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玉座の死闘
しおりを挟む第五章 炎
世界の時が止まる。熱を持った氷の中に押し込められたみたいだ。戦いの前の刹那、いつも私の周りの世界が止まって見える。
戦いたくない。傷つきたくない。怖い。恐い。怕い。私の心に巣食う弱腰の感情がそうさせる。視界が真っ白になり、手に汗が滲み出る。心臓が破裂するほど早くバクついて、肺が激しく収縮を繰り返す。だけど、今この瞬間だけは、いつもと少し違った。
私は不思議と落ち着いていた。心臓は静かにその役割を果たす。肺は正常なリズムでその大きさを変化させている。視界はクリアで、手に汗は無い。
誰かが一緒にいてくれるだけで、これほど心が軽くなるなんて。心に注射器が差し込まれて、中からドロリとした黒い液体が吸い出された。その黒い液体は、私の心を汚すネガティブな感情の塊。そして、その液体の代わりに、今は別のものが心の中を美しく華やかに満たしている。
止まった時は動き出す。静止した森羅万象が少しずつ動きを取り戻す。そして、華やかな玉座で戦闘が始まった。
黒髪の少年と私は背中合わせの姿勢をとる。戦闘において自身の位置どりは極めて重要な問題だ。常に前と後ろを確認して、敵との位置と距離を把握しておかなければならない。これにより、挟み撃ちや不意打ちを防ぐことができる。特に背後の情報はそのまま死に直結するケースが多く、目視で確認しておく必要がある。例え背後に味方がいても、目で確認すべきだ。
私は背後を確認することなく前だけに集中した。それほど彼のことを信頼していた。ついさっきまで敵同士で殺しあっていた。なぜこんなに彼のことを信頼できるのかわからない。もしかしたら急に振り返って切りかかってくるかもしれない。もしかしたら都合のいい私の妄想なのかもしれない。だけど、背中から伝わる温かいものはそんな考えが間違いだと私に伝える。
前方から三人のガードが矢のように突撃してくる。右、左、後方に一人ずつ。右のガードは赤色の宝石を身にまとう。左側のガードは青色の宝石を身にまとう。後方のガードは緑色の宝石だ。三人のガードが順番に宝剣で切りつけてきた。私はそれを剣で弾き返す。
豪華絢爛、華やかな宝剣と、ボロボロであちこち綻んでいる安物の剣が火花を散らした。鈍色と赤色の色彩の融合が透明な空気に色を与える。剣の破片と宝石の破片が光を反射し合いながら空を舞う。戦闘中でなかったならいつまでも見ていたい光景だった。すれ違いざまに私は赤のガードのアーマーの隙間に正確に剣を突き刺した。
続いて、青色の宝石が殺意を持って私を襲う。右からの薙刀の大振りは剣で押し返した。通常なら敵の身長と武器の長さを計算して回避するのだが、今はそうもいかない。背後の人物を守りつつ戦わないといけない。薙刀が私の剣に衝突する瞬間、激しい振動が両手の骨にまで染みた。
攻撃の振動は、私の骨を伝い、体を一周巡ると地面に逃げた。私の反応を見て青い宝石のガードが押してくる。頭上に高く振り上げられた薙刀を力任せに叩きつけてくる。
私は剣を横に寝かせてそれらを防いだ。インパクトの度に、青い宝石がその身を砕いて空気に溶ける。舞い散る宝石片は鮮やかな花弁によく似ていた。私は、三発目の攻撃の後、素早く懐に潜り込んだ。青い宝石のガードは、高く両手を挙げて振りかぶった薙刀で攻撃しようとしてくる。私は振り上げた右腕の肘の部分にある隙間に細身の剣を素早く突き刺した。攻撃と攻撃の合間に見つけた隙は、小さかった。だけど、私はその隙を正確に射抜いた。
差し込まれた剣は、彼の右の二の腕に絡みつくように刺さった。青い宝石のガードの初撃は右から、おそらくこいつは右利きだ。利き手を潰されてはもうほとんど戦闘はできないだろう。
最後の一人が飛び込んできた。緑の宝石のそいつは双剣使いの女性だった。小柄で素早い動きは、緑色の閃光となり私の網膜に影を落とす。それはまるで線香花火のように儚く、美しかった。私は左右、上下から飛び交う斬撃を全て正確に弾き返した。快音が静かな玉座を賑わす。耳に心地よく残るメロディーは戦闘中のものとは思えないほど甘美なものだった。私は、敵の攻撃に押され始めた。同じような体格に、同じような戦闘方法。これでは私のスピードを生かした攻撃が通用しない。
不意に右側からの攻撃が私の頬を舐めた。攻撃は青い宝石のガードによるものだった。傷ついた右腕を庇いながら、なんとか両手で薙刀を持っている。続いて、赤色の剣の軌跡が私の頚動脈を掠め取った。首筋に赤い血筋が走った。
三人のガードが協力してジリジリと歩み寄ってくる。ゆっくりと追い詰めるようにして私の方へ距離を詰める。私は目を閉じた。
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