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えいりあん ばーさす ぷれでたー ばーさす わたし

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その時だった、突如大音量でライブミュージックが響いた。
爆音が夜空を駆け抜ける。
[キュウウウウウッ! なによ、この音はあああああっ!]

「こ、これは? アイドルの曲か!?」
白いエイリアンは、音に怯み私を離した。
両手で耳を押さえ、尻尾のアンテナを傘のように閉じる。

そして、黒い何かが現れ、白いエイリアンを突き飛ばした。
「ギギ! 来てくれたの! 逃げろって言ったのに……」
{きっと育て主に似たんだ……あいつは僕が、倒すから、夢叶は逃げて}

「何を言っている? 私も一緒に戦う」
{一番のアイドルになるんだろ? この戦いは、夢叶とは、関係が、ない}

「いや、もう一番じゃなくてもいい。私がアイドルになりたかったのは、誰かを笑顔にしたかったから。
数字を出したかったわけじゃなかったんだ」


その時だった。スマホに左京から着信があった。
【夢叶! スカイツリーの人に頼んで、音源を借りましたわ。たまたまどこかのアイドルがライブしようとしていたみたいで! ラッキーですわ】
「さっきの音楽はお前か。助かった! このまま通話状態にしてくれ」
【わかりましたわ】
私は、スマホを通話状態で胸ポケットに入れた。


{あいつは、僕のことを、追ってきたんだ、僕の責任だ}


「なら仲間の私の責任でもある」
私はギギの背中に飛び乗ると、トゲにしがみついた。
「目が見えてないんだろ! 私がギギの目になる!」

そして、体勢を立て直した白いエイリアンがこちらに突進してきた。
口から何本もの触手を出し、
「キュウウウウウウウッ!」

「くるぞ! 私が合図を出す! いいな!」
{でも、少しでも合わなかったら、殺される!}

白いエイリアンは、身体中の殺意を激らせ、剥き出しの敵意を飛ばす。
空気から伝わる振動が、死によく似た色をしていた。
一秒、一秒と、こちらに近づいてくる。

「大丈夫だ! お前はできる! 今までやってきたことを思い出せ!」
{目が見えている時ですら、失敗した! 僕には、できる自信がない}

白いエイリアンは、目の前まできた。
こちらを殺す気だ。
弾丸のようにこちらへ飛んでくる。
大気が震える。肌が恐怖で泡を吹く。

「誰だって最初から自信があるわけじゃない。
練習していくうちに、徐々に自信がついてくるんだ……さあ! 私たちの力を合わせるんだ!」
{分かった}

敵との距離は、もう5メートルほど。
はるかに巨大な白い怪物が、眼前に聳え立つ。
いつも見た光景だ。夢に向かおうとすると、何かが目の前に立ち塞がる。
それは、私が前に進んでいるからだ。

「最後まで一緒だ! 相棒っ! くるぞおおおおっ!」

そして、二体のエイリアンが衝突した。
激しい振動がスカイツリーを揺るがした。

巨大怪獣たちは、互いの手を掴み合い対峙する。

「左京! 私たちのライブ音楽をつけてくれ! それと、右京がいたらスカイツリーの上をライトアップするように頼んでくれ!」
【わかりましたわ】

「いくぞ! ギギ! 私とお前の! 『アイドル』と『エイリアン』の最後のライブだ!」


[バラバラにしてやるわ!]

――そして、何度も練習したライブの音楽が始まる。リズムに合わせて明滅するライト。
高鳴るハート。燃え上がる情熱が歌に乗って夜空を泳ぐ。
「エイトカウントで行く! 今までの練習を全て思い出せ! 勝つぞおおおおっ!」
「ゴギャアアアアアッ!」

「1、2、3、アンド4! 5、6、7、アンド8!」
ギギは私の指示に合わせて、ステップを踏む。
白いエイリアンを回転しながらいなし、弾き飛ばした。
敵は、頭からガラスに突っ込む。
[くそ! この耳障りな音を止めろおおおお!]
慣れない音と光で、敵は混乱し腕を周囲に振り回す。

