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村の外れの森の奥に吸血鬼が棲みついたらしい。
狩人を呼ぶべきだ、いや退魔師の方がよい等混乱を極める村の人達を尻目に俺は興奮を抑えるのに苦労していた。
(やっとだ。やっと)
この九年間どれほどの思いで待ったことか。
あれ以来、俺の余計な一言を言う癖のようなものは鳴りを潜め、怒鳴られたり奇異の目で見られることもなくなった。
だけどあの鮮烈な記憶はずっと心に残り、あれ以来何を見ても心を動かされることはなかった。
(やっと会える)
噂を聞いて数日後の夜半、俺は村を出て森の奥へ向かった。
ぼんやりしたランタンの明かりだけを頼りに獣道を辿り、館が見えるというところまで来たときだ。
『このような所に何の用だ?』
冴え冴えとした月のように完璧な美貌。
(会えた)
九年ぶりの再会、と思っていたのは俺だけだったらしい。
『只人がこのようなところに来るとは。迷うたか? それとも』
我を倒しにでも来たか。
どこか楽しそうな口調に宿るのは絶対の自信。
そこには懐古の念など欠片もなく。
(ああ。俺は……)
無言でいた俺を何と思ったのか、
『お前は旨そうだな』
ランタンの明かりの奥に赤い目が映る。
『喰われたいのか?』
(俺は……)
俺は自分から首元を晒し、この美しい吸血鬼に身を投げ出した。
「すみません。こちらにいらっしゃるロンド卿へ言伝を頼まれたのですが」
ここは森の奥。吸血鬼の棲む館だ。
(こんなところまで来るなんてどんな人間なんだ)
吹き抜けの広間まで出て行った俺は相手を見て絶句した。
肩の辺りで揃えられた銀糸、透明感のある紫の瞳、繊細な硝子細工を思わせる少年が佇んでいた。
(これは……)
ある意味我が主とはいい対比になる美しさだと感じた。
「あの……」
少年が戸惑ったようにこちらを見上げた。
それはどう見ても使いを頼まれた人間の子供としか見えなかったが。
(どうする?)
我が主が起き出す時刻にはやや早い。
(見当違いだと言って帰した方がいいな)
少年の顔立ちを見たときから俺の心の奥底にある懸念が生まれていた。
(早く返さないと)
少年の無事を願うのなら、ごく普通の対応だろう。
だが――。
「何事だ?」
人形が知らせたのか、俺の背後から馴染みのある深く蠱惑的な声がした。
「これは我が君」
頭を下げながらも俺は落胆していた。
(もうここまでか)
狩人を呼ぶべきだ、いや退魔師の方がよい等混乱を極める村の人達を尻目に俺は興奮を抑えるのに苦労していた。
(やっとだ。やっと)
この九年間どれほどの思いで待ったことか。
あれ以来、俺の余計な一言を言う癖のようなものは鳴りを潜め、怒鳴られたり奇異の目で見られることもなくなった。
だけどあの鮮烈な記憶はずっと心に残り、あれ以来何を見ても心を動かされることはなかった。
(やっと会える)
噂を聞いて数日後の夜半、俺は村を出て森の奥へ向かった。
ぼんやりしたランタンの明かりだけを頼りに獣道を辿り、館が見えるというところまで来たときだ。
『このような所に何の用だ?』
冴え冴えとした月のように完璧な美貌。
(会えた)
九年ぶりの再会、と思っていたのは俺だけだったらしい。
『只人がこのようなところに来るとは。迷うたか? それとも』
我を倒しにでも来たか。
どこか楽しそうな口調に宿るのは絶対の自信。
そこには懐古の念など欠片もなく。
(ああ。俺は……)
無言でいた俺を何と思ったのか、
『お前は旨そうだな』
ランタンの明かりの奥に赤い目が映る。
『喰われたいのか?』
(俺は……)
俺は自分から首元を晒し、この美しい吸血鬼に身を投げ出した。
「すみません。こちらにいらっしゃるロンド卿へ言伝を頼まれたのですが」
ここは森の奥。吸血鬼の棲む館だ。
(こんなところまで来るなんてどんな人間なんだ)
吹き抜けの広間まで出て行った俺は相手を見て絶句した。
肩の辺りで揃えられた銀糸、透明感のある紫の瞳、繊細な硝子細工を思わせる少年が佇んでいた。
(これは……)
ある意味我が主とはいい対比になる美しさだと感じた。
「あの……」
少年が戸惑ったようにこちらを見上げた。
それはどう見ても使いを頼まれた人間の子供としか見えなかったが。
(どうする?)
我が主が起き出す時刻にはやや早い。
(見当違いだと言って帰した方がいいな)
少年の顔立ちを見たときから俺の心の奥底にある懸念が生まれていた。
(早く返さないと)
少年の無事を願うのなら、ごく普通の対応だろう。
だが――。
「何事だ?」
人形が知らせたのか、俺の背後から馴染みのある深く蠱惑的な声がした。
「これは我が君」
頭を下げながらも俺は落胆していた。
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