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切腹
しおりを挟む人質は、俺の知っている竜だった。
「うわあああああん! ママー! 怖いよー」
「さっきの子竜」
アルとアリシアが見つけられなかったあの子竜だった。俺に太陽の仕組みを聞いてきた子供だ。どこにもいないと思っていたけど、まさか人質になっていたなんて。
「さあ! これで再逆転だな!」、「この子竜の解体ショーを見たくないのなら降伏しろ! この世界では力がすべて! 勝てばいいんだよ!」
「このクズやろうめ」
「さっさと降伏しろ!」、「ほら! チビちゃんが死ぬぜ!」
先代の竜王は子竜の翼を片方千切った。べチャリ――むしり取られた翼は地面に投げ捨てられてピチピチ動いている。
「うわああああん! 痛いよぉおおおお。助けてぇ!」
子竜は血を撒き散らしながら悶えている。
「わかった。その子供を離せ! 竜状態解除」
俺は水の剣を捨てて、人間の姿に戻った。もう俺に勝ち目はない。
「そうだ! それでいい」、「そのまま自分の右腕を切りおとせ!」
先代の竜王はにやけづらで言い放った。
「なんだとっ?」
「早くしろっ!」、「早くしろっ!」
先代の竜王はさらに子竜を痛めつけようとする。俺の額を滝のように汗が落ちる。
少しだけ言葉に詰まった後、
「わかった。その代わり、他の誰にも手を出すな」
「いいだろう」、「いいだろう」
俺は左手で水の剣を精製。
そして、右手を切り落とした。
肩口からは滝のように血が流れる。早く治療をしないともう腕がくっつかなくなる。
頭がぶっ壊れるくらいの激痛が走った。脳髄が痛みの中で沸騰している。
骨髄がドロドロに溶けて、こぼれてしまいそうだ。
先代の竜王は、さらに残酷な要求を俺に求めた。
「次は左足だ!」、「次は右耳だ!」、「目を抉り出せ!」、「腎臓を引きずり出せ!」、「肋骨を掴んで取り出せ!」、「切腹してみろ!」
そして、俺はそれらすべてを受け入れた。地べたには血と肉の海ができていた。
「ヒャヒャヒャッヒャ! これでもうお前は終わりだ」、「さあ、小僧を殺したら、竜王を殺しに行こう。そして、俺の復讐が始まる。この国の竜を皆殺しにする!」
「なん……だと?」
俺は朦朧とする頭のまま、口から声を絞り出した。
「当たり前だろ! この世界では力こそ全て。嘘も殺人も強ければ許される!」、「さあ! 小僧の体を踏み潰してやる!」
先代の竜王は大きく足を掲げた。世界が一瞬のスローに包まれる。もう俺に打つ手立てはない。万策尽きた。立ち上がる力も機能もない。
もうダメだと思った瞬間――
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