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 悪魔――。
 日本で生きていた私にとって、悪魔とはファンタジーの存在だけれど、この世界では違う。

 聖女と悪魔は対になる存在だ。
 聖女が祈り、土地を祝福することで悪魔は現れることはない。

 この世界に召喚されてそう学んだ、だから悪魔を召喚する祭壇のはずがない……。

 そう分かっていても、どうしてこの祭壇を見ていると恐怖を感じてしまうの?

 呆然と立ち尽くしていると、祭壇の方へ迷いなく足を進めるテオドア様に続いて足を動かした。

「これは…なんでしょうか」
「聖女を召喚する祭壇に似ていますが、少し違うようですね」
「テオドア様もそう思いますか?」

 私がこの世界に召喚された時、テオドア様もそこにいた。

 棺を避けて祭壇の机に近づくと、そこには空っぽの杯、ナイフや見慣れない物がある。

 これは何だろう?

 気になる物があって手に取って観察するが、見覚えある気がするが何か思い出せない。

「テオドア様、これは――」

 何ですか?そう聞こうと、テオドア様の方を振り返ると、テオドア様が棺の蓋に手を掛けていて目を見開く。

「何をしているんです!!」

 私の静止の声も虚しく、テオドア様は棺の蓋を開けた。

 この世界の主な遺体の埋葬方法は、日本の火葬ではなく土葬だ。

 遺体とご対面したくなかった私は、目をギュッとつぶった。

「ハル様、目を開けてください」
「嫌です!私はホラーは苦手なんです!!」
「大丈夫です。中身は空っぽなので」
「空っぽ……?」

 目を開けてチラッと棺の中を見ると、確かに棺の中に何も入っていなかった。

「他の棺も中には何も入っていないみたいです」

 次々と棺の中を確認するテオドア様の言葉に、私は困惑する。

「じゃあ、この棺は何のために……」

 棺は人間の遺体を入れる物。
 ここにある五つの棺達は何のために置かれた物なのか?

「遺体を入れるための物ではなく、他の目的のため……」

 テオドア様に助言を求めようと顔を上げると、どこからか音が聞こえた。

 私達が入ってきた入り口。階段の上から誰かが近づいてくる声が聞こえる。

 人に見つかったらまずい!私は兎も角、テオドア様が見つかったら大変なことになる。

 私が動くより早く、テオドア様は私を引き寄せた。

「テオドア様……!」

 テオドア様の胸に抱かれ慌てる私とは裏腹に、テオドア様は冷静に私の体を包み込み、素早く壁のくぼみへと身を潜めた。

 ち、ちかい……!!
 
「シッ。静かにしてください」

 動揺する私に、テオドア様は息を潜めて低い声で言った。

 息の掛かるほど近くにいるテオドア様に、私は目を見開いてコクコクと頷いた。

「問題なく進んでいるか?」

 さっきよりハッキリと聞こえる聞き覚えのある声に、私は耳を澄ませる。

「ご心配にはおよびません。滞りなく進んでいます」
「そうか。このまま進めてくれ」
「はっ!」

 地下にやって来た人達はしばらくの間、話しをした後、地下から出て行った。

 私とテオドア様は、話し声が去った後も動揺で話すことが出来なかった。
 
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