この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜

大和田大和

文字の大きさ
21 / 260

決着?

しおりを挟む
ウルフはアリシアの姿を解除して、

そういうと、自分の皮膚から小さなウルフを生やした。

小さなウルフたちは果実のように地面に産み落とされると、起き上がってこちらを睨みつける。


俺がそう言った瞬間、俺は直立不動の姿勢のまま横にスライドするように地面の上を滑った。

滑空するように走り、勢いをつけてウルフの分身を一匹串刺しにした。

ウルフはこちらを見ると、
!」
そう言った瞬間、ウルフの口の外にあるもの、教会の椅子や祭壇がウルフの口の中に引っ張られた。

空間を捻じ曲げて、家具を手繰りよせたようだ。

俺は飛んでくる椅子を素手で掴み、


その瞬間、手でつかんでいた椅子が俺の体内に入り込んだ。

小さくなった椅子が手から皮膚を突き破って血管を通っていくのを感じる。

そして、背中から勢いよく椅子が飛び出た。背中に生えた椅子に、次々と家具の雨が降り注ぐ。
「そして、椅子は落果(果物が落ちること)する」
椅子は果物のように根元からポロリと取れて地面に転がった。

ウルフは、
「俺の言葉がお前を殴る」
と言い、

「死ね!」、「くたばれ!」、「消えろ!」、「ゴミクズ!」、「お前なんか誰も必要としない!」、「いなくなれ」、「死んじゃえ!」、「お前には何もできない」

と、続けて言った。

するとウルフが発した罵詈雑言は質量を孕み空中に物質として生成された。
空中にはウルフが言った言葉の嵐が漫画に出てくる台詞のようになって浮かびあがる。

それを見て、俺は、
「アリシアの言葉は俺を守る」
と言い、

「ケンは私と一生の友達でいてくれる?」、「誰かと親密になるということは、同時にその人を失う苦痛も背負わないといけない」、「君、ひょっとして別の世界から来たの?」、「そう。私の名前はアリシアよ」

アリシアとの会話が次々とフラッシュバックする。
そして、それらの言葉は現実に産み落とされた。

硬い石のようになって俺の周囲を取り囲む。
「アリシア、俺を守ってくれ」
「死ね!」

ウルフの叫び声とともに、一斉に罵詈雑言が俺の体めがけて殴りかかってきた。
アリシアとの会話にウルフの罵詈雑言が横殴りの雨のように降り注ぐ。

「それはお前とあの小娘、アリシアと言ったな。アリシアとの会話だな?」
容赦のない言葉の暴力は、アリシアとの会話を次々と砕いていく。

「そうだ!」

「なぜそんな言葉を盾にした? 優しい言葉よりも、悪口の方が強い。
そのことはよくわかっているだろ?」

「うるさい!」
人間は脆い。誰かに自分を否定するような言葉を言われると、大きく傷ついてしまう。
誰かに優しくしてもらった言葉なんてすぐ忘れるのに、嫌な言葉ばかりを思い出してしまう。

優しい言葉や、日常の会話なんて弱い。
明らかに人を傷つける言葉の方が強い。

強く深く人間の脳に刻み込まれる。
俺はウルフに押されている。

明らかに劣勢だ。アリシアの言葉はひび割れて、崩れかかってきた。

そして、アリシアとの会話がウルフの罵詈雑言を打ち破った。

「ど、どうしてだ? なぜ俺の言葉が敗れた?」
アリシアとの会話のうちの一つ『そう。私の名前はアリシアよ』が『そう。』と『私の名前はアリシアよ』に分かれて、ウルフの分身を押しつぶした。

「絶対にお前に勝つ!」
俺は空気中に散乱している水分を集め、押し固めた。右手で液体の剣を掴む。


ウルフは口を大きく開いた。
口は顎を裂き、肩を破り、太ももを這いずって、臀部まで大きく開いた。

ウルフの内臓が大きく口を開いた。

「殺してやる!」

「俺は絶対にこの勝負に勝つ!」

そして、俺たちは全てを込めた一撃を放った。
狭い教会の中で、張りつめるような緊張感が波のように押し寄せる。

夜空から降り注ぐ流星のような光は、暗い室内を明るく濡らした。
長い長い戦いだった。ようやくもうそれが終わるのだ。

そして、暗い夜に一瞬だけ何かが光ったような気がした。勝負は一瞬でついた。



勝負に負けたのは俺だった。



俺の全身はもう五体満足でなくなっていた。
不完全になった俺の体はどこか美しかった。

右肩がない。右腕もない。
全部根元から引きちぎられてウルフに食べられた。
無くなった右腕があった箇所には、もう何もない。

焼けるような、冷たいような感覚だけがそこにある。
傷口が燃えるように熱い。熱を持って焼けているみたいだ。

傷口から溢れる血液は床にせせらぎを作る。
鮮やかなルビーのような液体が俺の体内から溢れて止まらない。
「お前の負けだ!」
「まだだ! 俺の仲間がそろそろここに着く頃だ」



