17 / 260
神隠し
しおりを挟む
俺の顔面に伝わる圧力は脳にまで達した。
炸裂する衝撃は俺の顔に新しい傷を生み出した。
それと同時に俺の心に見えない傷も刻み込まれた様な気がした。
「お前のせいだ! お前の勝手な判断がアンジェリカを殺したんだ!」
「やめなよ! タイラー! リーダーは私でしょ。なら私が責められるべきよ!」
「よせ。アリシア。人狼討伐ができると判断したのは俺だ」
「アリシアはケンのことを庇うのか。ならお前も同じだな。俺はお前らのことを認めないからな」
「好きにしろ」
「お前らなんてもう俺の友達じゃない」
タイラーは一人で勝手に街の方に歩き出した。
少し遅れてから、
「アリシア。街に戻ろう」
「うん。お家に帰ったらまたみんなで仲良くできるよ」
「そうだといいな」
そして、険悪な雰囲気のまま俺たちは帰路に着いた。
帰る間俺とアリシアは一言も喋らなかった。
氷の様に冷たい沈黙が液体になって肌にまとわりついてくる。
粘つく沈黙は容赦なく俺の躯体を締め付けた。重たい空気がさらに黒く、重くなっていく。
「私、友達を失ったの初めて」
アリシアが沈黙のベールを切り裂いた。
「そうか」
「今まで友達なんて一人もいなかったから」
「そうだな」
「友達を失うのってこんなに辛いんだね」
「ああ」
「誰かと仲良くなるのって大変よね。覚悟がないといけない」
「うん」
「誰かと親密になるということは、同時にその人を失う苦痛も背負わないといけない。ねえケン?」
「なんだ?」
「普通の人の人生は友達を作って、別れての繰り返しなんでしょ?」
「そうだ。今の人間は友達なんて大事にしない。平気で傷つけるし、用がなくなったらそれっきりだ」
「私もいつかそうなっちゃうのかな? 友達がいなくても平気になっちゃうのかな?」
「かもな」
「ケンは私と一生の友達でいてくれる?」
「ああ。俺に帰る場所なんてないだろ?」
「そうだったわね。異世界から来たのよね」
「この世界に来る前は、俺にも友達がいたのかな?」
「ねえ、ケン」
「アリシア!」
「あなたに言わないといけないことがあるの」
「アリシア!」
「実はね--」
「アリシア! 俺たちの家が燃えている!」
街に着くと俺たちの家がある方向から火の手が上がっている。
轟々と燃える爆炎は空に向かって黒い轍を作り上げる。
「話は後だ! いくぞ!」
椅子でできた家の前に着くと、もうそこに家なんてなかった。
俺たちの帰るべき場所には煙を上げながら焦げる炎の塊だけがあった。
その炎の前には、メリッサがいた。
「おい! メリッサ! 何があった?」
メリッサは俺の顔を見ると、血の気が引いた顔からさらに血の気が引いた。
「こ、殺さないでください!」
「何? 俺が友達のことを殺すわけがないだろ!」
「メリッサ氏から離れるでござる!」
ジャックが俺のことを突き飛ばした。
「ジャック? おい、みんなどこにいる? ロイは? タラは? タイラーは?」
「何を言っているでござるか!
ロイもタラもタイラーも死んだでござる。
お主が殺したんでござろう!」
ジャックが嘘をついている様には見えなかった。
「まさか」
俺は下を向いて俯いた。そうすれば、辛い現実を見なくて済むから。
「ジャック。聞いて、ロイたちを殺して家を焼いたのは、ケンじゃないわ。
ケンの姿に変身した狼人間よ」
「狼人間でござるか?」
「ええ。『怪我をした! 俺の家まで運んでくれ』とでも言って私たちの家の場所をつきとめたはずよ。ケンは右目に大きな怪我をしていなかった?」
「していたでござる。ケンは家に着くと、突然ロイ達を殺し、家に火をつけたでござる」
「それはさっき私たちと戦った狼男よ」
俺は燃え盛る自分の家を見た。
それはまるで地獄を切り取ってこの世界に運んできたみたいだった。
これより酷い光景なんて俺は見たことがない。
必死でみんなで作った家。異世界から来た俺の唯一の帰る場所。
それはもうなくなっていた。
友達も家も何もかもを失った。
俺の瞳からはたくさんの水がこぼれた。
俺は能力でその水を操って押し戻そうとした。
だけど失敗した。押し戻しても押し戻しても、次から次へと溢れてきて止まらない。
そして、アリシアが俺の元へと近寄ってきた。
「アリシア。お前は俺の一生の友達だ。俺が絶対にお前だけは守る。ずっと一緒にいてくれ」
アリシアは俺のそばに来て、俺の頭を優しく撫でてくれた、いつか俺が彼女にそうした様に。
「俺のことを慰めてくれるのか?」
「ええ」
「ありがとう」
俺は泣きながら言った。俺はボヤつく視界の中心にアリシアの顔を捉えた。
彼女の蜂蜜色の瞳は炎を反射してより一層綺麗に輝いている。
「お礼なんていいのよ。だって私たちは--」
その瞬間、突然俺の目の前にいたアリシアが消えた。
神隠しにでもあったかの様に、一瞬で姿を消してしまった。
「アリシア?」
返事はない。
「アリシアっ?」
俺の声は虚しく空に響いていく。
「どこへ行ったんだ?」
俺の孤独な声は俺をより一層矮小に見せた。
「どこにもいかないって言ったじゃないか?」
孤独な夜は俺の心に入り込んできて、黒い絵の具で塗りたくる。俺の心の中から希望で抜け落ちていく。
「アリシア。俺を一人にしないでくれ!」
俺は突如一人になった。そして、そこから四年経ってもアリシアを見つけることはできなかった。