「よし! 隙を見せたな! 二時の方向から回り込め! 今だ!」
――このまま地上に突き落としてやる!
ギギは右手を勢いよく叩きつけた。

だが、白いエイリアンに受け止められた。

[残念だったな! 私は感知タイプ! お前の居場所は。わかる! 視界を奪ったのが。仇になったな!]
白いエイリアンは、こちらにカウンターを繰り出す。
左手で空を切るほどの掌底。

「ギギ! 右にステップ1、2、今だっ!」
ギギは、カウンターをダンスステップで躱す。
――怪獣同士の戦いで、踊り出すやつなんてどこの宇宙にもいねーだろ!

[何いいいいっ! この眩しい光、お前たちも見えてないじゃないの? 私の攻撃が完全に見切られたわよ! なんなのよ、あの息のあったコンビネーションは……?]


――私は練習を思い出す。
【いいか? ギギ。ダンスは目でやるんじゃない。
全て体で覚えるんだ! 目でついて行こうとするから遅れる。
ダンスは感覚でやるんじゃない。繰り返し何度も踊って、馴染ませるんだ。
才能じゃない。繰り返した回数が多いやつが一番うまい。
一流のダンサーは目を瞑っていても、関係なく踊れる】

白いエイリアンは、尻尾のパラボナアンテナを広げると、こちらに向かって突進。
戦車をもひっくり返すほどの、勢いと人外のパワー。
「前から攻撃。バックステップ! そう! そこでターン!」
ギギは攻撃を避け、瞬時に敵の背後に回り込む。

「今だ! クワトロスピン!」
空中に飛び上がり、四回転ジャンプ。
夜空の中を舞うように、華麗なスピンを決めた。
鋭利な爪が、白いエイリアンの背中のトゲを切断。

白いエイリアンから、悲鳴のような声が溢れた。
「キュウウウウウウッ!」


「いいぞ! 今度は、左からくる! サイドステップ! 今っ! 屈んで! 下がって! 前にでろ! 今だっ! そこでドルフィン!」
ギギは合図に合わせて、踊り、回り、跳ねる。
敵の攻撃を全て見ずに躱し、肌に染み込んだ動きで敵を翻弄。
そしてかがみ込んだ後、宙返りを放った。
強靭な脚部が、白いエイリアンの扁平な頭部に直撃した。

だが、扁平した頭は砕けなかった。
――あそこは硬いのか? 

「ならそこは避けて、関節や腹を攻撃してやる!」
ギギは敵の周囲を踊りながら、弱点に激しい攻撃を加えていく。

線香花火が空を覆った。
火花の代わりに、色とりどりの血が空気を染め上げる。

白いエイリアンは、怯み
「キュウ! キュウウウウッ!」

「よし! いいぞ! 効いてる!」


――白いエイリアンは身を捩らせながら、
[くそ! この私があんな虫ケラどもにいいいいっ! どこへ行った! 音がうるさい! 光が眩しいっ! どこっ! どこへ消えたのっ?]

私とギギは、白いエイリアンの巨大な頭部に乗っていた。
「ここだ! 間抜け! ギギ! やれっ!」
[やめて! 来ないでえええええっ!]

そして飛び上がり、剣のように尖る尻尾の先端を頭部に突き刺した。

耳に齧り付くような破砕音が響く。
尻尾は眉間を貫き、中の臓器を破壊したのだ。
額と下顎からは、青い血がドバドバと溢れる。
[甘いな……! 私は頭部を破壊されても死なないのよ……!]

白いエイリアンは、不敵に笑った。
「私が狙ったのはそこじゃない。お前の心臓だ!」
――どこが弱点かわからないからな、一応二カ所の急所を攻撃した。
こうすれば、どちらかがダミーでも片方は通る。

