23 / 260
届かない手紙が届いた
しおりを挟む
[アリシアの記憶 傍観者視点]
続いてアリシアの記憶に浮かんだのは過去の俺の姿だった。
どうやら俺は、過去の俺の映像をアリシアの記憶を交えながら見ているようだ。
きっとこれから俺の中の記憶が、アリシアの記憶によって補完されるのだろう。
過去の俺は、机に向かうとロウソクに火を灯し卓上に置いた。
その横にはなんと空想状態のアリシアがいる。
半透明で透き通っているが間違いなくアリシアだ。
「アリシアに手紙でも描くか」
(これは、俺がさっき手紙を書いていた場面だ。アリシアもあの時俺の部屋にいたのか?)
過去の俺はテーブルに出しっぱなしになっている白い紙に、筆を走らせた。
「アリシアへ。俺はたまにアリシアのことを頭に浮かべる。
だけど、俺の頭の中にいるアリシアは俺に何も喋りかけてくれない。
だからこうして手紙を書くんだ」
その手紙を過去の俺が書いている間、空想状態になったアリシアが手紙をじっと横で見つめている。
(信じられない)
宛名しか書かれていない不思議な手紙を見つめながら過去の俺は、
「こうすると、届かないはずの手紙が届いた様な気がするんだ」
と、一人で言った。
その姿は触れれば壊れてしまいそうなほど脆かった。
もう見ていられなかった。
孤独という圧力にぐちゃぐちゃに押しつぶされたような姿だった。
そんな過去の俺に、
「手紙なら届いているわ」
と、アリシア。
「ケンに聞こえていないのはわかっている。だけど、ケンが聞いているような気がする」
(ああ。ちゃんと聞こえているよ)
しばらく過去の俺はペンを走らせると、突然手を止めて、
「またか」
どうやら頭に何も思い浮かばなくなったらしい。
それを見て、アリシアは、卓上のロウソクに手をかざす。
「炎よ踊れ!」
窓から差し込む光のような風ではなく、空想状態のアリシアがろうそくの火を揺らす。過去の俺は踊る炎を見て、
「アリシア。お前に会いたい」
「ええ。私も会いたい。不思議ね。
こんなに近くにいるのに。
会っているのに会えない。
でももうすぐ会えるような気がするわ」
矛盾する一文とともに、アリシアの記憶は完全に途切れた。
[現在]
アリシアがこの数年間何をしていたかわかった。
ずっと俺と同じように孤独に耐えていたんだ。
今日のこの日のために。
今日、俺たちが勝てないウルフとの戦いに勝てるように。
パワーワード(たった一言)で人生を変えるために!
月明かりはもう随分と弱くなっている。
黒い闇を夜明けが舐めていく。
俺たちの周囲は完全にウルフ達に囲まれていた。
ウルフは先ほどと同じように分身を使い、俺たちのことを包囲していた。
絶体絶命のピンチだ。
「アリシア?」
「なーに?」
「絶体絶命だな」
「そうね!」
俺とアリシアは剣を構える。
真っ直ぐにウルフの方を向く。
ウルフが警戒しながらにじり寄る。朝焼けが俺とアリシアの姿をくっきりと照らしだす。
ウルフはその姿を見て、
「お前らイかれているのか? この状況でなんで笑ってイヤがる?」
朝焼けが俺たちの体に刺さる。
「「人間は、人生のどん底を知っているから必死で這い上がろうとするんだよ」」
俺とアリシアは高らかに言い放つ!
「絶対に勝てない戦いに勝つ!」
太陽が地平線からその姿を現した。
「不死身を殺す!」
もう夜の闇は消えて失せた。
「不可能は可能だ!」
惑星の表面を陽の光が舐めていく。
「不利は有利よ!」
暗い影は一つ残らず焼きつくされた。
「百パーセント勝てない戦いで勝つ!」
欠けら程度の不安すらない。
「勝率零パーセントの状態で勝つ!」
陽の光は心をも温める。
「負けても勝つ!」
光が星を飲み込む。
「死んでも勝つ!」
二つの孤独は互いのことを抱きしめ合う。もうそこには苦しみなんてない。
「「絶対に勝つ!」」
『パワーワードを感知しました。ケンとアリシアの能力が大幅に向上します。これにより能力は上限に達しました。これ以上の強化は望めません』
そして、ウルフの分身達が一斉に襲いかかる。
「アリシア!」
「がってん!」
続いてアリシアの記憶に浮かんだのは過去の俺の姿だった。
どうやら俺は、過去の俺の映像をアリシアの記憶を交えながら見ているようだ。
きっとこれから俺の中の記憶が、アリシアの記憶によって補完されるのだろう。
過去の俺は、机に向かうとロウソクに火を灯し卓上に置いた。
その横にはなんと空想状態のアリシアがいる。
半透明で透き通っているが間違いなくアリシアだ。
「アリシアに手紙でも描くか」
(これは、俺がさっき手紙を書いていた場面だ。アリシアもあの時俺の部屋にいたのか?)
