この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜

大和田大和

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狼男

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戦闘を終えると、
「まさか、と戦うなんてなっ」
「それにが出てくるなんておーどろきでーす」
「それに俺は、が存在するなんてびっくりしたよ!」
「生を持った諺なんて本当に驚きよねー」

「ほんとだねー。しかもアリシアちゃんがあんな奇想天外な方法で戦うなんて思ってなかったよー」
「ああ。あれには本当に驚いたな。
あんな場所にあんなやばいものを入れるなんてな! 
あんなに奇抜な戦闘初めてみたぞ!」
俺はアリシアの頭を撫でた。

「えヘヘヘヘ。もっと褒めよ!」
「ミスアリシア。エロいでーす」
「それを言うならえらいだろ!」

「「「わっはっはっはー」」」

俺たちの楽しそうな笑い声は牛乳のダンジョンにこだました。
響く声は、何度も壁にぶち当たり反響しながら、薄暗い洞窟を這っていく。
それから俺たちは、次々にパワーアップをしながら洞窟の奥へと進んでいった。

冒険は楽しかった。すごく順調だった。そして、俺たちは洞窟の最深部についた。

洞窟の最深部は薄暗かった。
仄暗い洞窟内を薄明かりが弱々しく照らす。
最深部に着くと、そこは今までで一番大きな洞穴だった。

四メートルほどの天井が広がっている。
その一番奥には誰かが椅子に座っていた。

「アリシア?」
「がってん。アリシアファイアー!」
アリシアは炎の線を空中に張り巡らせた。

何もない空中にいくつものピアノ線のようになった炎が走る。
椅子に座った人物は縛られているようだ。
まだ誰が座っているのかわからない。

「おい。お前が狼男か?」
だが、返事はない。
その瞬間、嫌な空気が俺の背筋を舐めた。
ピリつく何かが足元から登ってくる。

黒い恐怖は蛇のような形になって俺の体にまとわりつく。
見えない蛇の鱗が俺の肌の上を這いずる。

冷たい鱗が俺の肌に触れて嫌な感触を俺に植え付ける。
俺は生唾を飲み込んだ。

そして、乾いた唇の間から声を絞り出した。



嫌な予感がする。なんだ? 
なんの違和感だ、これは? 
俺は心臓が今までとは比べ物にならないほど早く打っていることに気がついた。
鼓動の音が隣にいるアリシアの耳に届きそうなくらい大きくなる。

心臓はあまりの恐怖で、凍りついたみたいだ。
肺は激しく、その体積を変化させる。

洞窟内の空気は薄く、カビ臭い。
不衛生な空気が俺の肺胞を濡らす。

「やばい! 何かがおかしい! 逃げるぞ!」
俺以外の全員も何かやばい雰囲気を感じ、一目散に逃げ出そうとした。
その瞬間、椅子に座った人物から、を言われた。

? ?」

声の出所は、洞窟の再奥にいる椅子に座った人物からだった。
俺はその声を

心臓が破れたようだ。
肺が引きちぎれたようだ。
血管が凍りつき、瞼が裂けたみたいだ。

あまりの緊張と恐怖で、動脈の中を流れるわずか七マイクロメートルの赤血球の音すら聞こえそうだ。
どくどく流れる血と、ばくばく唸る心臓と、じりじり焼け付く緊張感が肌の上で踊っている。

「その声、ケンだろ?」
椅子に座った人物は俺のことを知っていた。俺はその人物に声をかける。


?」





俺の頭の中にこの現象の答えが出た。
(俺たちがこのダンジョンに入ってからずっと一緒にいたタイラーは偽物だ……!)

その瞬間、俺の脳裏にタイラーの言った台詞が次々に流れ込む。
そいつは、ずっと俺たちと一緒にいた。
その間、一度もパワーワードを言わなかった。
をして、をとっていた。

どうしてだ?

俺もアンジェリカもアリシアも幾度もパワーアップした。
その度に目の前にウィンドウが現れて、『パワーワードを感知しました。ケンの能力が向上します』と俺の本名を空中に表示した。

思えばずっと違和感があった。

そいつは、もしかしたら自分の本名をバラしたくなかったからずっと自然な台詞しか言わなかったんじゃいのか? パワーダンジョンでは奇抜な台詞を口に出さないほうが不自然だ。

俺はアリシアとともに、ゆっくりと背後を振り返る。

世界が止まる。この空間の時間だけが世界から切り取られたみたいだ。

時の流れがゆっくりになるのは、まるで俺とアリシアをこの先待ち受ける運命に進ませたくないようだった。

俺の頭の中にアリシアの台詞がもう一度フラッシュバックする。

力強い表情のアリシアが俺の頭の中で、俺の目をまっすぐにみてこう言った。
【がってん! 私がリーダーをやるわ。私が絶対に誰一人死なせない!】

俺たちの背後にいるが、
「ケン! 気をつけろ! その狼男はだ!」
と、言った。



その瞬間、俺たちの仲間からが出た。



切断された首が綺麗な放物線を描いて俺たちの背後に落ちた。
鈍い音とともに、アンジェリカの首が地面にぶつかった。

そして、偽物のタイラーは手に持った鋭い刃物で、アンジェリカの死体を切り刻んだ。

その光景はおぞましく、とても口にできるようなものではなかった。

「ワンワン! の出来上がりー!」
『パワーワードを感知しました。ウルフの能力が向上します』
タイラーの姿に変身している狼男ウルフは嬉しそうな声をあげた。

「アリシア! 下がれ!」
ウルフはゆっくりと這うように、舐めるように、俺たちを追い詰める。

「お前たちがパワーアップに興じる中、俺も同じようにパワーアップのチャンスを伺っていたんだ。
ワンワン。お前たちは、完全に袋の鼠。
お前たちの能力は全て会話の中で聞き出した。
お前たちの性格も、弱点も理解した。
お前たちには万に一つも勝ち目はない! 死ねーーーーーっ!」

そして、本来の姿(狼)に戻った狼男は、完全に追い詰められた俺たちに容赦なく襲いかかった。
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