ギギの尻尾が貫いていたのは、頭部だけではなかった。
頭部を貫通し、その下の胸の中心をも射抜いていたのだ。

[そんな……]
白いエイリアンは、その場で崩れ落ちた。

私は、ギギの背中から降りると、
「勝ったよ! ギギ! やった!」
「グギャギャギャギャ!」
私は、額をギギの頭にくっつけて抱きしめる。
ついに終わったのだ。

エイリアン同士の戦いに終止符が打たれた。
これで、私の夢を邪魔するものはもう何もない。
あとは、真っ直ぐ前に進むだけだ。

「よかった……ギギ、あなたはやっぱり悪者なんかじゃない……私の、いえみんなのヒーローだ!」

ギギが悪に堕ちなかった。そう選択したからだ。
ギギは、嬉しそうに尻尾を振り勝利の余韻を味わう。

その時だった――白い尻尾が私の体に巻き付いた。
「何いいいいいいいいいいっ!?」

白いエイリアンは起き上がり、再び立ち塞がった。
[惜しかったわね……心臓が無くなっても死なないのよ……!]

「くそっ!」

そして、懐から一つのエイリアンの頭部を取り出した。
[これが何か……いや失礼。誰かわかるかしら?]
――私は、白いエイリアンが何を狙っているのか瞬時に理解した。

「そんな! そんなあああああああ! ダメだ! ギギっ! 耳を貸すな!」
せっかく悪に堕ちなかったのに、
こんなに頑張ったのに――
いつも天は私の味方をしてくれない。いつだって運命は私の敵なんだ。
私がどれだけ頑張ったかなど気にも止めず、目の前に立ちはだかる。


白いエイリアンは、ニタニタと笑いながら、
[お前のママだよ? ほら!]
頭骨を投げて寄越した。

ギギは母の亡骸を掴むと、
{……ママ}

[もう死んでいるわ。私が食った]

それが引き金になった。

ギギの体が、みるみる膨れ上がり、さらに禍々しく進化し始めた。
大気が膨れ、逃げるように隠れる。
夜月が雲で顔を隠す。
割れた月光が、地面に砕けて空気を濁す。
「ヴヴヴヴヴウウウウウウ!」
トゲは、さらに長く尖り、
四肢の筋肉は膨らみ、筋繊維が剥き出しになる。
尻尾は、大剣のように鋭く尖り、月の下で笑っている。
もう最初の面影など影も形もない。完全な殺戮モンスターだ。

[ザ・プレデター、それがお前の種族よ! お前は凶悪な殺戮兵器なのよ! 他の種族と仲良くなれるわけないでしょ!]

「ギギ! だめっ! あなたが何の種族でも、それはあなたとは関係ない!」

[キュキュキュ聞こえてないわ……! それに。もうお前のことなど覚えていない……!]


[さあ! 理性を捨てるのよ! 体の奥の野生を解放しろ! そして、私と一緒にこの星の支配者になろう!]
白いエイリアンは、尻尾を伸ばす。ギギと尻尾を交わそうとしているのだ。
[お前と私が組めば、この星は我らのものよ!]

ギギは、決壊しかかっていた精神が壊れたのだろう。あんなに大好きだったママの頭骨を無造作にその場に捨てた。
「そんなあああっ! だめえええっ!」

[さあ! 私と共に。こいっ!]

だがギギは、その誘いを断った。

尻尾の先で相手を切り付けたのだ。

{僕は、みんなのアイドルだ、誰かを元気にするのが、僕の役目だ、ママもその方が喜んでくれる}




[チッ! どうやらお前を先に殺した方が良さそうだな……!]
白いエイリアンは、私をきつく締め上げる。
「かっ……はっ……!」

[今度こそ。もう諦めなさい!]

そして、私をスカイツリーから放り投げた。
そこは、上空634メートル。
地面に激突すれば、ペシャンコ。

{夢叶!}
ギギが私を助けようと前に出る。
[おっと! そうはさせない!]
だが白いエイリアンに上に乗られ、足を踏みつけられる。

もがいて出ようとするが、敵の方が体が大きい。
ギギは、
{こうなったら!}
尻尾の剣で、自らの左足を切断した。
「ゴギャアアアアアアアアアアッ!」
悲鳴が夜の闇に沈む。
血飛沫が、月光と混じり合う。
煌めく緑の宝石が、空中に霧散した。

