす笑い出す。
「それだけじゃないでしょう? 咲人くんは、蒼吾さんを誰かに奪われるのが嫌だったのよね? 兄とも父とも彼のことを慕っていたから……ね、咲人くん? でも蒼吾さんが本当に智子さんを必要としていることを知って、反対するのをやめたのよね?」
咲人はまっすぐに菜々美を見つめ、目元をやわらげた。
「俺は、蒼吾さんは智子さんはお似合いだと思うようになった。短い間だったが、二人は幸せに暮らした」
短い間という言葉に、菜々美の胸が締め付けられた。
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