「何? なんだと?」

「あいつらはお前のことをんだよ」

その瞬間、俺の部下が俺に陰口を言っているのが聞こえた。
聞こえないはずだ、影で言われているはずなのに、はっきりと俺の耳元で聞こえた。

「あんなやつ早く死ねばいいのに」、「援護をするふりをして放っておこうぜ」、「そうすれば屋敷は俺たちのものだ」、「ウルフにあいつの居場所を教えたの、実は俺なんだよね」、「いつも上から目線でムカつく」、「さっさと死ね」、「早く死んで欲しい」、「あいつなんていなければいいのに」、「あいつに友達なんて一人もいない」

次々と陰口が俺に浴びせかけられる。
「そんな、陰口が俺に聞こえるはずない!」

な。クククっ」
「あいつらは俺の友達だ」

「気づいているだろ。お前にはもう友達なんて一人もいない!」

「そんな! 嘘だ! お前は嘘をついている。俺の仲間は必ずここに来る。
空気を操るガリムが必ずここに来る!」

「いいや、お前の仲間はこない」
ウルフはとどめをさすために俺に近づいてくる。
大きく開いた口にはびっしりと犬歯が生えている。美しい歯並びは芸術作品のようだった。

「来る! ガリムが俺のことを助けに来る。あいつは俺の最後の友達だ!」
「お前に友達なんてもういない。断言するお前は死ぬ。
俺の口の中に、この世界の全てがある」

そして、ウルフは大きく開いた口をさらに大きく開く。
何かが裂けるような音と、骨が砕ける音が聞こえる。

ウルフは、口を三百六十度開口した。
上顎と下顎が一周回ってもう完全にくっついている。

もうどう形容していいのかわからない異様な光景だ。

口は完全に体外に露出している。
口の外と中があべこべになっている。
そして、ウルフはその口を俺に押し付けきた。

「死ね!」
「ガリム! 助けてくれ!」

そして、絶体絶命の俺に救いの手が差し伸べられた。


突如突風のようなものが吹き荒れたのだ。
俺はガリムの能力を思い出した。
「こ、これはガリムの能力?」
「ぐわっ! なんだ? 本当に仲間が助けに来たのか?」
なんとか背後を見ようと、俺は引きちぎれそうな体を引きちぎった。

右腕に続いて左足もちぎれてしまった。もう痛覚なんてとっくにない。

「ガリム?」
俺は背後を振り返る。
暗がりの中から誰かがこちらに歩いてくる。
暗闇の中から月明かりの陽だまりの中に少しずつその姿を滑らせる。

その人物の足元から、ゆっくりと舐めるように光が照らす。様々な色の光が夜のカーテンを切り裂く。
そいつが俺に声をかける。

「人間の昆虫標本みたいね」
パワーワードの分類の一つ目は、通常ありえない主語と述語の組み合わせ。

その人物は戸惑う俺に、
「大丈夫?」
「いや大丈夫じゃない」
俺は爆ぜる物を抑え込み、口腔から声を絞り出す。

何かが胸の中でちぎれそうになる。


パワーワードの分類の二つ目は、矛盾する一文。

パワーワードを聞くと、俺の体の傷が完治して、文字通り大丈夫になった。

右腕がわ」
その瞬間、何事もなかったかのように無くなっていた右腕があった。

左足がわ」
左足もいつの間にか俺の体にある。


「俺を助けてくれるのか?」
俺の喉から震える声が溢れる。それは消え入りそうな風の音ほど小さかった。

「うんっ!」
その人物は俺の頭を力いっぱい撫でてくれた。

いつか俺がそうしたように。
手の平から伝わるものは暖かくて優しくて嬉しいものだった。

「ありがとう」

俺の瞳からは大粒の涙が溢れていた。
涙はステンドグラスの光をその身に宿し、星のように輝く。大きな涙の粒は光を放ちながら俺の頬を切っていった。



パワーワードの分類の三つ目は、その人の人生において重要な役割を持つ言葉。

そして、


『パワーワードを感知しました。ケンとの能力が向上します』


月日が流れ大きく大人に成長したアリシアはとても美しかった。
最初に見た時と同じように綺麗なプラチナブロンドの髪。

蜂蜜色の瞳は火花を放つ。力強くも優しい表情は、勇気の塊。

月光はアリシアの髪の毛にぶつかって砕ける。

残光が俺たちの姿を闇中から切り取って浮かび上がらせる。

それはまるで地上の星が空を照らしているみたいだ。
浮かび上がるのは希望の炎。

目も眩むほどの眩い勇気が夜の中に光の陰を落とす。

俺たちの躯体は、炎でびしゃびしゃに濡れている。

夜の空は光に燃やされる。
空気が音を立てて弾ける。風が体温を放つ。

空気中の水分は一斉に瞬く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...