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第二十四話 新婚ごっこ(ハネムーン効果で頭パッカーン! 過去一甘えてもいいですか?)
しおりを挟む俺とレイラは食卓についている。
彼女はエプロン姿でテーブルにお皿を置く。
「はい! 召し上がれ!」
「おぉっ! うまそう! いただきます!」
俺はエプロン姿の彼女に飛びかかり、襲い掛かろうとした。
「ってこら! 私じゃなくて朝ごはんのことよ!」
彼女に軽く躱され、
「なぁーんだ……!」
「ほら早く食べないと冷めちゃうわよ? せっかく作ったのにぃ……」
俺は女体は諦めて、食事に取り掛かることにした。
朝飯は、女の子がよかったな。
俺はしょんぼりとスクランブルエッグを食べようとすると、
「あなた、口開けて? あーんしてあげる……!」
その一言で即元気になった。
「はい! 開けます! あーんしてほしいです!」
今日は新婚ごっこの日。俺とレイラが考えたマンネリ防止のアツアツカップル維持テクニックだ。
新婚若夫婦になったつもりで朝から晩までいちゃつく。ベタベタして、ラブラブして、ぎゅうしてチューして、互いを褒め合う。それだけだ。
俺は口をあーんと開けると、彼女は、乱暴にスプーンを突っ込んできた。
「むがっ! もごっ!」
スプーンは、俺の口内をめちゃくちゃにかき回す。熱々の卵料理が俺の舌に絡みつく。
「うふふ! おいしいのね! 作った甲斐があったわ!」
彼女は俺が喜んでいると勘違いし、
「もっと食べて! 全部食べて!」
「うがっ! しむっ!」
俺は手足をばたつかせ嫁の料理で窒息する。まるでスプーンとディープ○スさせられているみたいだ。
「わぁ! あなたったらそんなに慌てなくてもいいのよ! たっぷり作ったんだから!」
「はぐっ! うぐぅ……!」
「そんなに美味しいの? 私……うれしいっ!」
嫁はなんだか知らんがものすごく幸せそうだ。
俺は彼女の手を押さえ、スプーンを吐き出した。
「ゲホッ! ゴホッ! おええ……」
「まあ! あなたスプーンまで食べてくれたの? 私……すごくうれしい!」
「『すごくうれしい!』じゃねーよ! スプーン食べたんじゃなくって、レイラが俺の口の中に丸ごと突っ込んだんだろ! なんで? 何でこんなことするの?」
彼女は不思議そうな顔をしながら、
「なんでって?」
「なんで不思議がっているんだよ? なあレイラ? 俺たち今新婚ごっこしているんだよな?」
「そうよ? あなた……大好きっ!」
「新婚ごっこっていうのは、新婚若夫婦になったつもりで朝から晩までいちゃつく遊びじゃないのか? ベタベタして、ラブラブして、ぎゅうしてチューして、互いを褒め合う。それだけのはずだろ? なんで早朝から暗殺未遂されないといけないんだ?」
彼女は驚愕の表情で、
「暗殺っっ? 誰に命を狙われているの?」
俺は嫁が、驚愕の表情をしたことに驚く。
「目の前にいる俺の嫁にだよ!」
「わ、私? 私はあなたの妻よ! 暗殺なんかするわけないでしょ!」
「たった今しただろう!」
「あーんして食べさせてあげただけでしょう?」
「それが殺人未遂だって言っているんだよ! ……スプーンが一個丸ごと口の中に入れられていたんだけど……?」
「そ、それは……」
「前から思ってたんだけどレイラ不器用だよね?」
「そ、そんなことない……ですよ……」
「すぐ俺の前で転けてパンツを見せるし、尻を晒すし、谷間を見せるし、
俺の頭をおっぱいでキャッチするし、
パンツを履き忘れることもしょっちゅう。
ラッキースケベられどころの騒ぎじゃないぞ? 痴女だぞ?
さらにこの前朝起きたら上下ジーパンだったろ! あれどうやって着たの? 普通にすごくない?
それに、料理で塩とこしょうを間違えることは常。
シャンプーとリンスを間違えることも平常運転。だから塩もシャンプーも逆のボトルに詰めてある。言っとくがこんなの普通じゃないからな?
