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51.幕間――サウス帝国第二皇子 ②
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ユーリ、と名乗ったその子供は、髪こそここではよく見る黒髪だったが、身体の作りが甘く、この国のものではない血が入っているようだった。
(年の頃は、いっても十三、四といったところか)
十五前後でひとり立ちするものだから、もう少し大人びていてもいいはずなのだが、どことなく幼い印象を受ける。
(子供にしては肝が据わっている。どこの国の間者だ?)
だがそういった者にしては身のこなしが甘い。
(鍛錬を行わせた者の報告によると、体力もあまりないようだな。どういうことだ?)
妙な違和感はそれだけではなかった。
「ルドベキア公爵様が明後日の午後、面会を希望されておりますが、いかがなさいますか?」
側近のバルが聞いた時だ。
ユーリがびくり、と肩をびくつかせたのだ。
「ユーリ? どうした?」
「何でもありません。ご無礼を」
一礼するその様子には教育の賜物か、表向き動揺は見られない。
もちろん、そこで終わらせるつもりはない。
――後でよく聞いておけ。
バルに目線で指示を与えると、
――畏まりまして。
すぐに目礼が返ってきた。
ルドベキア公爵は、このサウス帝国の中でもかなりの有力貴族で、南のストロベキア公爵、北のルドベキア公爵と称される程には有名なのだが。
やり手ではあるが、あまりよくない噂も多い。
まあ大半はやっかみ半分もあるようだが。
(まさか、知っていたのか?)
知っていた方がよかろう、と大まかな貴族は教えてあるが、ルドベキア公爵家の詳しい内情までは教えていなかったはずだ。
話はここまでだ、と俺は頭を切り替え、次の書類へ目を通した。
「は? ここが物語の中の世界だと!?」
夜半、一通りの公務を終え、私室に戻って来た俺はバルからの報告を受け、思わず変な声を上げてしまった。
「おまけにこことは違う世界から来た、だと?」
あまりにも突拍子もない話に俺はユーリの頭の方を心配してしまった。
「大丈夫なのか?」
「恐れながらリンツ様のご懸念はもっともにございますが、ユーリの精神に外部からの干渉がされた様子はありませんでした」
(他国の者から強制的に間者にされた訳ではないのか)
まれにだが、何も知らない市民に暗示や精神魔法を掛け、一時的に間者にすることがあった。
その場合、捨て駒とされることが多いので、あまり後味がよくないのも事実だが。
(他国からの間者ではない。すると……)
「バル」
「はっ」
「埒が明かない。俺が直接話を聞こう」
幼い頃から周囲の建前と社交辞令に晒されてきたのだ。
一介の下僕位が何を言っているのかは、すぐに分かる。
そう思っていたのだが――。
「――という次第にございます」
目の前の下僕は頭を下げたままだが、その様からでも見当はついた。
(これは……)
バルの判断を疑った訳ではないのだが、話の内容が荒唐無稽すぎた。
「不本意だが、信じざるを得ないな」
――時は遡り、五十年程前。
栄華を誇るサウス帝国に生を受けたひとりの皇子と、南方の王女との恋物語。
互いの慣習の違いや、周囲の横やりなど、多岐に渡る困難を乗り越え、最後はめでたしめでたしで終わる物語。
その物語において最たる障害となるのが、彼の弟皇子と、とある公爵家の嫡男だった。
「……ルドベキア公爵の若い頃の色恋話なんて、聞きたくなかったかな」
現ルドベキア公爵家の当主は、今年で御年七十五歳になられる。
この物語の中では当然、若者(しかもかなりの美形らしい)であり、その王女へ幾度となく甘い台詞を……。
「リンツ様?」
「……いや、何でもない」
「お顔の色が優れませんが、何か上着を……」
そう言うバルの顔色も冴えなかった。
(あの矍鑠とした方が……いや、考えてはいけない)
「大丈夫だ。それより」
最初、俺を見た時思い切り睨んでくれたのは、その弟皇子と同じ名前だったから、とは。
「その節は誠に申し訳ありませんでしたっ!!」
床に腰を下ろして頭を床に擦りつけているのだが、これは?
