この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜

大和田大和

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ジェットコースター

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俺は気を取り直して、大きく息を吸い込む。周囲の仲間たちの顔をひとしきり視線で触れると、
「じゃあみんな! 今から差別主義者の捕獲任務に当たる!」
「「「おーう!」」」
熱気が弾ける。

「どこにいるかもわからない差別主義者を見つけて、取り押さえる!」
「「「おーう!」」」
やる気の炎が空を揺らす。

「相手はパワーワード使い! おそらく激しい戦闘にもなるだろう! ここからは遊びじゃない! ふんどし締め直せっ!」
「「「おーう!」」」
勇気が不安の泥を乾かした。

「くれぐれも遊んだり、観光したりするなよ! 俺たちは仕事をしにきたんだ! 行くぞ!」



「「いやっほおおおおおおおおい!」」
ジェットコースターに乗る俺とアリシアは叫び声を上げる。
ジェットコースターは最高だ。観光といえばジェットコースター。異論は認めない。

車輪は廻る。感情もなく。悲鳴のような音だけを軋ませる。

乗っけているものを、ただ前へ前へと押し進める。
例え、頭上の客が、立ち止まっていたくても、後ろに戻りたがっても、永遠に前にだけ進み続ける。

そう、まるで時の流れのように。
ジェットコースターはまるで俺たちの人生そのものだ。
もしかしたらジェットコースターは俺の人生なのかもしれないな。

ジェットコースターはやがて、ミシミシと悲鳴を上げて止まった。
そして、ほんの少しだけ後ろに下がった。

これじゃ、俺がさっき“前位にだけ進み続ける。時の流れのように”って言ったのが台無しだ。

時は後ろには戻らないのに! でも、ま、いいや!
「ふいいいいい。怖かったわね!」
「そうか? 最高だっただろ!」
「ね! もう一回乗りましょうよ!」

「お兄ちゃんたち! そろそろ差別主義者の捜索に……」
「仕方がねえなあ! じゃああと一回だけだぞ!」



「「いやっほおおおおおおおおい!」」
俺たちの叫び声は、まるで赤子の産声。
自分がここに存在していると周囲に知らしめる声の矢。

まだ弱い自分には何もできない。だから他人に助けを乞う。

自分はここにいるんだ! 小さいけど存在しているんだ! 生きているんだ!
産声は、赤子の言葉。外界との唯一のつながりなのだ。

恐怖した人間は叫ぶ。まるで赤子のように。

しばらく走った後、ジェットコースターは停止した。
「私怖いのが癖になりそう!」
アリシアは半分恐怖。半分歓喜の表情を浮かべている。分割された心を無理やり縫い付けたみたいだ。
「な! もう一回だけ乗ろうぜ!」

「お兄ちゃんたち! そろそろ差別主義者の捜索に……」
「仕方がないわね! じゃあ後一回だけよ!」
と、言いつつアリシアはノリノリだ。


「「いやっほおおおおおおおおい!」」
ジェットコースターは楽しい。何度やっても最高だ。
何回でも乗れる。何度も乗れば恐怖や不安は薄れるかと思った。

だけど違った。乗るたびにリセットされるのだ。
恐怖に慣れることなどできない。まっさらになったページに新しく恐怖が描かれるのだ。

それはまるで悠久に砂浜の絵を消し続ける津波のようだ。
「いやあ。遊んだ。遊んだ」
「全くケンったらハシャギすぎよ!」
アリシアはぴょんぴょんと跳ね、はしゃぎながら言った。

「お兄ちゃんたちっ! いい加減に差別主義者の捜索に行きまちょう! いつまで遊んでいるんでしゅかっ?」
痺れを切らしたゴリアテが甲高い声を飛ばす。

「お! そうだったな。ゴリにココ! ごめんな。
俺もアリシアも生まれてから一回もこういうところに来たことがなくて……」

「舞い上がっちゃって本当にごめんなさい。ゴリちゃんのいうとおりそろそろ仕事に戻りましょう!」

「遊ぶのも観光するのもいいでちゅけど、やることを終わらせてからにしてほちいでちゅ!」
「わかった。わかった。今度こそ気を取り直していくぞ!」


「「いやっほおおおおおおおおい!」」
ジェットコースターは楽しい。何度やっても最高だ。何度でも乗れる。

その後、もう三回ほどジェットコースターに乗ってから、コーヒーカップに乗って、メリーゴーランドに乗って、射的をやって、綿飴を食べて、ショーとパレードを見て、お土産を買って、もう一回ジェットコースターに乗った。

「いやあ! 本当に最高ね! 私こんなに楽しいの生まれてから初めてよ! もーほんっとうに大・満・足!」
チュロスをかじりながらアリシアは満足そうに言った。

「ったくアリシアは本当に楽しそうだったな! はしゃぎ過ぎだぞ! 全く!」
俺は大はしゃぎで言った。

「ココちゃんも楽しかったわよね! ね! ね! ね! ね!」
アリシアは“大人しそうに佇むココ”を揺さぶって同意を求める。弱い人を強迫をするヤクザみたいだ。

「うん……とっても楽しかった……」

「嘘つけ! おい! ココ! アリシアに合わせなくてもいいんだぞ!」

「えー! 私がこんだけ楽しいんだから、ココちゃんも楽しいはずなのに!」
どういう理屈? っていうかココを揺さぶるのをやめろよ。
おかっぱヘアーがたんぽぽの綿毛みたいに飛んでいきそうだ。
「うん……私とっても楽しかった……」

ココは下を向いてボソボソと喋る。消え入りそうな声は、床に跳ね返って俺の耳に届く。

「絶対に嘘だろ! っていうかそろそろ――」

俺が言い切る前に、
「お兄ちゃんたちっっっっっ!」
巨体から咆哮のような大声を出すゴリアテ。
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