この想いは届かない

神崎 ルナ

文字の大きさ
3 / 8

3.

しおりを挟む
 村の外れの森の奥に吸血鬼が棲みついたらしい。


狩人を呼ぶべきだ、いや退魔師の方がよい等混乱を極める村の人達を尻目に俺は興奮を抑えるのに苦労していた。


(やっとだ。やっと)


この九年間どれほどの思いで待ったことか。


あれ以来、俺の余計な一言を言う癖のようなものは鳴りを潜め、怒鳴られたり奇異の目で見られることもなくなった。


だけどあの鮮烈な記憶はずっと心に残り、あれ以来何を見ても心を動かされることはなかった。


(やっと会える)


噂を聞いて数日後の夜半、俺は村を出て森の奥へ向かった。


ぼんやりしたランタンの明かりだけを頼りに獣道を辿り、館が見えるというところまで来たときだ。



『このような所に何の用だ?』


冴え冴えとした月のように完璧な美貌。


(会えた)


九年ぶりの再会、と思っていたのは俺だけだったらしい。



『只人がこのようなところに来るとは。迷うたか? それとも』



我を倒しにでも来たか。


どこか楽しそうな口調に宿るのは絶対の自信。


そこには懐古の念など欠片もなく。


(ああ。俺は……)


無言でいた俺を何と思ったのか、


『お前は旨そうだな』


ランタンの明かりの奥に赤い目が映る。


『喰われたいのか?』


(俺は……)



俺は自分から首元を晒し、この美しい吸血鬼に身を投げ出した。






「すみません。こちらにいらっしゃるロンド卿へ言伝を頼まれたのですが」




ここは森の奥。吸血鬼の棲む館だ。


(こんなところまで来るなんてどんな人間なんだ)


吹き抜けの広間まで出て行った俺は相手を見て絶句した。


肩の辺りで揃えられた銀糸、透明感のある紫の瞳、繊細な硝子細工を思わせる少年が佇んでいた。


(これは……)


ある意味我が主とはいい対比になる美しさだと感じた。


「あの……」


少年が戸惑ったようにこちらを見上げた。

それはどう見ても使いを頼まれた人間の子供としか見えなかったが。


(どうする?)


我が主が起き出す時刻にはやや早い。


(見当違いだと言って帰した方がいいな)


少年の顔立ちを見たときから俺の心の奥底にある懸念が生まれていた。


(早く返さないと)


少年の無事を願うのなら、ごく普通の対応だろう。


だが――。


「何事だ?」


人形が知らせたのか、俺の背後から馴染みのある深く蠱惑的な声がした。


「これは我が君」


頭を下げながらも俺は落胆していた。



(もうここまでか)



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

おめでとうが言えなくて

まめなぎ
BL
祝えないのは、最低だからじゃない。 まだ手放せていないからだ。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね
BL
受けが攻めと恋人同士だと思って「俺の彼氏は真面目だからなぁ」って言ったら、攻めの様子が急におかしくなった話。

処理中です...