この想いは届かない

神崎 ルナ

文字の大きさ
2 / 8

2.

しおりを挟む
闇に生きるものは当然昼間は活動を止める。


『我が主』もその例に漏れず、陽が辺りを染める頃には地下に特別に設えた部屋で眠りにつく。




(やっぱり……)


分かってはいたが、誰もいない寝台にひとり残されるのは辛かった。


寝台から体を起こそうとすると体の奥が甘く疼き、思わず敷布を握りしめた。


行為の名残りに悩まされるのもいつものことなのだが。


(慣れない……)


甘噛みされた箇所から昨夜の記憶が蘇り、体を動かすのに暫くかかった。


そうやってようやく身を起こすと、後始末がほとんど終わっていることに気付かされる。


(あの人形達か……)


この館は広い。


幾ら俺が我が主から力を分けて貰っているとはいえ、ひとりで全てを切り盛りするのは不可能だ。


等身大のそれらは木や布で作られ、そこに我が主の魔力を加えて完成となる。


一見しただけでは人間と大差ない人形は我が主の魔力にしか反応しない。


(だから俺も魔力を分けて貰ったんだが)


再び夜の行為を思い返してしまい、体が反応してしまう。


(落ち着け、俺)


魔力を分けて貰うには何通りか方法があるらしいが、我が主は『この方が効率的だ』とそれ以外の方法を試してくれなかった。


前述したように彼らの食事は人間の血なのだが、噛みつかれた側の人間は酷い『飢餓』状態になる。


おもに夜の方面での。


恐らく彼らの牙か唾液に媚薬に似た成分でも含まれていたのだろうが、ただの村人だった俺にはその辺りはさっぱりだ。





男の(しかもごく普通の容姿の)俺なんか抱いて何が楽しいのか尋ねてみたことがある。


『お前の心臓の音は心地よい』


しごく楽しそうな声音だったけれど、そのくらいならどこにでもいるだろう。


(ただの処理か)


人外の生き物でもそういった欲はあるのだろう。



期待してはいけない。


俺は昔から一言多いらしい。


『あんたは黙ってなさい!!』


『余計なことは言うんじゃないっ!!』


『黙って頷いていればいいんだよ』


幼いころはそんなふうに怒鳴られるのが常だった。


(あの時もそうだったな)


思ったことをそのまま口に出して両親に怒鳴られて迷い込んだ森の奥。


普段なら絶対近付かないそこにまだ小さかった俺は迷い込み、そこで会ったんだ。


『迷い子か。いや……』


泥と落ち葉にまみれた俺を認めてひとりごちる存在が人ではないことはすぐに分かった。


(きれいすぎる……)



木々の影が落ちて濃くなった金の髪も、繊細な影を落とす睫に縁取られた青の瞳も、絶妙な均衡が保たれた美貌も、只人が纏うには難しいものばかりで。



声で男性だと分かってはいたが、それでも当時の俺にはとても眩しく映り、つい言葉が漏れた。



『きれい……』


目の前の玲瓏たる美貌の持ち主は驚いたように目を見開いた後、笑みを作ったようだった。


『我に堂々とそう言った人間はお前が始めてだな』


どこか楽しげに俺の顔へ触れ、


『まだ早いか。まあ急がなくてもよい。次、我に会ったら、名を呼ぶことを許そう。我が名は……』


いずれ迎えにくる、そんなことを言って消えた美貌の相手をただ待ち続けて。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

ストロボ

煉瓦
BL
攻めの想い人に自分が似ていたから、自分は攻めと恋人同士になれたのでは? と悩む受けの話です。

偽りの愛

いちみやりょう
BL
昔は俺の名前も呼んでくれていたのにいつからか“若”としか呼ばれなくなった。 いつからか……なんてとぼけてみなくても分かってる。 俺が14歳、憲史が19歳の時、俺がこいつに告白したからだ。 弟のように可愛がっていた人間から突然告白されて憲史はさぞ気持ち悪かったに違いない。 だが、憲史は優しく微笑んで初恋を拗らせていた俺を残酷なまでに木っ端微塵に振った。 『俺がマサをそういう意味で好きになることなんて一生ないよ。マサが大きくなれば俺はマサの舎弟になるんだ。大丈夫。身近に俺しかいなかったからマサは勘違いしてしまったんだね。マサにはきっといい女の子がお嫁さんに来てくれるよ』

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

上手くいかない恋の話

Riley
BL
友人の恋に嫉妬し軽はずみに悪口を言ってしまったーー。 幼なじみ兼、大好きなアイツ《ナオ》から向けられる軽蔑の目。顔を合わすことさえ怖くなり、ネガティブになっていく《カケル》。 2人はすれ違っていき……。 不器用男子×ネガティブ考えすぎ男子

伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き

メグエム
BL
 伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

処理中です...