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矛盾

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額に蠢く青筋の束がピクピクと痙攣している。噴火寸前の火山のようだ。

胸元やスカートの裾から見える筋肉は流動しながら脈動している。
耳を凝らせば、筋肉から痙攣音が聞こえてきそうだ。

目はギラついて狂気を写している。まるで獲物をなぶる前の肉食獣のようだ。

((やべえ。調子に乗りすぎた。怒られるぞ!))

俺とアリシアは恐怖に全身を震わせた。極寒の中に佇む小鹿のようだ。
体にはビリビリと悪寒が走り、脳髄は灰色の液体のようなもので満たされる。



だがゴリアテの台詞は意外なものだった。
「どうもありがとう」
ゴリアテは深々と頭を下げて、俺とアリシアに感謝の意を示した。


「え? 怒るんじゃないのか?」
ゴリアテは顔をあげた。その瞳には、狂気ではなく涙が浮かんでいた。

「「どういうこと?」」

「あたち、ココちゃんがあんなに嬉しそうにしているの初めて見たでしゅ」
ゴリアテは顔をくしゃくしゃにしながら喜んでいる。

俺たちはココの方をもう一度見た。
先ほどは長い前髪で見えなかった表情が、その身を顕にしている。
その顔には“遠目では見えにくい小さな笑顔”が浮かんでいた。

「ココちゃんはものすごく恥ずかしがり屋なおかまちゃんでしゅ。
あたちのようなガタイのでかいおかまは虐められたり差別されることはほとんどないけど、ココちゃんのような子はそうもいかないのでしゅ」

「確かにクロコダイルってやつに突っ掛かられていたな」
ココは黙ってこくりとうなずいた。
「この世界は、自分らしくいられる世界。少数派の意見も尊重される。だから差別が増えてしまうのでしゅ」

“少数派の意見が尊重されること”によって差別が増長?

矛盾する文章は俺の頭に、疑問符を生み出した。植え付けられた疑問は、矛盾を理解しようとする。だが答えは出てこない。

「どういうことだ?」


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