そしてギギは、右足だけで地面を蹴って飛び上がる。

だが白いエイリアンは、その瞬間を見逃さなかった。
[隙を見せたなッッッッ!]
ギギは、白い尻尾で胴体を貫かれたのだ。
白い剣はギギの体内の臓器をいくつも潰し、反対側に飛び出た。


「ダメええええええええっ!」
空中で、ギギの体が止まる。
どう考えても致命傷だ。

ギギは大量に血を流しながら、弱々しく尻尾を私の方に伸ばす。
{夢叶……手を伸ばして!}
私は空中で、ギギの尻尾を掴んだ。


[これで終演だわね……]
白いエイリアンは尻尾を力一杯振り、ギギをゴミのように放り投げた。

一人のアイドルと一匹のエイリアンは、摩天楼から落ちていく。

落下しながら、
「これで私たちの負けか……」
{まだ、諦めるな……夢叶らしくない}


――何度目だろうか? 夢を追い始めてから、誰かに突き落とされたのは。
やっと少し登ったと思ったら、またすぐ叩きのめされる。
あの時、私はどうしたんだっけ? 私らしいってなんだっけ?
【どけ夢野! お前はアイドルにはなれない!】
「――私は絶対にどかない!」
そうだ、私はどかなかったんだ。

その後もそうだ。やっと目標に近づいたと思ったら、また誰かが邪魔をしてきた。
【衣装を切り刻んだのに、なんで諦めないのよ!】
「――私は絶対に諦めない!」
あの時も、私は挫けなかった。

それの繰り返しだった。
もうすぐゴールだ。そう思ったらまた最初からになる。
【何度でも蹴落としてやる!】
「――なら何度でも立ち上がってやる!」
それが夢を追うということなんだ。


=====
白いエイリアンは、空に雄叫びを放つ。
[あっはっはっはっはー! これで私の勝ちのようね! 邪魔者は消えた!]
そして、スカイツリーの展望台のガラスを破ると、小さい女の子を尻尾で掴もうとする。
だがその子の母親らしき人物が庇い、代わりに連れ去られた。
「ゆいちゃん! 逃げなさい!」
残された女の子は、まだ幼稚園児くらいの年齢。
母親を目の前で取られ、怖くて泣いている。
「うええええん……ママぁ!」

[勝利の祝杯でもあげようかしら。頭を割って、脳みそを啜ってやるわ! いただきます!]

頭の中でデジャブする。きっと私が小さい頃、私のお母さんもこうやって私を守ってくれたんだ。
自分の命を差し出して、私の代わりに食われた。

「待っててね。お母さん、今度は助けるから……!」

そして、夜の闇の中を流れ星が横切った。
次の瞬間、白いエイリアンの尻尾の中にその女性はいなかった。

[な、なにっ!? どこへ消えたの?]
白いエイリアンは、周囲をキョロキョロと見渡すと私とギギの姿を捉えた。
[何よ。その姿は? まさか、こんな短い時間でまた進化したの? ありえないわ……]

ギギの背中には、夜空を隠すほど巨大な2枚の翼。
四肢は、さらに流動的にシャープに尖る。
細い腕や脚に、蛇腹状の筋肉が浮き上がる。
鎧のように黒い甲殻を纏い、背トゲは剣のように鈍く輝く。
頭部には、緑に輝く光角。

ギギは落下の最中に、巨大な竜型エイリアンに進化したのだ。

どう生まれるか選べない、運で全てが決まる理不尽な社会。
そんな肥溜めに生まれたからこそ、どう生きるかが重要なのだ。

『私には無理だ』と、いつまでも惨めな気分に浸り続けるか、
『私はここにいる!』と声を高らかに叫ぶか。

その選択だけは、自分でできる。



ギギは、女性を子供の元へ帰す。
「ママ!」
「ありがとうございます!」

抱き合う親子の姿は、自分の姿に重なった。
だが幻は瞬く間に消えて、現実に戻る。
私の親は死んだ。背後を振り返ってももう返ってこない。

私は、前を向き直り、
「いくぞ! 相棒! あいつに勝つぞ! 二人の力を合わせるんだ!」

そして、終演曲の後のアンコールが始まった。



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