炸裂する衝撃は俺の顔に新しい傷を生み出した。
それと同時に俺の心に見えない傷も刻み込まれた様な気がした。
「お前のせいだ! お前の勝手な判断がアンジェリカを殺したんだ!」
「やめなよ! タイラー! リーダーは私でしょ。なら私が責められるべきよ!」
「よせ。アリシア。人狼討伐ができると判断したのは俺だ」
「アリシアはケンのことを庇うのか。ならお前も同じだな。俺はお前らのことを認めないからな」
「好きにしろ」
「お前らなんてもう俺の友達じゃない」
タイラーは一人で勝手に街の方に歩き出した。
少し遅れてから、
「アリシア。街に戻ろう」
「うん。お家に帰ったらまたみんなで仲良くできるよ」
「そうだといいな」
そして、険悪な雰囲気のまま俺たちは帰路に着いた。
帰る間俺とアリシアは一言も喋らなかった。
氷の様に冷たい沈黙が液体になって肌にまとわりついてくる。
粘つく沈黙は容赦なく俺の躯体を締め付けた。重たい空気がさらに黒く、重くなっていく。
「私、友達を失ったの初めて」
アリシアが沈黙のベールを切り裂いた。
「そうか」
「今まで友達なんて一人もいなかったから」
「そうだな」
「友達を失うのってこんなに辛いんだね」
「ああ」
「誰かと仲良くなるのって大変よね。覚悟がないといけない」
「うん」
「誰かと親密になるということは、同時にその人を失う苦痛も背負わないといけない。ねえケン?」
「なんだ?」
「普通の人の人生は友達を作って、別れての繰り返しなんでしょ?」
「そうだ。今の人間は友達なんて大事にしない。平気で傷つけるし、用がなくなったらそれっきりだ」
「私もいつかそうなっちゃうのかな? 友達がいなくても平気になっちゃうのかな?」
「かもな」
「ケンは私と一生の友達でいてくれる?」
「ああ。俺に帰る場所なんてないだろ?」
「そうだったわね。異世界から来たのよね」
「この世界に来る前は、俺にも友達がいたのかな?」
「ねえ、ケン」
「アリシア!」
「あなたに言わないといけないことがあるの」
「アリシア!」
「実はね--」
「アリシア! 俺たちの家が燃えている!」
街に着くと俺たちの家がある方向から火の手が上がっている。
轟々と燃える爆炎は空に向かって黒い轍を作り上げる。
「話は後だ! いくぞ!」
椅子でできた家の前に着くと、もうそこに家なんてなかった。
俺たちの帰るべき場所には煙を上げながら焦げる炎の塊だけがあった。
その炎の前には、メリッサがいた。
「おい! メリッサ! 何があった?」
メリッサは俺の顔を見ると、血の気が引いた顔からさらに血の気が引いた。
「こ、殺さないでください!」
「何? 俺が友達のことを殺すわけがないだろ!」
「メリッサ氏から離れるでござる!」
ジャックが俺のことを突き飛ばした。
「ジャック? おい、みんなどこにいる? ロイは? タラは? タイラーは?」
「何を言っているでござるか!
ロイもタラもタイラーも死んだでござる。
お主が殺したんでござろう!」
ジャックが嘘をついている様には見えなかった。
「まさか」
俺は下を向いて俯いた。そうすれば、辛い現実を見なくて済むから。
「ジャック。聞いて、ロイたちを殺して家を焼いたのは、ケンじゃないわ。
ケンの姿に変身した狼人間よ」
「狼人間でござるか?」
「ええ。『怪我をした! 俺の家まで運んでくれ』とでも言って私たちの家の場所をつきとめたはずよ。ケンは右目に大きな怪我をしていなかった?」
「していたでござる。ケンは家に着くと、突然ロイ達を殺し、家に火をつけたでござる」
「それはさっき私たちと戦った狼男よ」
俺は燃え盛る自分の家を見た。
それはまるで地獄を切り取ってこの世界に運んできたみたいだった。
これより酷い光景なんて俺は見たことがない。
必死でみんなで作った家。異世界から来た俺の唯一の帰る場所。
それはもうなくなっていた。
友達も家も何もかもを失った。
俺の瞳からはたくさんの水がこぼれた。
俺は能力でその水を操って押し戻そうとした。
だけど失敗した。押し戻しても押し戻しても、次から次へと溢れてきて止まらない。
そして、アリシアが俺の元へと近寄ってきた。
「アリシア。お前は俺の一生の友達だ。俺が絶対にお前だけは守る。ずっと一緒にいてくれ」
アリシアは俺のそばに来て、俺の頭を優しく撫でてくれた、いつか俺が彼女にそうした様に。
「俺のことを慰めてくれるのか?」
「ええ」
「ありがとう」
俺は泣きながら言った。俺はボヤつく視界の中心にアリシアの顔を捉えた。
彼女の蜂蜜色の瞳は炎を反射してより一層綺麗に輝いている。
「お礼なんていいのよ。だって私たちは--」
その瞬間、突然俺の目の前にいたアリシアが消えた。
神隠しにでもあったかの様に、一瞬で姿を消してしまった。
「アリシア?」
返事はない。
「アリシアっ?」
俺の声は虚しく空に響いていく。
「どこへ行ったんだ?」
俺の孤独な声は俺をより一層矮小に見せた。
「どこにもいかないって言ったじゃないか?」
孤独な夜は俺の心に入り込んできて、黒い絵の具で塗りたくる。俺の心の中から希望で抜け落ちていく。
「アリシア。俺を一人にしないでくれ!」
俺は突如一人になった。そして、そこから四年経ってもアリシアを見つけることはできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる