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67.幕間――王の血筋④

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魔の森とやらに着いたら、意外な人物がいた。


桃色がかった金髪に黒縁眼鏡をしているから分かり辛いが、かなりかわいい女の人だ。



(へぇ。大賢者って奥さんいたのか)


ちょっとからかってやろう、と思った言葉があそこまで効くとは思わなかった。





「初対面の女性にあの言葉はないと思いますよ、カイン様」


げんこつを貰った後、お説教が待っていた。




見ていると大賢者はリリーがお気に入りらしく、リリーといるとゆるんだ顔になっていることが多い。



こそっと弓使いのセクトルに言ってみると、


「他には言ってはいけませんよ」


「え、まさかそんなに?」



てっきり乗ってくるかと思ってたのに。



(てか。マジで夫婦かよ)


その後、リリーとの馴れ初め(?)みたいなのを聞かされたんだけど、


「全く。火魔法が使えないからってあんな無茶をして」



いかに火魔法を使わずオークをやっつけたのか、楽しそうに話す大賢者。


(これって、のろけってやつ?)



それならさっさとくっついちまえばいいのに。


人生、何があるのか分かったもんじゃないんだから。



だからつい、からかっちまうんだけど、その度に拳が降ってきた。




(大賢者って武道派なのか?)











「まだお休みなられていいるようです」



宿の廊下から聞こえてくる声に耳を澄ませる。


『一応、確認するぞ』



弓使いともう一人(誰だ?)の声が聞こえ、俺は慌てて寝台へ戻った。


扉が開きかけたとき、


『お待ち下さい、お嬢様っ!!』


『この私が置いて行かれるなど、有り得ませんっ!!』



駆けるような足音。



『お嬢様っ!!』


『面倒だな。……仕方ない。足止めしておいてやるよ。賢者殿の頼みだしな』



『しかし……』



『あんた、あのお嬢様に命令されても逆らえるのか?』



『……』




『決まりだな。その間ここを頼む』


『すまない』








(ふうん、下町ってのはどこも同じだな)



俺は残った弓使いが廊下にいるのをいいことにこっそり窓から抜け出し(二階だったけど、この位ならなんとかなる)、あちこち見て回っていた。



(これは使えるか)



幾つか目星を付けて宿屋まで戻ると、



「お気は済みましたか」



(あれ、ばれてた)


圧のある笑みを弓使いに向けられ、


「すまなかった。少し外を見たくて」


「構いませんよ。賢者様からこの周辺位でしたら一度位は見せてもいい、と言われていましたから」



(それって二度目はない、ってことなんじゃ)



おっかねえ、とおののいていると、


「もう少し自重なさって下さい。カイン様はこのトレニア国の第一王位継承者なのですから」




(そんなの、俺の知ったことじゃねぇよ)



心の中に反発を押し殺して俺は頷いた。




「分かっている」




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