過去の俺はテーブルに出しっぱなしになっている白い紙に、筆を走らせた。
「アリシアへ。俺はたまにアリシアのことを頭に浮かべる。
だけど、俺の頭の中にいるアリシアは俺に何も喋りかけてくれない。
だからこうして手紙を書くんだ」
その手紙を過去の俺が書いている間、空想状態になったアリシアが手紙をじっと横で見つめている。
(信じられない)
宛名しか書かれていない不思議な手紙を見つめながら過去の俺は、
「こうすると、届かないはずの手紙が届いた様な気がするんだ」
と、一人で言った。
その姿は触れれば壊れてしまいそうなほど脆かった。
もう見ていられなかった。
孤独という圧力にぐちゃぐちゃに押しつぶされたような姿だった。
そんな過去の俺に、
「手紙なら届いているわ」
と、アリシア。
「ケンに聞こえていないのはわかっている。だけど、ケンが聞いているような気がする」
(ああ。ちゃんと聞こえているよ)
しばらく過去の俺はペンを走らせると、突然手を止めて、
「またか」
どうやら頭に何も思い浮かばなくなったらしい。
それを見て、アリシアは、卓上のロウソクに手をかざす。
「炎よ踊れ!」
窓から差し込む光のような風ではなく、空想状態のアリシアがろうそくの火を揺らす。過去の俺は踊る炎を見て、
「アリシア。お前に会いたい」
「ええ。私も会いたい。不思議ね。
こんなに近くにいるのに。
会っているのに会えない。
でももうすぐ会えるような気がするわ」
矛盾する一文とともに、アリシアの記憶は完全に途切れた。
[現在]
アリシアがこの数年間何をしていたかわかった。
ずっと俺と同じように孤独に耐えていたんだ。
今日のこの日のために。
今日、俺たちが勝てないウルフとの戦いに勝てるように。
パワーワード(たった一言)で人生を変えるために!
月明かりはもう随分と弱くなっている。
黒い闇を夜明けが舐めていく。
俺たちの周囲は完全にウルフ達に囲まれていた。
ウルフは先ほどと同じように分身を使い、俺たちのことを包囲していた。
絶体絶命のピンチだ。
「アリシア?」
「なーに?」
「絶体絶命だな」
「そうね!」
俺とアリシアは剣を構える。
真っ直ぐにウルフの方を向く。
ウルフが警戒しながらにじり寄る。朝焼けが俺とアリシアの姿をくっきりと照らしだす。
ウルフはその姿を見て、
「お前らイかれているのか? この状況でなんで笑ってイヤがる?」
朝焼けが俺たちの体に刺さる。
「「人間は、人生のどん底を知っているから必死で這い上がろうとするんだよ」」
俺とアリシアは高らかに言い放つ!
「絶対に勝てない戦いに勝つ!」
太陽が地平線からその姿を現した。
「不死身を殺す!」
もう夜の闇は消えて失せた。
「不可能は可能だ!」
惑星の表面を陽の光が舐めていく。
「不利は有利よ!」
暗い影は一つ残らず焼きつくされた。
「百パーセント勝てない戦いで勝つ!」
欠けら程度の不安すらない。
「勝率零パーセントの状態で勝つ!」
陽の光は心をも温める。
「負けても勝つ!」
光が星を飲み込む。
「死んでも勝つ!」
二つの孤独は互いのことを抱きしめ合う。もうそこには苦しみなんてない。
「「絶対に勝つ!」」
『パワーワードを感知しました。ケンとアリシアの能力が大幅に向上します。これにより能力は上限に達しました。これ以上の強化は望めません』
そして、ウルフの分身達が一斉に襲いかかる。
「アリシア!」
「がってん!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる