この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜

大和田大和

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四年前の回想

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俺はアリシアの蜂蜜色の瞳をまっすぐに見つめる。綺麗な美眼に俺の顔が反射している。
『アリシア。俺、いないお前に届かない手紙を書いていたんだ。
でもいつも書くことが浮かばなくなるんだ。
きっと会えば何か言いたいことが見つかると思っていた。
でも浮かぶはずの何かは浮かばない』

そう言おうと思った。なぜならパワーワードは矛盾する一文でなければならないから。

だけど、俺の口から出たのは、
「アリシア。お前がいなくなってから俺はずっと一人ぼっちだったんだ。
友達はみんな死んで、心が引き裂けそうだった。
辛かった。苦しかった。お前はこんなに辛い人生を送っていたんだな。
俺は耐えられなかった。本当に地獄だった。
一人ぼっちがこんなに辛いなんて思っていなかった」

俺の口から出たのは、矛盾も何もない普通の文章だった。
あれだけ何も思い浮かばなかった手紙の続きは、次々と頭の中に連なっていく。

堰き止めていた何かが壊れて、決壊したダムのように手紙の続きが描かれる。

「ずっと消えちゃいそうだった。ずっと一人で泣いていた。
いつも強がって、いつも体が壊れそうだった」
俺はこの世界で常にパワーワードを求めていた。

だけど、今だけはそのまま素直な本音が俺の口から飛び出た。矛盾しない一文は俺に力など与えない。

「今は平気よ。だってあなたが私を孤独から救い出してくれたでしょ?」
俺は俺がこの世界に来た日を思い出した。記憶のない俺がアリシアと会った日。

「さあ戦いましょう。私とケンが勝って終わりにするの!」
「その前に、今までどこにいたんだ?」

「それもそうね。ならケン。よく聞いて、あなたは今から
そして、俺の脳裏にアリシアの記憶が映像のように浮かんだ。



[四年前 アリシア視点]

この映像は四年前のもの。ちょうど私がケンの前から消えていなくなった日。

あの日の記憶をケンに見せている。

目の前の椅子でできた家が煙を吐きながら燃えている。
私はあの時の炎の色を忘れない。ウルフに家を燃やされて、私の友達をたくさん失った日。

辛かった人生の辛い記憶の一ページ。

私はケンのそばに行き、彼の頭を優しく撫でた。いつかケンが私にそうした様に。
「俺のことを慰めてくれるのか?」
「ええ」
「ありがとう」
「お礼なんていいのよ。だって私たちは友達でしょ!」

その瞬間、。まるで惑星の自転を止めて、地表を氷漬けにしたみたいだった。

世界中の人の動きが全て止まっている。

「え? ちょっと何これ? ケン? 聞こえている?」
私はケンの眼前で手の平をヒラヒラさせてみた。

だけど彼の瞳は何も見えていないかのようにただ一点だけを見つめている。
「一体何がどうなっているの?」
私は、止まった世界で独り言つ。

そして--
、お前は今存在していないんだ」

「誰っ?」

周囲を見渡しても誰もいない。
「僕はアリのお友達だよ」

「姿を現してよっ!」
私は空気に向かって声を投げる。

「無理だよっ! だって僕だから!」
「どういうこと? あなた一体誰なの?」

「まだ思い出せない? 小さい頃一緒に遊んだろ?」
「私に友達なんてずっといなかったわ。あの、その、ぼっちだったから」

「いいや。僕はアリの友達だよ。僕はいつも君と一緒にいた。いつも君のそばにいた。だってした」


私はかつての自分の台詞を思い出した。
「いいわよ! 私の特技は、なんでも食べられること! 
趣味はを頭の中に描いて一日中おしゃべりすること! 
私、と遊ぶことに関しては誰にも負けないわ! 
その子と取っ組み合いの喧嘩だってするんだから!」


私は止まった世界の中心で心臓が止まったような気がした。
「まさか?」


「そう。だよ」


あり得ないなんてあり得ない。

そんな矛盾する言葉をこれほど強く実感した日は生まれて初めてだった。



「でも、そんなはずはないわ! だって--」
私が何か言おうとすると、
「いいや。この世界だとなんでもありだ。それより早く本題に入ろう」

「待ってよ。私まだ頭が混乱しているんだけど」
「それでもこれは事実だ」

それから私は自分の頭を必死で回転させた。
だけど答えらしい答えは思いつかない。
だから自分の直感に従うことにした。
「ええーい。わかったわ。とりあえずあなたのことは信じてみるわ。それで? 私に何の用なのよ?」

「君は四年後に死ぬ。ウルフに殺される」
「それは事実なの?」

「ああ! 事実だよ。君とケンは何度もウルフと戦う。そしてその決闘の果てに君は死ぬ」
「ということはあなたは私を助けてくれようとしているの?」

「その通り。決闘は僅差でケンが負ける。だから君には四年間の間姿を隠して欲しいんだ」
「隠してどうなるの?」

「相変わらず鈍いな~。これだからよう卒は!」

「よう卒って言うな!」
私はムッとして言い返した。こいつケンみたいなことを言う。

「ははは。ごめんよ。ちょっとからかってみたくなって」
「それで隠してどうなるのよ?」

「ケンを孤独の地獄に突き落とせ」
空想の友達の口調が変わった。

「え?」
「アリシアがいなくなれば、ケンの人生をめちゃくちゃにできる。
ケンを孤独の地獄にぶち込んで、たっぷり苦しめてからお前がケンを助けるんだ。
かつてお前がケンに孤独から救われたように」


私は過去の辛い記憶を思い出した。
ずっと一人ぼっちだった。
心が引き裂けそうだった。辛かった。苦しかった。ずっと消えちゃいそうだった。

ずっと一人で泣いていた。

いつも強がって、いつも体が壊れそうだった。
もうあんな思いはしたくないし誰にもさせたくない。
絶対にケンをあの地獄に突き落としたくない。
そして、
「わかった。!」


「いいんだな?」
「うん! 私もあの地獄にもう一度戻る! 
そして、限界まで最悪の人生にして、そこからパワーワードを使って人生を変える!」

「でもどうして俺のことを信じてくれるんだ?」
「それはね----」
そこで、アリシアの記憶は一旦途切れた。
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