「何をしているんだ?」
「すみません。これは向こうの慣習で『ドゲザ』と言って俺がいた国では最大級の謝罪、って言いますか……」
「……バル」
「畏まりました」
取り敢えずユーリにはもう少し、この国での作法をみっちり教え込んだ方がよさそうだな。
(年の頃は、いっても十三、四といったところか)
十五前後でひとり立ちするものだから、もう少し大人びていてもいいはずなのだが、どことなく幼い印象を受ける。
(子供にしては肝が据わっている。どこの国の間者だ?)
だがそういった者にしては身のこなしが甘い。
(鍛錬を行わせた者の報告によると、体力もあまりないようだな。どういうことだ?)
妙な違和感はそれだけではなかった。
「ルドベキア公爵様が明後日の午後、面会を希望されておりますが、いかがなさいますか?」
側近のバルが聞いた時だ。
ユーリがびくり、と肩をびくつかせたのだ。
「ユーリ? どうした?」
「何でもありません。ご無礼を」
一礼するその様子には教育の賜物か、表向き動揺は見られない。
もちろん、そこで終わらせるつもりはない。
――後でよく聞いておけ。
バルに目線で指示を与えると、
――畏まりまして。
すぐに目礼が返ってきた。
ルドベキア公爵は、このサウス帝国の中でもかなりの有力貴族で、南のストロベキア公爵、北のルドベキア公爵と称される程には有名なのだが。
やり手ではあるが、あまりよくない噂も多い。
まあ大半はやっかみ半分もあるようだが。
(まさか、知っていたのか?)
知っていた方がよかろう、と大まかな貴族は教えてあるが、ルドベキア公爵家の詳しい内情までは教えていなかったはずだ。
話はここまでだ、と俺は頭を切り替え、次の書類へ目を通した。
「は? ここが物語の中の世界だと!?」
夜半、一通りの公務を終え、私室に戻って来た俺はバルからの報告を受け、思わず変な声を上げてしまった。
「おまけにこことは違う世界から来た、だと?」
あまりにも突拍子もない話に俺はユーリの頭の方を心配してしまった。
「大丈夫なのか?」
「恐れながらリンツ様のご懸念はもっともにございますが、ユーリの精神に外部からの干渉がされた様子はありませんでした」
(他国の者から強制的に間者にされた訳ではないのか)
まれにだが、何も知らない市民に暗示や精神魔法を掛け、一時的に間者にすることがあった。
その場合、捨て駒とされることが多いので、あまり後味がよくないのも事実だが。
(他国からの間者ではない。すると……)
「バル」
「はっ」
「埒が明かない。俺が直接話を聞こう」
幼い頃から周囲の建前と社交辞令に晒されてきたのだ。
一介の下僕位が何を言っているのかは、すぐに分かる。
そう思っていたのだが――。
「――という次第にございます」
目の前の下僕は頭を下げたままだが、その様からでも見当はついた。
(これは……)
バルの判断を疑った訳ではないのだが、話の内容が荒唐無稽すぎた。
「不本意だが、信じざるを得ないな」
――時は遡り、五十年程前。
栄華を誇るサウス帝国に生を受けたひとりの皇子と、南方の王女との恋物語。
互いの慣習の違いや、周囲の横やりなど、多岐に渡る困難を乗り越え、最後はめでたしめでたしで終わる物語。
その物語において最たる障害となるのが、彼の弟皇子と、とある公爵家の嫡男だった。
「……ルドベキア公爵の若い頃の色恋話なんて、聞きたくなかったかな」
現ルドベキア公爵家の当主は、今年で御年七十五歳になられる。
この物語の中では当然、若者(しかもかなりの美形らしい)であり、その王女へ幾度となく甘い台詞を……。
「リンツ様?」
「……いや、何でもない」
「お顔の色が優れませんが、何か上着を……」
そう言うバルの顔色も冴えなかった。
(あの矍鑠とした方が……いや、考えてはいけない)
「大丈夫だ。それより」
最初、俺を見た時思い切り睨んでくれたのは、その弟皇子と同じ名前だったから、とは。
「その節は誠に申し訳ありませんでしたっ!!」
床に腰を下ろして頭を床に擦りつけているのだが、これは?
「何をしているんだ?」
「すみません。これは向こうの慣習で『ドゲザ』と言って俺がいた国では最大級の謝罪、って言いますか……」
「……バル」
「畏まりました」
取り敢えずユーリにはもう少し、この国での作法をみっちり教え込んだ方がよさそうだな。
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