それに一番やばかったのは、夜の営みの時に、うっかり違う方の……」
「わかった! っていうかこの前のアレの話はしない約束でしょ……」
俺は鋭い目つきで彼女を追い詰める。
「じゃあ自分が不器用だと認めるんだな?」
「ばれちゃった? う、うん……実は……私は不器用なのです……」
こいつ! バレてないとでも思ったたのか!
「私……奥さん失格ね……」
俺は首を縦に大きく振り、
「うん……そうだな!」
「彼女としてもダメダメね……」
俺は元気よくはつらつと、
「全くだ!」
「私は……だめな女だ……」
俺は彼女に完全に激しく同意した。
「その通りだなっ!」
すると嫁は、プンスカ怒りながら、
「なんでさっきから否定してくれないのよ!」
ポカポカと俺のことを叩いてきた。
「わっ! ちょ! やめて! 否定する! 否定するから!」
彼女は眉根をキッと寄せて、
「私は奥さん失格ね……」
「そ、そんなことないよ! レイラは俺の最高の嫁だ。ちょっと……いやそれは言い過ぎだな。かなり、いやそれでもまだ盛ってる……相当不器用で、めちゃおっちょこちょいだけど、そこが君のいいところだ!」
彼女は凛とした表情でこちらを見て、
「彼女としても……ダメダメね……」
値踏みするような表情がこええ……ちゃんと褒めないとまたスプーンを飲まされそうなので、
「んなこたねえだろ! ダメな彼女だったらとっくに別れてるって。今まだ付き合っているってことは、なんやかんや言っても好きってことだ!」
彼女は、面接官のような表情で、俺をチラチラ見ながら、
「私は……だめな女だ……」
「ぜんっぜん! ぜんっぜんそんなことないよ! 全然全然そんなことはなぃ……そんなことは…………ない(だんだん小声になりながら)」
「なーんか慰めるの下手じゃない? ま、いいわ」
すると彼女は俺にピッタリくっついてきた。
(おぉ……あったかい)
隣の椅子に座って俺にもたれかかってくる。肩をピッタリとよせて、
「はい。あなた。あーんして?」
俺は、口を開けて、
「あーん!」
するとそこにちょうどいい温度になったスクランブルエッグが運び込まれた。
舌の上でとろける黄金のバターは、口内を歓喜の一色に染め上げる。
「美味しい?」
「うん! 美味しい!」
「なんだか新婚っぽいことあんまりできなかったけど、それもなんだか私たちらしいかもね?」
「そうだな! こうしてふざけ合って、いちゃついて、のんびりする新婚夫婦がいてもいいかもな」
彼女は食事し終わった俺の手をキュッと握ってくれた。
「ねえ……あなた?」
「ん? なんだよ、そんな色っぽい表情になって?」
「ベッド行きたい……」
「……俺も……」
彼女は俺の手を握りながら、
「いこ?」
俺をベッドルームに連れ込もうとする。
「こんな朝からえっちするの?」
「ち、違います! ご飯食べ終わったから二度寝するの!」
「わかった。じゃあ昼前までひっついて寝よ?」
俺たちはベッドに舞い戻った。
一日中ベッドにいる。
男女でくっついて、ひっついて、ベッドの上でベタベタする。
そこだけは、普通の新婚夫婦みたいだった。
俺は腕枕で寝ているレイラに、
「いつか本当に結婚しようね……全部大好きだよ?」
普段は照れて言えないような本音を言った。
きっと彼女には聞こえていない。だけどそれでも別にいい。
彼女のこんな幸せそうな寝顔を見られるのなら……
「くぅ……くぅ……」
寝息を立てるレイラの口元がほんの少しだけ動いた。
「ああーっ! この女! 起きてやがったな!」
するとレイラはカッと目を開き、
「言質とったからね!」
そういうと、俺に勢いよく抱きつき、ベッドの上で、
「だーりん! だ~~いすき! いつか結婚しようね!」
そう、甘ったるく言ってくれた。
『ご自由にお使いください』へ続く。
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